第10話
「あらまぁ。でも、悪いのはロゼちゃんでも、レオちゃんでもありませんものね。お義父様に何も言えない旦那様が悪いのですものね」
キャロリーナは一つため息をついてからシャンと姿勢を正した。
「もう、これでロゼちゃんが本当に隣国へ行ってしまったら、わたくしも隣国へついていきますわ」
その言葉に、壁に控えていた執事が姿勢を正した。だが、教育のいきどどいている執事なので、ここでの話は旦那様であるゼルジオにも伝わることはないだろう。
「お、お母様、本当に?」
ロゼリンダが少しだけホッとしたような表情になった。さすがに1人というのは不安だったのだろう。
「当たり前です! かわいい娘をたった一人で隣国へなど、行かせません。もし、旦那様がわたくしに反対なさったらわたくしにも考えがあります」
キャロリーナは、口角をキレイに上げた。さすがに、これは旦那様に報告か??と執事が悩んだ。それを、すっと察したキャロリーナは、執事を見て、もう一度、ニッコリ笑った。
執事は、口が裂けても、旦那様に報告しないことを心に誓った。
「!!! お、お母様…??」
キャロリーナの『考え』に、ロゼリンダは少し戸惑った。
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ランレーリオはロゼリンダのことが気になって、夏休みどころではなかった。いつもは領地へ帰りゆっくりと過ごすのだが、万が一、ロゼリンダとクレメンティが逢瀬を重ねているなんてことになっていたら、死にたくなる。
その思いで、父親に調べてほしいとお願いしたが、妻メリベールがキャロリーナと連絡をとってまでランレーリオの味方であることを知らないコッラディーノは難色を示した。
「父上(ナルディーニョ)が大反対なのは知っているだろう?
それに、ロゼリンダ嬢の醜聞もだ。
ロゼリンダ嬢にそのようないい話があるのなら、応援すべきではないのか?」
「応援…………?」
母親の言葉を上回る父親の言葉に、ランレーリオは顔を白くして絶句した。
「その留学生とやらと、ゼルジオ殿が親しく仕事をしているのは、王城でよく見かけるしな」
宰相であるコッラディーノは、さすがに王城の政務についてはほぼ全てを把握している。そう、家庭内のことを把握していないことが不思議でならないほどに優秀なのだ。
コッラディーノは、ランレーリオの気持ちを察せず言葉を続けた。
「彼らは王城に勉強に来ているんだよ」
「べ、勉強ですか?」
ランレーリオは、ただの留学生だと思っていたので、王城での勉強には驚いた。
「そうだ。あちらの国には外交部がなく、王族が全てやっているそうだ。そろそろそれでは手が足りないのだろうな」
それはそうであろう。最初は仲良くしましょうという取り決めだけで良かろうが、国が繋がれば、輸出入もある。自国が困った時の買い付け、相手が困った時の支援、新商品のやり取り、国境部の警備、それらを王族だけではやりきれないし、決めきれない。
「暇を見つけてはよく勉強に来る勤勉な青年たちだぞ。外交部の基礎を作るらしいからな、余程優秀な人材たちなのだろう」
ランレーリオは倒れたくなった。なんてロゼリンダにぴったりなお相手なのだろうか。心が揺らぐ。
「外交部ということで、ゼルジオ殿と一番やり取りをしているな。ゼルジオ殿ももちろん彼らを気に入っているのは、見ていてよくわかる。あの青年たちなら、誰であろうとロゼリンダ嬢を幸せにしてくれるだろう」
とうとう、宰相コッラディーノからのお墨付きまで出た。ランレーリオはフラフラとコッラディーノの執務室を後にした。
「もし、クレメンティ君がセリナージェ嬢を選んだとして、エリオ君もベルティナ嬢を選ぶだろう。…………では、イルミネ君はどうなんだ?」
ライバルはクレメンティだけではないようだ。イルミネは伯爵家だ。さらにコッラディーノの話では、外交部を作るなどというすごい仕事を任されているようだ。イルミネが次男であっても、爵位を賜るほどの実力者ということもありえる。
ランレーリオは、一週間、部屋から出て来なかった。ベッドの中のランレーリオの手には色の薄くなったリボンが握られていた。
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