Vtuberの姉妹が百合営業をしたらガチ百合になってしまった話

沢谷 暖日

第一章 百合営業は仕事ですから

プロローグと姉妹百合

 弓波ゆみなみ侑杏ゆあというVtuberの話をしよう。

 容姿端麗、頭脳明晰。学校一番の人気者──という設定の高校生Vtuberである。

 加え、中の人も現役の女子高生であるためかファン層が厚く、持ち前の明るさから新進気鋭のVtuberながら人気も高い。

 少し前から夢咲ゆめさきあおいというVtuberと『百合営業』をし始めたことから、その人気は更に伸び始めている。

 中の人は現在は高校一年生で、容姿端麗、頭脳明晰。学校一番──とまではいかないけど、学年一番の人気者。

 そんな。Vの設定にも劣らない、毎日が充実した、大方完璧と言っていい人物。

 だが。彼女は、両親を事故で亡くしており、今は二つ上の姉と二人暮らし。

 隣に住んでいる祖父母に養って貰っているが、しかし祖父母共にかなり高齢。

 だから。Vtuberで日々生活するための資金を稼いでいる。

 そんな大変な思いをしている人物でもあり──。


 え、なんでそんな個人情報を知ってるのかって?

 と。その答えの前に一つ。

 先に少し紹介した、夢咲ゆめさきあおいというVtuberの話をしよう。

 あまりこれと言った目立つ要素は無いが、頭に申し訳程度の白い葵の花が乗っているのが特徴のVtuberだ。

 可愛い顔立ちだが、これ以上は特に何も無い。

 ファンからは働いていない奴だと思われてるだけだ。

 弓波侑杏との百合営業を始めてからは『学生に養われるニートの図w』とか言われている。

 まぁしかし。お陰様で人気も伸び始めて、もうすぐチャンネル登録者も五桁を超えそうなところだった。

 ニートとは言われているけど、中の人は高校三年生。

 十二月の今、推薦入試も終わり、ホッと一息を吐いている最中だ。

 まぁ。現実もそれなりに充実していて、良い意味で凡人というか、そんな人物だ、と思う。

 だが。両親を事故で亡くしており、今は二つ下の妹と二人暮らし。

 隣に住んでいる祖父母に養って貰っているが──って。


 え? なんでそんな個人情報を知ってるのかって?

 それじゃあここで種明かし。


 ここまで、それらしく個人情報を語っていた人物こそ。

 私、夢咲葵こと。本名、白羽しらはまい

 して。私の妹が、弓波侑杏こと。本名、白羽ゆい

 つまり。私たちは姉妹でVtuber。姉妹で百合営業をしている。

 若干引かれそうなのは分かっているけれど、将来のことを見据えるとお金が足りないのだ。


 だから私は、今日も妹とイチャつく。



        ※



 PM9:55.


『【コラボ】質問に答えながら二人で雑談! 【弓波ゆみなみ侑杏ゆあ夢咲ゆめさきあおい】』


 そんなタイトルの配信も、間も無く一時間を越えようとしていた。

 夢咲葵こと私は、妹である弓波侑杏こと唯と、肩を並べ雑談を続けている最中である。

 今日は弓波侑杏の個人チャンネルでのコラボ配信。つまりは、唯の部屋で撮影をしているということになる。

 枠主である弓波侑杏のアバターが動き、私の夢咲葵は立ち絵のみだ。

 オフラインコラボの時は、大抵そんな感じである。


「えーっと。『質問です! 侑杏ちゃんは、葵ちゃんのどこが好きですか!』……か。質問ありがとー!」


 ディスプレイに映し出された質問を唯は快活な声で読み上げ、私もまた「ありがとうございます!」と後に続いた。

 唯はすぐに「うーん」と考える様に唸りながら、私の横顔をジッと見つめ。やがてマイクに向かって解答を発した。 


「そりゃあ、可愛いところ!」

「えー、ありがとー! それを言うなら侑杏ちゃんだって、凄く可愛いよ?」

「え、えぇ! ちょ、ちょっと、葵ちゃん。照れる……」

「もう、侑杏ちゃんってば。そんな過剰に反応されたら、こっちまで恥ずかしくなるでしょー?」


:あっ。尊い(死)

:あぁ、てぇてぇ。てぇてぇよ……。

:早く結婚しろください。

:ここにキマシタワーを建てよう。

:¥1000 ありがとう。結婚式の予算の足しにしてくれ。


「み、みんな! 落ち着いて! というか結婚⁉︎ 私たち付き合って無いよー。ね? 葵ちゃん!」

「……うん。まぁ、うん。まだ、付き合って無いけどさ」


:え。なになに、意味深。

:『まだ』って言ったな?

:つまりは……。

:↑そういうことだ。


「もうみんな違うから! というかいっつもこんなこと言ってる気がする!」


 と。唯は首を横にブルブルと振る。

 画面の中の弓波侑杏のアバターが大袈裟に揺れていた。

 顔を赤く染めた唯は、手をぱんぱんと鳴らして「はいはいつぎー」と焦った様にコメント拾い始める。


「時間的に最後の質問ねー!」


:えー。もう終わりー?

:体感10分。いや5分。

:延長は無し?

:おいみんな。二人は明日に結婚式を控えてる。後は分かるな?

:↑完全に理解した。


「はい! 結婚式じゃないです! 明日は普通に学校があるからです!」


:そっか。ニートの葵ちゃんとは違って、侑杏ちゃんは学生だもんね。


「ニートじゃないって!」


 と。流れてきたコメントにツッコミを入れる。

 私のそれにもまた、ニートだと疑うコメントが流れてきたので、知らんぷりをし、そこに作られた微妙なを、唯が綺麗に繋いだ。


「はい! もうみんなのことは無視して、適当に質問読んでいきまーす! ……えーっと、どれどれ? ……『侑杏ちゃんは将来的に葵ちゃんと付き合いたいと思っていますか?』って。これはまたデリケートな質問を。……葵ちゃんどう?」

「えー。私にふらないでよー。これは侑杏ちゃん宛ての質問だから、侑杏ちゃんが答えて!」

「むむむ。『付き合いたい』かー。……え、これわざわざ言わないとダメ? みんなも、もう分かるでしょ?」


:おっとこれは

:キマシ

:いや、分かってるけど。言ってくれ!


「……もう、じゃあ。言うね? 私は。……葵ちゃんと。付き合いたいって、思ってるよ?」


 唯は私の隣で、そんな恥ずかしい台詞をボソボソと呟く。

 刹那。緩やかな川の流れの様だったコメントの流れが、一気に速度を増した。

 一つを一つを目で追えないくらいの速度に早変わりし、安い値段の投げ銭が次々と私たちの元へと届く。


:ああああぁああああ!!

:キマシタワーーー!!!!

:あぁ。これが、尊いという感情なのですね。神よ。(尊死)

:てぇてぇが渋滞してるぜ、これは……。


「わわ! ちょ。っと! あーもう、今日は終わりだからねー!」


:ちょっと待て。葵ちゃんのアンサーがまだだ。

:まだ葵ちゃんの返事を聞いてないー!

:そうそう。そこが一番重要。


「えー、私のアンサーか……。んーまぁ、侑杏がそう言うなら、私も付き合いたいって、思うよ?」


:おい。おいおい。今、侑杏って言ったな?

:名前呼びイベントは神定期

:呼び捨てはもう既に出来てるだろ、この二人。

;↑明日結婚式をする二人だ。当然だろう。


「はーい! じゃあ、終わりー。はずかしー!」


 唯は慌てふためきながら、半ば強引に配信終了のボタンに手を伸ばす。

 コメントは、過去最大の盛り上がりを見せ。今日の配信は終了した。

 配信が完全に終わったことを確認し、唯は「ふぅ」と一息吐いた後に私に赤い顔を向けた。


「今日もありがと。お姉ちゃん」

「最後のは。うん。自分でも良くできた方だと思う」


 私たちがやっているのは『百合営業』

 配信ではあんな感じに匂わせまくったけど、あくまで営業。仕事だ。

 そこから、まさか本当の恋愛に発展する訳が無い。

 この関係が続いて、お金が入り続けるのなら。それでいいのだと思う。


「最後のは本当に上手な演技だった! 思わず照れちゃったよ」


 唯が歯を見せて、可愛く微笑んで。私もそれに微笑みを返す。

 また明日もよろしくね。という風に。

 これが私たち、白羽姉妹の日常だ。



【あとがき】

新作です!

連載中のは落ち着いたら書いていこうと思います。

よろしくお願い致します🙇‍♀️

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