3
5時間目の数学は放課後の事を考えていたら終わっていた。
その後のホームルームも気がついた頃には終わっていた。
そして今、私の目の前には夏目さんがいた。
「河野さん、大丈夫?」
夏目さんが私の顔の前で手をひらひらと振っている。
「あ、うん、大丈夫」
「そっか良かった。何回か呼んだんだけど反応無かったから」
「ごめん、忙しいのに」
私から夏目さんを誘ったのに、緊張の余り意識が飛んでいた。
申し訳ない気持ちになる。
いつの間にか教室には、私と夏目さんの二人だけになっていた。
「全然平気だよ。部活あるから長くは話せないけど」
「そうだよね、えっと……」
やばい、何話せばいいんだろう。
ここ数週間、妄想の中では何百回とした対話シュチュエーションだったが、いざ目の前にすると何も出てこない。
夏目さんは頭を少し右に傾けて私を見ている。
私はその視線に目を合わせることが出来ない。
「河野さんって面白いね」
「え?」
驚いた私の視線を捕らえた夏目さんは楽しそうに笑っている。
「結構ぐいぐい来るのかと思ったら、今凄い距離感じるの面白い」
そう……なのかな?
でも、まぁ確かにいきなりポッキーゲーム仕掛けたり、全然仲良くないのに放課後話す事を提案したりと、普通からは逸れている気がする。
だからこそ、時間が経ってから自分の行動を省みると恥ずかしくて可笑しくなりそうだった。
「私がこんなに積極的なの夏目さんだけだよ」
誤解されないようにちゃんと訂正しておく。
私が変になるのは夏目さんだけであって、他の人には至って普通だ。
いきなりポッキーゲームを持ちかけたり、妄想したりもしない。
変人だと思われないようにしなくては。
「夏目さん……?」
夏目さんの頬が少し紅くなっている。
どうしたのだろう?
「ふふ、やっぱり河野さんって面白い」
次は私が首を傾げる番だった。
今の会話でどうして面白いに繋がるのだろう。
夏目さんは鞄を持ち立ち上がった。
「そろそろ部活行くね」
「あぁ、うん」
全然、ちゃんと話せなかった。
次に話す機会があった時用に会話リストでも作っておこうかと考える。
夏目さんは座っていた椅子を直し終え、教室の外へ向かう。
その後ろ姿を視認した時には既に、私の体は動いていた。
夏目さんの細い手首を掴む。
さっきまで止まっていた血が、急に巡りだした気がする。
「あの……体育の時に言いかけてた事ってなに?」
一瞬、驚いた様子で掴まれた手を夏目さんが見る。
それから直ぐに私の顔に視線を移した。
「んー、秘密」
「……!」
唇に人差し指を添えて微笑む夏目さんが魅力的過ぎて固まってしまう。
そのまま、掴んだ手の離すタイミングも見失ってしまった。
「河野さん」
名前を呼ばれると同時に体を引き寄せられた。
夏目さんの匂いでいっぱいになる。
甘い……なんだろう花の香り?いい匂い。
って、そんな事を考えてる場合では無い。
何この状況。
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