第8話
空間魔法を展開し客人を我が家へと連れ込む。
さて、楽しい楽しい交渉タイムのはじまりだ。
この心根の善き冒険者たちをどういう形でアシストするか、そしてどういう建前で力を貸すのか、いろいろと想定はしているが彼らはどう反応するかな。
「ここは……」
「すごい、そこかしこに貴重な素材があるわ」
「ふぅむ。君の眼には素材の方が気になるかねクレア。吾輩には無造作に転がる魔道具の方が異様に見えるが」
ようやく観念したのか、最終的にはリーダーの方針に従うつもりらしく大人しくなった斥候のリーサを他所に、冒険者の三人は感嘆する。
弓使いであるがゆえに狩人としても有能なのか、ここに置いてある素材に感動する者もいれば、魔法使いのエルロンのように魔道具の技術に目を凝らす者もいる。
というか魔法使いエルロン、立ち直りが早いな。
さっきまで腰を抜かしていたというのに、リーダーの決意に感化されたのかもう気持ちを持ち直している。
だが驚くのはまだ早い。
このログハウスにはなんと魔法で工事した地下施設があり、その一角である倉庫にはここに置いてある以上の魔道具がところせましと並んでいるのだ。
つまりここに置いてあるものは氷山の一角、それも取るに足らない力を持つテキトーな日用品程度に過ぎないというわけである。
「ふっふっふ。そうじゃろうそうじゃろう。このログハウスには儂が開発したオリジナルの魔道具が多く用意されているでな。気になるのならあとで貴様らにも手にする機会を与えてやろう。もちろん交渉の結果次第じゃがな? 儂はいま、褒められて気分がいい。多少はまけてやるぞ」
「それは本当であるか! むむむ……、しかし対価が……」
そう、何を隠そうこの俺は今、褒められて気分がいい。
俗物というのであればその通りだが、人に驚いてもらったり感心してもらったりするのは、誰だろうと悪い気はしないだろう。
特に魔道具の価値が分かる魔法使いのエルロンあたりに評価されるのであれば、元は趣味とはいえいろいろと用意した甲斐がある。
そしてそんな喜ぶ姿を見て、改めて害意がなく話の通じる相手だと認識したのだろう。
さきほどまで肩肘張って緊張していた冒険者たちは、ようやく心を落ち着けることができたようだ。
いまも家主である俺に着席を促され、出されたお茶を前に過度な警戒はせずにくつろいでいる。
それは最もこちらを警戒していたはずのリーサですら、己の判断ミスを認めるほどの和気あいあいとした空気感であった。
「悔しいけどこのお茶、毒入りどころか王都の高級店でも気軽に飲めないほど質がいいし、間違いなく高級品だよ。……おかしいなぁ、ウチの判断力も鈍ったかな~」
「だからいつも言っているだろうリーサ。お前は形勢が不利になったとたんに行動が軽率になると。もうすこし見極める忍耐力をだな……」
うん、戦士ダインの意見が十割正しいね。
確かに、誰でも彼のように慎重に行動できるとはいえないし、簡単に真似をしろというのは無理があるかもしれない。
ただ、いざという時に普段と比べて判断が短絡的になるクセがあるというのであれば、それは一度見直した方がいい要素だ。
それがパーティーの生存につながるのであれば、なおさらである。
ただ、リーダーの指示を仰がずとも独断専行できるというのは、彼女の性格さえ把握していれば救われる局面も多くあるはず。
なんにでも一長一短なのが難しいところだな。
結局、パーティー全体が持つ個性のかみ合いの問題なのだろう。
俺が口を出してもしょうがない。
「あ~はいはい。すみませんでしたぁ~」
「こらっ! 家主の前でなんたる態度だ!」
「ダインはお堅すぎるって~。あの魔族がこんなことくらいでキレるような、器の小さいヤツだったらウチらとっくに死んでるよ? あえて手厚く招待してくれた家主の意図を汲み取りな~」
「なっ、なななっ!?」
うむ、それはそう。
俺はロールプレイに力を入れている故、沽券にかかわるほどに舐められるつもりはない。
ただ、だからといって畏怖させるつもりはないので普段通りくつろいで欲しいところだ。
俺が目指すべきは困った人のところへ前触れもなく現れる、正体不明の実力者、不老の魔女ゴールド・ノジャーなのだから。
そんないい感じに緩み始めた空気になったところで、客人に少し待つように伝えて地下室へと足を踏み入れる。
アカシックレコードで確認したところ、彼らはこの先の冒険で、俺の手伝いがなくとも自力で勇者を見つけ出すことには成功することがわかっている。
だが、そこに行きつくまでの過酷な冒険の中でいくつか仲間を失う機会や、冒険者として再起不能になる機会が訪れることも多くあるようだ。
時には勇者をめぐる陰謀だったり、本物の魔族による直接的な妨害だったりとかが主な要因だ。
ここが勇者を主人公としたゲームの世界だと仮定したならば、いわゆる彼らは序盤のお助けキャラ。
勇者である若者に戦う力を授け、依頼という枠組みを超え、そして強大な敵から勇者を守るために盾になるような運命にあったというわけである。
ちなみにその先の過程で、ちょくちょく俺が育て上げたレオン少年が勇者の助っ人として登場し、活躍するのが情報として垣間見えたが、まあ今その話はいいだろう。
問題は彼らをどう生かすべきかだ。
故に、ここで力を貸すべきは彼ら四人の直接的な戦力の増強。
強敵を相手に生き残れるだけの力を持った、切り札の存在が重要だ。
そして、この地下施設にはそういった状況に適した常軌を逸した魔道具が多く眠っているのだから、使わない手はないだろう。
というわけで、個人的な趣味を全面的に内包した魔道具を選別し終え、再び上のログハウスへと戻るのであった。
「待たせたのう」
「いや、構わない。もとよりこちらは貴女に命を救われた身だ。逃げも隠れもしないさ」
生命探知の巻き角魔道具のせいで魔族だと勘違いしているからか、逃げるという選択肢も普通は視野に入るはず。
だが彼らは誰一人として逃げ出さずに恩のある相手として接し、その選択を取らなかった。
ならば、そろそろこちらも彼らの誠意に報いるべき時だろう。
「さて、さっそく取引とするが……。こちらの要求はいたって簡単なことじゃ。儂がここに隠れ潜んでいるという情報を、無暗に広めないで欲しい、ただそれだけだのう。貴様らにとって依頼主に報告するのは義務となる部分じゃろうが、そこを曲げて欲しいという訳じゃ」
「対価もなにも、命を救われておいて貴女を裏切るような真似はしないつもりだが……」
彼らならそう言うと思っていたが、魔族かどうかにかかわらず、実力を持った存在が無人の大森林で好き勝手できるということが権力者に伝われば、面倒ごとになるのは必至。
絶対にバレてはいけないという訳ではないのだが、権力者に貸しを作ったり、良好な関係に至る前に厄介ごとが舞い込むのはごめんである。
こういうのは、徐々にこちらのタイミングで手綱を握らないと戦いになるからね。
これからも自由に行動したいのなら、それこそ慎重に行動すべき案件である。
そういうことを口を酸っぱくして伝えた結果、高位冒険者であるがゆえにある程度の理解があり、すんなりと受け入れられたのであった。
「それとできれば、貴様らには勇者をできるだけサポートして欲しいと思っている。もちろん、タダでとはいわん。既に相応の対価は容易してあるでな。これを見ろ」
そういって取り出したのは、それぞれに青、赤、緑、紫の宝石が埋め込まれた、複雑な意匠の各種バングルであった。
青が剣と盾を、赤が双剣を、緑が弓と矢を、紫が杖の形をとった意匠が刻まれている。
もちろんただ宝石が埋め込まれたキザったらしいバングルではない。
これはいわゆる、変身アイテム。
前世で馴染みの深かった、起動すると特殊な装備に身を包むヒーローバングルなのであった。
つまり、仮面な乗り手とか、美少女戦士プリティな癒し手とか、そういうタイプのロマン装備である。
俺はこれを、神器と偽り彼らに提供するつもりであった。
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