第20話
勇者たちとレオン君が合流してから、翌日。
後をつけているのがバレないように、今度は気配の隠蔽だけではなく魔法による認識阻害まで併用し、完璧な尾行を実現している。
ちなみにこの一日で起こったことを細かく話すとキリがないのだが、それはもう濃密なトラブル続きだった。
いや、強敵が現れたとかそういう話ではない。
ボーイミーツガールのような青春ラブコメを送っている姿を幾度となく目撃し、それがトラブルになっているのを確認しているだけである。
一例を挙げるとすれば、勇者ノアがこっそりと夜に水浴びをしているかと思いきや、知らず知らずのうちにそれを目撃してしまったレオン少年がいたりとかそういうやつ。
ここで肝心なのは、レオン少年は勇者ノアの素っ裸を見てもなんとも思わなかったところである。
自分がやらかしてしまったことを自覚しつつも、動揺することなく真顔ですまないの一言と頭を下げて終了。
謝ってはいたのだが、それがあまりにも脈無しだったのが印象的だった。
こりゃあノアちゃんは前途多難だな。
乙女的に。
それにまあ、あれはただの事故だからね。
この世界を冒険をする上でこういう問題は避けて通れないし、旅をする冒険者の中で気にする女性は、実はあまりいなかったりする。
冒険者は比較的ドライな生き物なのだ。
むしろ赤面して取り乱していたのは勇者ノアのほうで、一人でキャーキャー黄色い声をあげて盛り上がっていた。
嬉しそうでなによりである。
とまあ、ことあるごとにこんな感じなのだ。
勇者のご都合展開補正がこれでもかと働いているようだが、こんなことにまで影響が及ぼされているとは、このゴールド・ノジャーですらもアカシックレコードで確認するまで気づかなかったほどだよ。
「ああ~。青春じゃのぉ~。……ひっく。儂は肉体的には美少女でも相手が男なんていやじゃしなぁ。けっきょく精神衛生上独り身でいるしかないっちゅうのに、はぁ~……。うらやまけしからん」
でもって、現在二日目の夜。
無人の大森林から北上しつつも聖国を目指す勇者たちを後目に、夜な夜な独り酒を楽しんでいるというわけであった。
いや、やっぱり楽しくはないかな。
できれば勇者たちの旅にしばらく混ざりたいが、どうしようかな~。
「う~む。独りは寂しいのう……」
…………。
…………せやっ!
孤独が嫌ならば、二人ならばいいんだ。
何を言っているか分からないと思うけど、つまりはコミュニケーションを取れる相手が傍にいるならば、それは人間である必要はないということだ。
それが仲間になった魔物でも、ホムンクルスでも、精霊でも、魔法生物でもいいんだよ。
つまり、いまから用意すればいいわけだ。
こうなったらもう俺の独壇場だ。
ありったけの知識をアカシックレコードからインストールして、魔法でなんかつくっちゃうぞ~っと。
はい!
インストール完了!
ではさっそく。
魔法でコネコネ、土をコネコネ。
設計図を元に泥人形をベースに型をとって、外皮に必要なタンパク質を注入~。
最後に人型の肉塊へと疑似人格となる高性能魔力回路を展開して、最高の生体素材であるゴールド・ノジャーの髪の毛を混入させたら……!
見事な幼女人形、もといホムンクルスの出来上がり。
ここまで作るのに三時間しか使っておらず、ホムンクルスを作るにしては早すぎるように思うかもしれないが、実はそうでもない。
なにせ肉体の設計図である魔力回路をアカシックレコードから、遺伝子情報を俺自身の髪の毛からコピーしてるだけだからね。
そりゃ早いよ。
俺は自分で研究してホムンクルスを誕生させたのではなく、アカシックレコードが用意したホムンクルス簡単作成知識の上で、テンプレートのものを作っただけなのだから。
ただまあ、こういった知識が記録されていたということは、世界のどこかでは誰かが既にホムンクルスを研究し、発明したということに他ならないんだけどね。
そこらへんの話はまたいずれってことで。
今はこの出来上がったゴールド・ノジャー2Pカラーをどうするべきかを考えなくては。
といっても美少女である俺よりもずいぶんと幼く、髪の長さも短く魔力膨大でもない。
だいたい七歳くらいかな?
外見上はそのくらい幼い。
能力はいわずもがなで、この世界のS級冒険者よりちょっと強い程度でしかないとのこと。
ただし設計図によるとコイツは魔法戦闘よりのタイプではなく、ゴリゴリの近接戦闘タイプ。
どこからどうみても華奢な身体に見えるのだが、肉弾戦を苦手とする俺のサポートも兼ねて作ったので、内部の構造は人間とは比べ物にならないほど強靭らしい。
「ふぅむ。まずは名前を決めんといかんなぁ」
名前、名前ねえ。
2Pカラーっぽくしたので、配色は金髪から銀髪へと変化している。
であるならば、そうだな……。
シルバーはちょっと男っぽいし、ここは2Pからとって、ツーピーにしておくか。
俺と
そういうことにしておこう。
ではそろそろ、この生まれてほやほやのツーピーちゃんに魔力を注入して、電源をオンに。
……ぽちっとな。
すると数秒後、ゆっくりとだがツーピーの瞼が開いていった。
コイツに搭載されているテンプレートの知能は、設計した魔力回路的には優秀なはずだが、性格までは設定していない。
そういうのはコミュニケーションをとっていくなかで、徐々に理解していった方が面白いだろうからね。
あえて空白のままにしたのだ。
とはいえいきなりS級冒険者を超えるパワーで暴走されても困るので、こちらの指示に従うようには作っておいたけどね。
「……どうじゃ? 成功か?」
「…………」
まあ、失敗してないことはアカシックレコードで確認してるので、成功に決まっているんだけども。
だが起動したばかりであるためか、なかなかツーピーが反応しない。
ぱちぱちと瞬きをしてこちらを凝視してくるので、ご主人様である俺のことを認識してはいるみたいなんだけどもね……。
するとしばらくして、じっとしていたツーピーがようやく動き出した。
「おおっ! 動いたのじゃっ! どうじゃ、儂のことが分かるか? 儂、ゴールド・ノジャー。お前、ツーピー・ノジャー。オーケー?」
「……ふぅ~。騒々しいのじゃロリなのよ。わたち困っちゃう」
「………………」
…………は?
はぁぁぁあああ!?
こ、こいつ……!
お、おおおお、おまっ、おまえっ!
なんのバグか知らないが、いきなりご主人様を相手にため息吐きやがった!
ていうか肩をすくめてヤレヤレみたいな空気だしてるし、なにこいつ、個性強すぎ!?
返品だ返品!
なんてもの作らせるんだよアカシックレコードさんよ!
主人への反逆に該当しないギリギリのラインで、思いっきりなめ腐ってるじゃんっ!?
「のじゃぁぁぁぁあああっ」
だが、返品はできない!
なぜなら別に性格が濃いだけで、悪いヤツじゃないらしいから!
そう設定したの覚えてるから!
というか、既に生まれてしまった生き物を、そんな理由で殺傷したら俺の倫理が壊れる。
「もしかちて、わたちを返品するのかしら?」
「いや、しないぞえ。お前はこれから儂の家族じゃ。宜しくのう」
「よろしくなのよね~」
こいつ、自分が返品されないと分かった上で肩をすくめてやがる。
己の立場を忘れたわけでもあるまいに、なんて度胸だ。
相手を見極めて実行しないと理解しているから、こんな強気な態度に出られるのだろう。
こう見えて実は相当賢いのかもしれないな。
いやあ、なんだか賑やかになったもんだ。
これからのマイライフが楽しみである。
まずはそうだな……。
「よろしくの握手、じゃな」
「よろちく~。……あっ」
「あっ」
ドスン。
そんな擬音が聞こえるレベルで、ツーピーがコケて思いっきり地面へとダイブした。
力加減を間違えたのか、ただコケただけなのに地面が陥没しているぞ。
……あれ?
こいつ、もしかしてパワーはあるけど運動音痴なのは親譲りだったりする?
……あれぇ?
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