第2話

 陳倉道から、渭水へ出る。この道が一番近い。

 ここからは、敵の領地だ。命も危ない。

 だけど五丈原は、まだまだ先だ。


「斥候を放ってね~。伏兵に気を付けて進んでね~」


「はっ!」


 ついて来てくれたのは、王都守備隊だ。一応、エリート集団。数は……一万人。

 少ないけど、五丈原には、六万人位いるはずだ。敵は、二十万人らしいけど。



 数日が経過した。

 注意深く進むと、味方の旗が見えた。こちらも旗を振って、援軍であることを理解させる。


「おお、王平将軍に姜維将軍!」


「え? 陛下? 何故ここに?」


 慌てて下馬して、礼を尽くしてくれる。

 俺も下馬して、彼等の手を取った。


「今までよく頑張ってくれたね。感謝しかないのよ~」


「「……陛下?」」


「そんで、魏軍の動きは?」


「え……。あ……、そこまで迫っています。しかし、大丈夫です。諸葛丞相は、策を授けてくれていますので」


「それだけじゃ、ダメなんだよ!」


「「えええ? 何で、秘策を知られているのですか?」」


 それと、張翼将軍は、頭を抱えていた。





 姜維の軍を崖の上で布陣させる。

 王平と張翼の軍は、山の中で待機だ。伏兵だな。


 待っていると、魏軍が来た。


「あの~、陛下……。兵が少ないんですけど」


「大丈夫よ、王都守備隊もいるんだし。追手の魏軍も少ないからね~。奥の手は、まだ見せないでね~」


 姜維は、不満なようだ。丞相は、戦いを避ける様に指示してんだもんね~。

 でも、今が千載一遇のチャンスなのよ。


 魏軍が、俺たちを見て攻撃して来た。崖を登って来る。

 姜維が、弓矢で迎撃するけど、進軍は止まらないな~。


「弓兵を下がらせて、盾兵を前に!」


「はっ!」


 皇帝自らの指揮だけあって、士気が高い。諸葛丞相もいい兵を残してくれた。

 ここで、とっておきを出す。

 諸葛丞相に似せた人形だ。これは、【死せる孔明生ける仲達を走らす】の応用だ。


 違うのは、出すタイミングだけだけど、崖で魏軍が止まった。


 魏軍に動揺が見られる。よっぽど、怖い思いをさせられたみたいだ。

 そして、退却の銅鑼が鳴った。


「今よ~!」


 旗を振って貰う。

 魏軍の背後より、王平軍と張翼軍が突撃した。


「姜維将軍。君も突撃して! 敵将を討ち取ってね! 諸葛丞相の意志を継ぐ時よ~」


「はっ! お任せを!」


 嬉しそうに、姜維軍が突撃して行く。

 三方向から攻撃されて、魏軍は大混乱だ。いいね、いいね。兵法って感じだ。



 その日……、司馬懿が討ち取られた。





『司馬懿が、死んじゃったよ。歴史が変わってんじゃん。この後どうなんだ?』


 俺は、三人の将軍を連れて五丈原へ向かった。


「あの……、陛下。どちらまで行かれるのですか?」


「うん? 魏延将軍と馬岱将軍の陣よ」


「……諸葛丞相の密命まで、ご存じでしたか」


「あ、その命令はキャンセルね。味方で殺し合うのなしね」


「「「えええ?」」」


 三国志演義の被害者の一人。魏延を生き延びらせるのが、俺の本当の目的だった。

 だけど、司馬懿を討ち取るという、もっと大きな歴史の変化を起こしてしまったんだよね。

 どっちが副次的なのか、分からないよ。

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