第6話

 前アイマーロ公爵であるロゼリンダの祖父は、ゼルジオから話を聞いても二人の婚姻には反対した。


「ロゼリンダを他国に売り、自分(ナルディーニョ)の地位を確実のものとしようとしたのはデラセーガ公爵だぞっ! そんな家にかわいい孫娘をやれるものかっ!」


 つまり、アイマーロ公爵家では、デラセーガ公爵家が先に婚約破棄をしたがったと伝わっている。


「私(ナルディーニョ)が孫たちの婚約解消はありえないと(当時の)国王陛下に進言したにも関わらず、(当時の)アイマーロ公爵が勝手に婚約破棄にした」


 デラセーガ公爵家では、アイマーロ公爵家が婚約破棄をしたと伝わっている。


 だが残念なことに、真実を知っているはずの前国王陛下は王位を退位してまもなく離宮にてお隠れになってしまったのだった。なので、どちらが正しいことを言っているのかは永久にわからない。


 実は、お隠れになった理由さえも定かではない。


 ただわかっているのは、公爵家の祖父同士は決別状態であるということだけだ。


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 ランレーリオの母親メリベールとロゼリンダの母親キャロリーナは、ランレーリオとロゼリンダがうまくいってくれることを心から望んでいた。なので、他家の茶会で顔を合わせては相談し、前公爵が王都にいない間は手紙のやり取りをし、いつ好転してもいいようにと動いていた。


 母親キャロリーナが、そうやってどうにかデラセーガ公爵家との関係修復をと考えていたことなど、ロゼリンダは何も知らなかった。


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 ロゼリンダが結婚相手について悩んでいるまま、学園の三学年になった。その始業日、ロゼリンダにとって希望の天使が大きな体で現れた。


 隣国ピッツォーネ王国からの留学生三人は、クレメンティ・ガットゥーゾ公爵令息、イルミネ・マーディア伯爵令息、エリオ・パッセラ子爵令息だと名乗った。


 隣国の公爵家の令息クレメンティ。ロゼリンダの醜聞を知らず、ロゼリンダと爵位の合う男子生徒。ロゼリンダにとっては

理想的なお相手であった。


 だが、どうやらこの三人は、ロゼリンダとランレーリオのクラスメイトであるセリナージェ侯爵令嬢たちと知り合いのようだ。クレメンティの一言で、学園の案内役をセリナージェ侯爵令嬢とベルティナ男爵令嬢が行うことになるほどであった。


 それでも、公爵家の立場を使って昼食の案内係をすることを教師たちに認めてもらった。

 ロゼリンダと友人のフィオレラとジョミーナ、そしてクレメンティたち留学生三人の男子生徒で昼食をとることになった。フィオレラとジョミーナは大変よく喋り、留学生三人は、それにはきちんと答えてくれるので、それなりに楽しい時間を過ごせた。

 しかしそれもつかの間、ある日、クレメンティたち留学生が昼食に学生食堂へ現れなかった。ロゼリンダたちはその理由をクレメンティに聞きに行った。


「ロゼリンダ嬢、大変申し訳なかったね。留学の内容について、三人で先生に呼ばれていたんだ。これからも先生との話し合いが昼休みになりそうだから、僕たちのことは気にしなくていいよ。君たちのお陰で学食を使うことにも慣れたし。どうもありがとう」


 クレメンティに断られたが、確かに先生の部屋に昼食が運ばれていくのを時々見かけるので、ロゼリンダは何も言えない。

 これが雨の日だけであったことは、ロゼリンダは気が付かなかった。三人は晴れの日には、学園の芝生でセリナージェとベルティナとともに昼食をとって親睦を深めていたのだった。


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 昼食の時間をクレメンティと過ごすあきらめた ロゼリンダは週末に何度もクレメンティを誘った。しかし、クレメンティは『王城に政務に行かねばなりません』と言う。『政務』と言われればそれ以上は無理を言えない。ロゼリンダはクレメンティと親交を深める手立てに苦慮していた。


 それなのにある日を堺に、クレメンティとセリナージェの様子が明らかに恋人同士のような雰囲気になっていた。


 しかし、ロゼリンダもその頃から慌てることはしなくなった。

 ロゼリンダはすでに、父親ゼルジオへクレメンティという存在の話をしていたのだ。クレメンティが『王城で政務をしている』と言っていたのは、本当らしい。外交大臣であるゼルジオは、確かにクレメンティたちに仕事について様々な教授をしていた。


 父ゼルジオは、クレメンティの真面目そうな人柄を気に入っていた。


『娘ロゼリンダも気に入っているようだしこれは自分が人肌脱ごう』


 そう考えたゼルジオは、ピッツォーネ王国のガットゥーゾ公爵にクレメンティとロゼリンダの婚約を示唆する手紙を書いた。


 それを聞いたロゼリンダは、ガットゥーゾ公爵家とアイマーロ公爵家の話になったのだと判断した。

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