第14話
ランレーリオは廊下でロゼリンダにすぐに追いついた。そして、ロゼリンダの手首を掴み、そのまま外へ出ていく。そのまま学園の馬車に飛び乗りこんだ。馬車の上からロゼリンダの手を引く。ロゼリンダも拒否はしなかった。
「デラセーガ公爵邸まで頼むよ」
ランレーリオの指示で二人を乗せた馬車は走り出した。
〰️
デラセーガ公爵邸に着くと、玄関ではすでに執事が頭を下げて待っていた。ランレーリオがロゼリンダの手を引いて歩く横を執事がついてくる。
「僕の部屋にお茶と軽食。その後は人払い」
ランレーリオが執事にテキパキと指示を出す。
「女性の方と二人きりのお部屋の人払いはいかがなものかと?」
執事は小さく俯きしっかり苦言を呈す。
「君たちが外に漏らすわけがないだろう。問題ない。それに、そんなことまではしないよ」
ランレーリオはすごい発言を真面目な顔で言った。執事も真面目な顔で受け止めた。
「畏まりました」
すぐにすべて用意された。
ランレーリオとロゼリンダは、ランレーリオの部屋のソファに並んで座っている。手はまだ繋いだままだ。
「ごめんね、学園ではまた君の醜聞になってしまうかもしれないからね。ここが一番いいと思ったんだ」
ランレーリオはロゼリンダの方を向いて膝をぶつけるように近くにいた。先程執事に向けた顔と違い、気遣わし気で、自信なげで、こちらが謝りたくなってしまいそうだ。
しかし、放心状態のロゼリンダにはそんな表情は何の効果もなかった。
「はい」
ロゼリンダは、心ここにあらずで返事をした。
「お茶をいただこうか?」
それでもランレーリオはロゼリンダに笑顔で話かける。
「はい」
ランレーリオは一旦ロゼリンダの手を離し、ソーサーを持ち上げた。まるでそれに従うようにロゼリンダもソーサーを持ち上げる。ランレーリオは、ロゼリンダの様子が気になって、カップは持つものの口へ運ばなかった。
ロゼリンダは、放心状態のままお茶を一口口にして、テーブルにそっとカップとソーサーを置いた。ロゼリンダの視線はそのまま、カップに縫い付けられていた。恐らく何も写っていないだろうけど。
お茶を置くと、ランレーリオは再びロゼリンダの右手を左手でとった。今度は指と指を絡ませる繋ぎ方になった。ランレーリオの離さないという意思表示のようだ。
ランレーリオは、ロゼリンダの目に生気が戻るまで、ずっと、そのロゼリンダの右手を右手で撫ぜていた。
しばらくしてロゼリンダが小さな声で呟いた。
「レオったら、先程から何をしてらっしゃるの?」
ランレーリオは嬉しくなってロゼリンダの右手を両手で包み込んだ。
「ねぇ、ロゼ、こうして手をつなぐのも久しぶりだね」
「え? あ? ええ、そうですわね。……十年ぶりですわね」
ロゼリンダが包まれている手をジッと見ていた。ロゼリンダはこんな大きな手を知らないと思った。ランレーリオが大人になってしまっていることを実感して、恥ずかしくなって手を引っ込めたくなった。
しかし、指を絡めるように繋いだ手は簡単には離れず、離すつもりのないランレーリオが再びロゼリンダの手をゆっくりと撫ぜた。
ロゼリンダがビクッとした。ランレーリオは、そんなロゼリンダに優しく笑顔を向けた。そして、再び手に目を落とす。
「ロゼの手って、こんなに真っ白だったっけ?」
ランレーリオもまた、十年という時の長さを感じていた。一緒に木をタッチした可愛らしくて、プクプクしていたはずの手を思いだす。
しかし目の前には、指先までキレイに磨かれていて、真っ白な雪のような肌で、その肌はどこまでもスベスベで、指は細く小さく、全体的に妖艶に輝いているような手があった。
『この手を誰かに取られなくて本当によかった』
そう感慨深く思ったランレーリオは、ロゼリンダの手をゆっくりと指一本一本を愛おしいそうに撫ぜていった。
ランレーリオはいつまでもロゼリンダの手を撫でている。
ロゼリンダは急に恥ずかしくなってしまった。自分の手に落とされたランレーリオの視線があまりに艶かしくとろけるような視線なのだ。
ロゼリンダは、手を思いっきり引いて手を離そうとした。ランレーリオの手に力が入った。
離してくれそうにないと思ったロゼリンダは口を尖らせて拗ねた。
「手を離してちょうだいな。もう、いやよ。あの頃のわたくしと一緒になさらないでもらいたいわ」
ロゼリンダは、ランレーリオがお転婆だった自分の小麦色だった手のことを言っているのだと思い、プイッと横を向いた。
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