第22話

 キャロリーナにも、ここまでの話をした。


「ロゼちゃんも、やっと自分が誰を気にしていたか、わかったのね」


 キャロリーナは母親としての微笑みでロゼリンダを見ていた。


「お母様は、ずっとご存知でしたの?」


 ロゼリンダは恥ずかしそうに上目遣いでキャロリーナに聞いた。


「ええ、レオちゃんが食堂室で女の子をいつも取り替えていて、ロゼちゃんがプリプリしていることは、よく知ってますよ」


 極上の笑顔とともに発せられたキャロリーナの言葉に、ランレーリオはお茶を吹き出した。


「もう! レオったら、汚いっ!

わたくしもそれは知ってますわよっ!」


 メリベールはハンカチで自分のドレスを拭きながらランレーリオを睨んだ。


「おば様、忘れてもらえますか? 母上も……」


 ランレーリオはメイドに膝を拭いてもらいながらお願いした。


「あ! もしかして、レオはわたくしにヤキモチを焼かせたかったんですの?」


「ゲホッ! ゴホッ!」


 ランレーリオは大きくむせた。


「先程のお話はご自分のことでしたのねっ!」


 ロゼリンダの言葉にランレーリオは頭を抱えてテーブルに突っ伏した。まさに特大ブーメランが返ってきた。


「まあ! 小さいおとこっ!」


 メリベールは、扇でテーブルに伏せるランレーリオの頭を『ペシリ』と一叩きした。


「母上、僕を殺す気ですね」


 ランレーリオは顔だけ上げて、メリベールをキッと睨んだ。三人の淑女だけでなく、使用人たちも笑っていた。


 キャロリーナが表情を変え、真剣な眼差しになった。


「ロゼちゃん。レオちゃん。覚悟は決まったのね?」


 ランレーリオとロゼリンダは、顔を合わせて手を握りあった。二人でキャロリーナの方を向き直る。


「「はい!」」


 二人の返事に公爵夫人たちが口角を上げ妖艶な笑顔になった。


「メリー。私たちも覚悟をきめましょう」


 キャロリーナは目を細めてさらに口角を上げた。


「ええ、キャル。私も覚悟は決まったわ」


 メリベールはさらに嬉しそうな顔をした。


 メリベールもキャロリーナも、妖艶でありながら頼れる母親の顔になっていた。


〰️ 〰️ 〰️


さほど待たずして、待ち人が来た。


『コンコンコン』


「旦那様とアイマーロ公爵様がいらっしゃいました」


 執事が再び恭しく声をかけてくる。


「わかりました」


 女主メリベールは先程のキャロリーナの時と違い凛々しく答えた。


「あなたたちは後ろにいなさい」


 メリベールとキャロリーナの後ろに椅子が用意され、そこにランレーリオとロゼリンダが座った。


 汗をかいた二人の中年男性が部屋に入ってきた。二人ともなかなかの男前で、まだまだモテそうだ。


「メリー! これはどういうことかな?」


 ランレーリオの父親コッラディーノが、メリベールの前に手紙を出した。


「キャル。君もこれは何のつもりかな?」


 ロゼリンダの父親ゼルジオも、キャロリーナの前に手紙を出した。


「このままの意味ですわよ」


 メリベールは、平然として手紙をコッラディーノに付き返した。


「わたくしたちは、離縁も覚悟しておりますのよ」


 キャロリーナも平然としたまま、ゼルジオに手紙を付き返す。


「「え?」」


 ランレーリオとロゼリンダが口を大きく開けた。

 自分たちが想像していた以上の母親たちの覚悟に、ランレーリオとロゼリンダはたじろいだ。自分たちだけなら爵位を諦めればいいと考えていたからだ。それが家族崩壊の危機となっている。しかし、この状況では口は挟めない。


 女主二人は、ランレーリオとロゼリンダが学園から帰宅したと知り、早々に王城で仕事をしている旦那様宛に執事に手紙を持たせた。つまりその時点で、ランレーリオとロゼリンダがどんな気持ちで帰ってきたかを察していた。


『わたくしたちの要求が通らない時には、子どもたちを連れて国を出ます。もちろん、その場合、あなたとは離縁いたします。

要求が聞きたければ、早く戻りなさい。(早くデラセーガ公爵邸にいらっしゃい)』


 こんな手紙をもらった二人の中年公爵は、急いで帰ってきたのだ。仕事もほっぽり投げて。


「ディー。とりあえず、おすわりになって。ゼルジオも」


 メリベールはロゼリンダの父親を呼び捨てにしていた。4人は旧知の仲のようだ。

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