第21話
「うまっ、うまっ」
「ゆっくり食べるのじゃよ?」
「むしゃむしゃむしゃっ」
「全く話を聞いておらんなお主。いい度胸じゃ」
もしゃもしゃもしゃと、げっ歯類みたいに果物をかじっているツーピーを横目に頬杖をつく。
深夜にツーピーを完成させてから半日。
ちょっと前に野営地から出発していった勇者たちをいったん放置して、空間魔法でオーラ侯爵領の領主街へと転移。
その後、とりあえず幼児用の服や日用品、食料を用意した。
勇者たちのことはアカシックレコードでだいたいの行先を演算できているため、そうそう見失うことはない。
あとから追っても十分捕捉可能だろう。
というわけで、そんな事情もさることながら。
現在は三か月前もお世話になったこの街の公園のベンチで、お腹を空かせたツーピーのお食事中というわけである。
しかしこうして見ると、やはりなかなかの美少女ではないか。
さすがゴールド・ノジャーの遺伝子を受け継いでいるだけはある。
「そうか、美味いか」
「うまっうまっ」
「よしよし」
「くるしゅうないっ」
尊大な態度とは裏腹に、目を細めてとっても幸せそうに顔を蕩けさせる。
かわいいやつめ、そんなに俺のナデナデが気持ちいいか。
こいつめ、こいつめ。
ならば食事中ずっとナデナデの刑にしてやるっ。
俺は弟子をとったことがあっても、血のつながった家族をもったことはないので、こういうやり取りも新鮮だ。
多少、……いや。
思ったよりだいぶポンコツな性格だったものの、コミュニケーションはしっかりと取れているし、ツーピーを創造して正解だったな。
一方的にナデナデされながらもツーピーがニコニコしているのを見ていると、こっちまで幸せになってくる。
少しだけ世の中の親の気持ちがわかってきたかもしれない。
これが母性というやつなのだろうか?
う~ん。
なんかちょっと違う気もするが、まあいいだろう。
細かいことは気にしないことにしておく。
そうしてツーピーの身支度がある程度完了したところで、さっそく勇者たちの足取りを追うために再び転移。
以前までは存在を悟られぬよう姿を隠していたが、いまはちょっと新たな家族であるツーピーを自慢したい気分だ。
こっそりと後をつけ、勇者たちが恒例のように人助けに精を出し、盗賊と思わしき集団と戦っているところに乱入する。
というか、こんなに都合よく盗賊に襲われている人たちを助ける機会に恵まれるとは、さすがご都合主義の塊。
こちらとしては乱入する機会が得られていいけど、さすが勇者一行である。
「ようし、初陣にはおあつらえ向きの戦場じゃな。ツーピーよ、よく聞くのじゃ」
「なに?」
いや、そこで私忙しいんですけど、みたいな顔で食べ残しの果物シャクシャクしない。
行儀が悪いぞ我が子よ。
そんなに気に入ってくれたのはうれしいけど、悠長にしてると勇者たちが盗賊を殲滅してしまう。
まあ、食べながら突入しても何の危険もないほど強いからいいけどね。
「あそこに悪い盗賊たちがおるじゃろう? そして困っている人もいるし、抗っている人もいる」
「うん、いる。わたちには関係ないけど」
確かに関係はない。
鋭い指摘である。
さてはこいつ、けっこうドライな性格だな。
だがここでめげて、説得を諦めてはいけない。
これはツーピーのお披露目会なのだから。
「そのわる~い盗賊たちを、お主のパワーでぶっとばしてやりなさい。そしたら皆がお主のことを凄いヤツだと認めるじゃろう。どうじゃ? カッコいいじゃろう?」
「ふんふんふん」
自分の性能が発揮できる案件だと理解したのか、急にやる気になったツーピーが小さな拳を握りしめて首を縦に振る。
あっ、そこは素直に納得するのね……。
だんだんこいつの性格が分かってきたぞ。
まずツーピーは自分と他人を明確に分けていて、俺という例外はあるものの、基本他人には無関心だ。
しかしこと性能のアピールには敏感で、自分の能力の高さにはけっこうなプライドを持っているようである。
だから盗賊をぶっとばすと創造主である俺へのアピールにつながると思考が定まれば、これはイケると思ってやる気をあらわにするのだと思う。
そしてたぶんだが、プライドが高い反面、俺の目の前で自分の性能を虚仮にされるとキレやすい。
まあ、それもこれも俺への愛情があるからこそなので、悪い気はしないけどね。
親に褒めてもらいたい子供と同じ心理だ。
見てて分かったが、ツーピーは賢くはあるけど精神が子供なので、あまり我慢するのが得意じゃないっぽい。
そこが心配といえば、ちょっと心配かもしれないね。
「さあ征けツーピーよ! 盗賊たちにお灸をすえてやるのじゃっ」
「イェーーーーーーーー!」
やる気が限界突破し、奇声を発したツーピーがそのパワーを遺憾なく発揮したロケットスタートで盗賊たちに襲い掛かる。
見た目は幼女だが、土煙をあげて空気を震わす走行は迫力満点。
いまもいち早く奇声に気づいた勇者たちが何事かと凝視して、バックステップでとっさの回避行動をとるくらいだ。
……で、結果どうなったかというと。
ズドーーーーーーーーンッ!
そんな擬音が響き渡ると同時。
途中でコケて地面にクレーターを作ったツーピー爆弾が石礫となり、そこらへんの盗賊たちをなぎ倒していく。
その光景はけっこう悲惨で、コケて一番ダメージが深いはずの幼女は完全な無傷であるのにも関わらず、呆気にとられていた盗賊たちは石礫に貫かれて死屍累々であった。
勇者たちは距離をとっていたため無事だったが、あまりの出来事に開いた口が塞がらないようだ。
そして盛大にコケたにも関わらず、盗賊たちが倒れているのを見てやることをやったと認識したツーピーが、のそりと起き上がって勝利のガッツポーズを決める。
「勝った……」
「うむ。大勝利じゃな」
どこからどうみても圧勝だ。
多少過程は過激だったが、ありったけの性能を活かしたよいパフォーマンスであった。
運動音痴なのはこの際みないことにする。
そして、いまさらながらにゴールド・ノジャーの存在にも気づいた冒険者たちが、なんだお前の仕業かぁ~みたいなノリで納得の表情を讃えたのであった。
ただ一人、勇者だけは「げっ、またコイツが現れた!」みたいな顔してるけども。
「ちょ、ちょっと、なんなんですかこの幼女は!」
「わたちはツーピー・ノジャーなの」
「ノジャーさん、まさかあなたの親戚ですか!?」
「うん。大事な家族よ」
「こんな運動音痴を乱入させたら危ないでしょう」
「そんなことはない。わたちは結果を示したっ」
「ノジャーさんっ! このポンコツ幼女をいますぐ回収してください! 危なくて近寄れません」
「ぐぬぬぬぬ……」
などなど。
かみ合っているようで、全くかみ合ってない会話が繰り広げられる。
ツーピーは自己主張したいみたいだが、あいにく勇者ノアが話しかけてるのは俺である。
しかも最終的にポンコツ呼ばわりしてしまったため、プライドを傷つけられたツーピーが頬を膨らませて地団太を踏み始めてしまう。
ああ、これはやばい!
あいつ、完全にお怒りモードだっ!
いまも怪力から発せられる地団太で、クレーターがひび割れて人為的な地震まで起き始めている。
どうどう、落ち着けツーピー!
結果が全てだよ、お前はよくやったよ!
その荒ぶる御霊を鎮め給えっ!
「どうどう。ナデナデナデナデ」
「ふぅーーーーっ」
あ、収まった。
やれやれ、といった感じで肩をすくめているので、ようやく機嫌を回復させたようである。
どうやらいま勇者が行った批判は、大人げない子供の嫉妬であると認識したっぽい。
きっと内心、私は大人なのよとか思ってそう。
さて、勇者一行へのお披露目会。
もといファーストコンタクトは終了した。
ここから先は、このゴールド・ノジャーが場を回収するとしようじゃないか。
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