第18話
黄金のバフがかかり、急激に肉体改造を終えた勇者や冒険者たちが、満を持して二本角を持つ魔族に襲い掛かる。
「クレア、膝を狙え!」
「任せて!」
リーダーである戦士ダインの指示が飛ぶ。
まず牽制として、弓使いのクレアが残り僅かとなった矢で敵の行動妨害を誘うが、以前の弓とは違い矢に込められた魔力と精度が段違いだ。
レーザーのように淡い魔力の光を伴って放たれた矢は、狙い通り魔族の膝に命中し動きを阻害する。
アカシックレコードによると、この程度の傷であればすぐに再生し、上級魔族にとって大したダメージにはならない。
だが大事なのは他の仲間たちが攻撃できる隙を作りだすことだ。
彼女本来の役目は大いに果たしていた。
「ないすぅ~。こうなったらもうアイツはただのカカシだね~」
そして続けざまに、移動速度が冒険者の中で一番高いリーサが片膝をついた魔族の両腕を切り落とす。
魔族とすれ違うように右の短剣で腕を一本、体を翻して左の短剣でさらにもう一本の合計二回攻撃。
バフの影響で全ての能力が向上し、筋力や二刀に込められた魔力が上昇しただけではなく、技の冴えまで進化したらしい。
だが魔族も負けてはいない。
一時的に動けなくなった瞬間にある程度のダメージを覚悟していたのか、最初から近接戦による勝利を捨てていたようだ。
リーサの攻撃をわざと生身で受け魔法を放つ時間を稼ぎ、起死回生の一手を捻出する。
そうして出来上がったのは、自爆魔法。
上級魔族は異様に再生力が高い。
故に、魔族にとっての心臓。
魔核とよばれる石が無事ならば、魔核に内包されている魔力を消費して肉体を再生することができるらしいのだ。
復活後は魔族として弱体化するらしいし、肉体を再生させるには十年単位の年月とかが必要になってくるらしいけど、それでも破格の能力だ。
つまり、この魔族はいまここで勇者さえ葬ることができるならば、自爆する価値も十分にあるというわけであった。
そうして出来上がった自爆魔法の光が、一直線となって戦士ダインの背に庇われている勇者を狙い撃つ。
どうやら戦士ダインごと攻撃を貫通させ、二枚抜きで射殺するつもりらしい。
「…………っ!」
「……大丈夫だノア」
だが、戦士ダインは動じない。
死の恐怖から、いまにも目を閉じてしまいそうになるのを堪え、息をのむ勇者ノアに比べて随分と冷静だ。
だが、それもそのはず。
なにせ二人のさらに後ろには、俺の結界魔法を見ただけで習得し、命を賭して彼らを救った信頼のおける大魔法使い、もとい極まった魔法オタクがいるのだから。
「勇者ノアは殺させぬよ。この吾輩の命と魔力がある限りはな」
自爆光線が届く瞬間。
復活したばかりだというのに活き活きとした魔法使いエルロンが、前方に結界の盾を作り出す。
盾となった結界は平面ではなく、光線と向かい合うような三角錐だ。
おそらく少しでも威力を散らすことを考えたのだろう。
まだ俺の技を見せてから一年と経っていないというのに、素晴らしい成長、魔法のアイデアである。
どうやら魔法使いエルロンには、魔法を戦闘で運用するセンスがあるらしい。
「す、すごい……!」
「驚いてる場合じゃないぞノア。自爆攻撃とはいえ、敵はまだ両足で立っている。……ギリギリだけどな。追い詰められて何するか分からなくなる前に、お前がトドメをさせ」
「は、はい!」
まだまだ新米の勇者だからだろう。
頼れる冒険者に導かれて半年ほどの勇者ノアは、魔法使いエルロンの絶技に魅了され、一瞬戦いのことを忘れてしまっていたようだ。
しかしその油断を戦士ダインがすかさずサポートする。
ご都合主義の塊である勇者には、その都合の良い展開をもたらす能力とは別に、魔族への特攻となる光の属性魔法を習得している場合が多いのだ。
もっとも、それも世界や神々が勇者に授けた、ご都合主義の延長なのかもしれないけどね。
その証拠として。
アカシックレコードで確認しても、光属性の勇者は過去に数多くいれども、別に何かそうならなければいけないルールがあるわけではないらしい。
つまり、たまたま魔王が他大陸から攻めてきたときに勇者が生まれて、たまたま光属性の魔法に適性があって、たまたま冒険者たちに導かれ危ない橋を毎回のように渡り切っている。
……と、いうわけなのである。
いや~すごいね。
もう運がいいとか、そういう次元を超えてるよ。
とにかくそういった理由から、光魔法を覚えた勇者は魔族にとって天敵足り得るのであった。
ただ、それはそれとして完全に出ていくタイミングを見失った。
完全に解決するまで見守っていたせいで、いまからのこのこ現れても空気がしまらないな……。
どうしよう。
……と、そう思ったところで、猛スピードで近づいてくる気配を察知する。
いや、嘘じゃないよ?
ゴールド・ノジャーの肉体は確かに脆弱だけど、アカシックレコードで魔法や武術の技能はインストール済みなのだ。
運動音痴ゆえ活かせるだけのスペックがないだけで、気配察知みたいな達人の技能も、運動能力と関係ない部分では有効に使えるんだよ。
でもって、この気配は確か……。
「大丈夫か、お前たち!」
「……あっ! レ、レレレ、レオン様ぁ!? どうしてここに!?」
俺の最初の弟子にして、勇者ノアの初恋の人。
いまやS級冒険者に昇格し、人類でも数えるほどにしか存在しない英雄と呼ばれる傑物になった、レオン少年であった。
「おいおいおい、黄金さんよ! 今回ばかりは、ちょいと来るのが遅いぜ!」
「そうだよ~ん。もう圧勝も圧勝よ~」
「嘘はやめなさいリーサ。この結果はどうみても、私たちの実力だけのものではないわ」
「然り。現に吾輩は命すら失う寸前のところで、太陽のように輝く奇跡の光を目の当たりにした」
口々に語り始める冒険者たち。
自分たちに起きた異変には、ある程度気づいているらしい。
このあと、右手にゴールド・ノジャーの紋章が浮かび上がっていることに気づいたらどう思うのか、ちょっと見てみたい。
「なに? 太陽のように輝く、奇跡の光だと……? まさか……」
何かに気づいたレオン少年が辺りを見回し、そして……。
────さてはそこに居ますね、神様?
ぐるんと振り返り、木々の陰に隠れていた俺と、バッチリ目が合うのであった。
やべっ!
み、みつかっちゃった……。
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