第20話
二人は軽く昼食をとり、その後、ランレーリオの母親メリベールと応接室でお茶をすることになった。
二人が応接室に並んで入ると、メリベールはすでにソファーの二人がけに座っていた。二人がけといっても、余裕で3人が座れるほど大きいのだが。
「まあ! ロゼちゃん! こんなにキレイになって、もう! ステキだわぁ」
メリベールは立ち上がってロゼリンダのそばまできて、ロゼリンダの背中を押そうとした。メリベールは大はしゃぎだった。メリベールにとっては、10年ぶりになる待ち焦がれた再会なのだ。
しかし、ランレーリオがその手を払った。
「母上、僕がエスコートしますので、大丈夫ですよ」
メリベールに向かったランレーリオの視線は
冷たいものだった。
「そっ!」
メリベールは、先程の席に戻った。ランレーリオがロゼリンダの背中に触れて、メリベールの反対側のソファーへと誘った。
ランレーリオとロゼリンダは、ランレーリオの部屋でのように隣に座った。ランレーリオの部屋のソファーより、ずっと大きなソファーなのに、ランレーリオはピッタリとロゼリンダにくっつき、部屋でのように腰に手をまわした。
ロゼリンダは、さすがにメリベールの前なので、顔を赤くしてランレーリオの腕を離させようとする。しかし、ランレーリオは腕には力を込め、顔には笑顔を貼り付けてロゼリンダを見ていた。
ロゼリンダはしばらくの格闘のうえ――あきらめた。
そんなやりとりをメリベールは呆れて見ていた。もちろん、呆れているのは、ロゼリンダに対してではなく、我が子ランレーリオに対してだ。
「まぁ、そこまで独占したいのなら、よくここまでのんびりしていたものねぇ。こんなに可愛らしい女の子を放っておけたなんて信じられないわ。自意識過剰ではなくて?」
メリベールは自分がロゼリンダに触れられない怒りをそのままランレーリオにぶつけた。
「母上、いじめないでよ。反省してますよ」
ランレーリオはメリベールを見ず、まるでロゼリンダに謝るようにそう言った。ロゼリンダは、メリベールとランレーリオをいつまでも交互に見てアタフタしていた。
「それで、どうなったのかしら?」
二人はメリベールに、学園での話、そして、自分たちの気持ちを話した。
メリベールはランレーリオの話を静かに聞いていた。表情から何も読めず、ランレーリオの隣にいるロゼリンダはドキドキが止まらなかった。
ロゼリンダはメリベールは当然ロゼリンダの醜聞は知っているのだろうとわかっていた。公爵夫人ともなれば、社交界では中心人物だ。
先程、ランレーリオが醜聞を知らないかもしれない思ったというのは、単純にランレーリオがまだ社交界に出ていないからである。ランレーリオも社交界に出さえすれば、入ってこない情報はないほど中心人物となるであろう。
「おば様、わたくし、恥ずかし醜聞ばかりですの。ですから、公爵夫人は……」
ロゼリンダは言葉に詰まった。ロゼリンダは、ランレーリオの『爵位を弟に譲る』という言葉に甘えようと、先程までは考えていた。それは、ランレーリオとの甘い甘い時間を過ごしていたからだ。
でも、こうして公爵夫人であるメリベールを前にすると、やはりロゼリンダが引いた方がいいのではないかと思い直してきていた。
ロゼリンダはやはり、公爵令嬢として、『家を守る』『貴族としての義務』を叩き込まれてきているのだ。それを簡単に、できませんとも知りませんとも言えない。
ロゼリンダの瞳が涙で潤みだした。
そんなロゼリンダの気持ちを知ている上で、メリベールはすっ惚けた。
「あら? 何のことかしら?
ロゼちゃんがカワイすぎて、前国王の気が狂ってしまったこと?
それとも、おこちゃまな王子がロゼちゃんがこんなにキレイになることもわからずに口を開いたこと?
ああ! それとも、ロゼちゃんがキレイすぎて、じじぃ侯爵の気が狂ってしまったことかしら?」
「ぶっ!」
ランレーリオが吹き出して笑った。ロゼリンダは慌ててまわりを見回した。執事が渋顔だった。
「お、おば様! 不敬と言われてしまいますわよっ」
ロゼリンダがおどおどキョロキョロした。
「大丈夫。ここのみんなはできる人たちばかりなのよ。あの渋顔はロゼちゃんやわたくしにではなく、はしたなく吹き出したレオの紳士らしくない態度に対してなのよ」
すまし顔でそういうメリベールが執事をチラリと見て、ロゼリンダもその視線を追った。その通りですと言わんばかりに、執事が大きく頷いた。
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