第11話
爽やかな顔をしたランレーリオが食堂室にいたメリベールの前に座った。メリベールは昼食中であった。
「あら? 随分と精悍になったわね」
「今の僕には僕のことしかできないからね。まずは、ロゼを取り返せるような男になるよ」
ランレーリオはピクリとも笑わずに答えた。メリベールは、少しは大人になったランレーリオを見て嬉しくなった。
「それで? どうするの?」
メリベールは母親としての微笑を浮かべていた。午前中、ランレーリオが久しぶりの剣の稽古に汗を流しているのは知っていた。
「今は夏休みだからね、ロゼに対しては何もできない。だから、父上に仕事を教わることにしたんだ」
ランレーリオは、キレイな所作でも急いで食べていた。
「お仕事?」
「うん! 王城の文官さんを紹介してくれるそうなんだ。あ、あと、今週から、語学の家庭教師も来ることになってるから」
メリベールが執事を見ると、執事はニッコリとして、頷いた。
今までとやっていることは同じようだが、決意は多少変わったのだろう。今はそれで良しとする。
メリベールは、ランレーリオが『いざとなったら他国にでも攫っていく!ロゼを口説くのはそれからでもいい』などと、物騒なことまで考えていたことまでは思いつかなかった。
「ロゼには、クレメンティ君ではなく僕を選びたいって思わせるから。公爵令息としても、ね」
男としてロゼリンダへの気持ちは負けていないことは、自負しているランレーリオだった。
「いってきます!」
とっとと食事を済ませたランレーリオは颯爽と出ていった。
「なら、わたくしも、用意をいたしませんとね。ふふふ」
執事が顔を青くしている横を笑顔のメリベールが出て行った。メリベールは、自室へ戻り手紙を書いた。
執事は、悩んだ末に、旦那様には報告しないことに決めた。デラセーガ公爵家もアイマーロ公爵家も、実権は奥方が握っていた。
使用人たちは、全員それを心得た上で、旦那様を立てていた。本当に優秀な使用人たちであった。
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ロゼリンダのところには、ガットゥーゾ公爵家からの返事は届かぬまま夏休みが終わった。
そして学園生活が始まってみると、クレメンティとセリナージェは以前にも増していい雰囲気の関係になっていた。
ランレーリオは少しホッとしていた。クレメンティがここまであからさまにセリナージェを大切にしておきながら、ロゼリンダに手を出すような不誠実な男には見えなかったからだ。
「外交部になるなら、尚更、高位貴族のご令嬢を二股するなんてしないだろう?」
廊下を仲良く歩くクレメンティとセリナージェの背中を見て、ランレーリオは呟いた。そしてその少し後ろを歩くイルミネに目を向けた。
「となると、公爵家とのつながりは彼の仕事か? あちらの国は爵位の譲渡があるようだからな」
クレメンティたちの国ピッツォーネ王国は、高位貴族がいくつもの爵位と領地を持っていることは普通にある。
とにかく、クレメンティだ、イルミネだ、ピッツォーネ王国だと、迷子になっているロゼリンダをどうやって守るか、ランレーリオには、まだ答えが見つかっていなかった。
まあ、イルミネについては、ランレーリオの妄想だが。
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そしてその頃、ロゼリンダは、クレメンティとセリナージェの仲の良さにもう我慢ができない心境となっていた。
『これ以上、お二人がこの状態をみなさんに晒し続けると、
『セリナージェ嬢のオサガリをもらったロゼリンダ』とか、
『セリナージェ嬢からオトコを奪ったロゼリンダ』とか
醜聞が上乗せされてしまうわっ!』
と、ロゼリンダは焦った。
そこで夜、寮の女子談話室にセリナージェを誘った。
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