第5話
ロゼリンダの醜聞に悩んでいたゼルジオだったが、新国王政権となりコッラディーノが宰相になると、政務がいきなり動き出し外交大臣のゼルジオも忙しくなってしまう。そうなるとなかなか国内でロゼリンダの心配をする時間がなくなってしまった。
どんどんと心配の上を行く事態になっていく。「どこに嫁ごうとも」の「どこ」がないのだ。
ロゼリンダが十二歳になった時、ふと周りを見てみれば、婚約者がいない同年代の高位貴族はいなかった。下位貴族にも該当する者がいない。
ここスピラリニ王国は、とても珍しい州制である。王家管轄領地以外の二十州をまとめるのは、公爵家二家、侯爵家五家、伯爵家十三家であり、それぞれの州の中に子爵家男爵家の領地がある。なので、公爵令嬢といえど、自分の州の子爵家になら嫁ぐことも十分にある。
しかし、アイマーロ公爵州内の子爵家でも、上位の者たちは年齢が合わない者ばかりであった。かといって、下位子爵家は、恐れおおいと遠慮ばかりしていた。男爵家ならもっと遠慮している。
「ロゼはこんなに可愛らしいというのに、まさか公爵の名が邪魔をするとは……」
ゼルジオは一人で頭を抱えていた。
ロゼリンダも学園に通うような年齢になれば、自分の立場を正確に理解するようになる。
ロゼリンダが一年生の夏、侯爵家から婚姻の申し込みがきた。それがなんと二十歳も年上であった。子供がいるどころか、息子の嫁は妊娠中だという。つまり、じじぃだ。
この侯爵は『行かず後家になる前にもらってやるのだ』と社交場でも豪語していた。その侯爵州は、数年前に山から銀が出土し、景気が急激に上がっていて、資産だけなら公爵家を上回っていた。
ゼルジオは、そのじじぃ侯爵から婚姻の申し込みが来た時、あいにく国内にいなかった。帰国してすぐに断りを入れた。
それにも関わらず、侯爵がすでに豪語したために、公爵が否定すればするほどロゼリンダの醜聞はさらに上乗せされてしまった。
『九歳で婚約破棄となり、さらには隣国の王太子に公の場で振られ、あげくに二十も上の侯爵に嫁がされる令嬢』
ロゼリンダの醜聞は留まること知らず、貴族間に轟いていく。
侯爵家との婚姻の話はランレーリオも知ることとなった。
ランレーリオは祖父ナルディーニョから『私が孫たちの婚約解消はありえないと(当時の)国王陛下に進言したにも関わらず、(当時の)外交大臣である(当時の)アイマーロ公爵が勝手に婚約破棄にした』と聞いていた。
それからロゼリンダにかかる醜聞は少しは気にしていた。しかし、『自分が公爵になったら強権を用いてロゼリンダと一緒になるのだっ!』と強い決心で、学園生活に望んでいた。侯爵家とロゼリンダの噂も『ロゼリンダに悪い虫がつかないなら、問題なし』と考えていた。
ランレーリオの中では、走っているロゼリンダの後ろ姿を余裕で追っている気持ちであった。
まさか、当のロゼリンダが大変心傷つき、結婚に対して悲観的で悲壮感あふれ、余裕のない考え方になっているなど、全く思っていなかった。
そう、前を走るロゼリンダは苦痛の表情で顔を歪めていたのだ。
ロゼリンダが、この時昔のように後ろを走るランレーリオの顔を見れば、ランレーリオにもロゼリンダの苦しさが伝わったかもしれない。
〰️
学園でのランレーリオは、真面目だがイイヤツで笑顔を絶やさず成績もいつも二位で、優秀な上にモテた。
お相手としても、同州の子爵家からの釣書、多少年齢を上下した侯爵家伯爵家からの釣書が殺到していた。ランレーリオの気持ちを知っている母親デラセーガ公爵夫人メリベールは、それを無理強いすることはなかった。
ちなみに、いつも成績一位なのは才女の男爵令嬢ベルティナ嬢である。生真面目で優秀な彼女とはいいライバルとして切磋琢磨しており、科目によってはランレーリオの方が上のものもあるのだ。
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ランレーリオの気持ちを知っている母親メリベールは、友人としてアイマーロ公爵夫人キャロリーナにロゼリンダの様子を聞いてみた。
その手紙には、どれだけメリベールがロゼリンダを心配しているかが書かれていた。そして、ロゼリンダはとてもいい子なのだから、醜聞など無視していろと、強気な言葉でロゼリンダの母親キャロリーナを励ましていた。
キャロリーナはメリベールがロゼリンダに悪いイメージは何も持っていないことを知り、ロゼリンダとランレーリオの婚約の復活を考えた。そして、夫ゼルジオに相談する。娘ロゼリンダがかわいい公爵は、すぐに父である前アイマーロ公爵にその話をした。
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