第9話
「なんだこれ、腕輪か?」
「うむ。それは儂が秘蔵しておいた、とある世界の伝説を模した神器みたいなものじゃよ」
神器というか、地球の
しかし知る人が知れば、ロマンはたやすく神器にもなるだろう。
この世界にそんな人はいないけども。
だがいきなり神器と言われてもピンとこないのか、魔法使いのエルロン以外は呆けた表情でバングルを観察するばかり。
まあ、これも想定のうちだ。
むしろ一人でもこの装備の異様さが分かる者がいただけで、少し驚いているくらいだよ。
「何か分かるか、エルロン?」
「分かるか、じゃないぞダインよ。こ、こんな物が本当にこの世に実在しているのか、己が眼で確認していてもなお疑わしい、そんな次元のアーティファクトだ! 吾輩とて初見で全容はつかめぬが……。悪しき者の手に渡れば、下手したら国が亡ぶ」
「そ、そんなにか!?」
魔法使いエルロンの解説により、口々に「嘘だろ……」とか、「ちょっとそれヤバイじゃん」とか騒ぎ出すが、これくらいの強化が無ければ彼らの中から犠牲者もでるし、なにより勇者に待ち受ける試練の人生に耐えきれないのだからしかたあるまい。
ちなみに運用を間違えれば国が亡ぶというのは言い過ぎだ。
しかし人類の中で高位の実力者である彼らが装備すれば、単騎で王城に乗り込んで王を殺害することぐらいはできるという意味では、タイミングによっては確かに国は亡ぶかもしれないね。
そのくらいの代物だ。
さて、それでは具体的な機能説明に移るが……。
変身装備というところから凡そ察している通り、バングルに魔力を通すとそれぞれの意匠に対応した武器防具衣装に身を包む、そんな魔道具である。
変身が起動すると、もともと装備していた服や装備は腕輪内部の亜空間に瞬時に収納され、代わりに俺がノリと勢いで作った武器と衣装が光の幻影と共に飛び出し装着される。
戦士シリーズなら剣盾鎧を装着した聖騎士のような荘厳な出で立ちを。
斥候シリーズなら双剣と真っ赤なマフラーを持つ、まったく忍ぶ気の無いビジュアル系忍者に。
弓兵シリーズならどこぞの戦姫のようなドレスを纏い、魔法使いシリーズなら禍々しい魔王のような威厳を持つ。
そんな見た目にこだわりにこだわり抜いた、オシャレ衣装なのであった。
ただこれが子供心をくすぐるオシャレ装備であると認識できるのは、あくまで俺が数多の創作に触れてきた地球人だからこその感覚。
この世界の人からはクソ真面目に「すごい」とか「強大」とか評されるだろうことはアカシックレコードで確認済みだ。
もちろんオシャレなだけでなく実用性においても抜かりはないが、個々の説明がどんなものかは言い出したらキリがないので割愛。
ただ戦力として評価するなら、とりあえずエルロンが魔法使いシリーズを装備しておけば、魔王としばらく魔法戦が維持できるくらいには強い。
最終的には実力差で押し負けるにしても、数分は火力が拮抗する。
そんな感じ。
そもそも魔王の本体と魔法で渡り合うなど本来不可能で、この世界の賢者であっても秒でひねりつぶされるくらいの強さを持っているのだから、それがどれほどの偉業かは一目瞭然だね。
……さて、しばらく自らが創造した装備の活躍に想像を膨らませていたが、そろそろ彼らにこのロマン装備を預けなくてはね。
ちょっと大げさなエルロンからの説明で彼らが戦慄しているうちに、ちゃっちゃと押し付けてしまおうか。
「貴様らに託された人探し。その過程で立ちはだかるであろう勇者の敵。そんな者どもと渡り合うためには、それこそこのくらいの力が必要だったというだけじゃ。……なに、神器に選ばれなければどのみち起動などできん。試すだけ試してみよ」
このバングル、一度魔力を通した相手にしか使えないようにロックがかかるから、選ばれる云々っていうのは完全にハッタリだけどね。
しかも神器といいつつ、バングルそのものの機能は亜空間に入っている装備と現在の装備を入れ替えるだけの着脱機能と、亜空間内部の装備が鑑定され脳内にインストールされる程度。
たいしたものではない。
ようするに、亜空間倉庫と自動着替え、鑑定機能のついたちょいと便利な、ただのカッコいい腕輪である。
もちろん、それをエルロンなどの魔道具に詳しいものが見たときに悟られないよう、膨大な魔力と意味もなく複雑で恐ろし気な術式を刻み込んで、如何にもな雰囲気を醸していたりと工夫はしているけども。
だがそんなことは露知らず。
どこぞの神々が現世に遺したか、もしくは歴史に埋もれた伝説のアーティファクトだと信じ込んだ冒険者たちは、緊張した面持ちで自らと相性の良い武器が刻印されているバングルを手に取った。
すると装着したとたん、どこからともなく機械的な音声が響き渡る。
装着者がヒーローバングルに認められたときの演出用に録音しておいた、変身するときにも流れるそれらしい雰囲気の自動音声だ。
流れる台詞は一律で、「────英雄よ、己が正義を成せ」である。
「まさか、俺たちが神器に選ばれたというのか……」
四者それぞれに目を見開き、ある者は自分が選ばれた現実をすぐに信じられずに、ある者は新たな力に不敵に笑い、ある者は託された力の大きさに覚悟して、ある者は何を思ったのか涙を流した。
それぞれ、戦士ダイン、斥候リーサ、弓使いクレア、魔法使いエルロンの順なんだけど、気に入ってもらえたようでなによりだ。
「そのようじゃな、新たな英雄たちよ。貴様らが神器に選ばれた以上、もはや儂から忠告することなど無いに等しいが……。ただし、力にだけはのまれるでないぞ。もし神器の力にのまれたその時は」
「神器に見捨てられ、神々によってその魂を裁かれる。……だろう? わかっているさ、十分に」
「う、うむ? そ、そそそ、そうじゃよ。その通りじゃ」
いや、神々には裁かれないけど!
調子にのったならバングルを回収しに向かうよって言おうとしてたんだけども!
なにか壮絶な勘違いをした戦士ダインが、「わかっているさ……、キリッ!」といった顔で納得しているのでそのままにしておく。
このくらいの覚悟があるなら、きっと道を間違えたりはしないだろう。
「うむ。では征くのじゃ、勇気ある冒険者たちよ。そして、その力で運命に抗って見せよ。勇者と歩む試練の道に、救いある未来があらんことを。それがその神器を預けた、この儂への報酬だ」
そういってこのログハウスの正確な位置が割れないよう、再び空間魔法で彼らをもとの場所へ戻そうと試みる。
バングルを装備したいまの彼らならば、雷虎くらいの魔物がでてきたところで一捻りだろう。
もう心配はいらないはずだ。
「最後に一つ聞かせてくれ。心優しき、聖なる魔族よ」
……む?
なんだろうか。
ちょうどいい感じに雰囲気がまとまったから、そろそろお開きにしたいんだけど。
日課のお昼寝もしたいしね。
「貴女の名は、なんという」
はいはい。
名前ね、名前。
それじゃさっそく。
「────ゴールド・ノジャー」
その言葉が彼らの中に刻まれると同時に、再び無人の大森林へと旅立つのであった。
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