転生したら【阿斗】かよ~諸葛丞相いないんだけど、どうすっかな~

信仙夜祭

第1話

「なに? 諸葛丞相が亡くなっただと? 戦場で?」


 朕こと劉禅りゅうぜんは、驚きのあまり、玉座より立ち上がって報告を聞いた。


「無念にも、五丈原にて亡くなられたそうです……。病死とのこと」


 伝令が、涙を流しながら報告を行う。

 費禕ひい蔣琬しょうえんが、木簡を受け取り読んでいる。

 私は、目眩がしてしまった。

 そして……、階段を転げ落ちる。


――ゴロゴロ、ドスン


「「「陛下~!?」」」


 日頃の運動不足と貧血が招いた惨事だな。特に食事には気をつけよう。

 それと、皇帝の椅子って階段の上に作る必要あるんかな?

 毎日階段を登るのが辛いんだけど……。



 起きているのか、寝ているのか……。

 まどろみの中で、何かを思い出して来た。


「正史三国志……。三国志演義……。シミュレーションゲーム?」


 苦しみの中、私の前世の知識が、少しだけ蘇った夜だった。



 朝起きて、確認する。

 薄暗い部屋を出て、庭に出る。黙って、護衛がついて来た。

 まだ、朝日が昇った時間なので、静かだな。


「俺……、劉禅なんだよな。ネタで、【扶不起的阿斗】……"助けようのないアホ"って呼ばれる。ヤバくね?」


「陛下……、ご無理をなさらずに、ご静養ください」


 護衛が、諫めて来る。


「うん、心配かけてごめんね。でも、もう大丈夫よ~」


「……陛下?」



 さ~て、どうすっかな~。

 丞相の諸葛亮孔明しょかつりょうこうめいが、亡くなった直後っぽい。

 この後、内乱が起きるけど、蜀漢って四十年しか続かないんだよな。残りは……、三十年弱くらいか?


「陛下! お目覚めでしたか」


 董允とういんが来た。一晩中待ってたのかな?


「心配かけてゴメンね。でも、もう大丈夫よ~」


「……陛下?」


「報告をお願い」


「あ……。はい。諸葛丞相は、撤退の指示も出されており、楊儀ようぎが総指揮を執っております。後詰めは、魏延と馬岱に任せるとあります」


「ダメじゃん! 味方同士で殺し合う撤退戦じゃん!」


「はえ?」


 歴史を変えられるのであれば、まだ間に合うか?





 俺は、馬に乗り走らせた。久々の乗馬だったけど、問題ない。


「陛下~! せめて馬車にお乗りください!」


「黙って、朕に着いて来て~。今は一刻を争うのよ~!」


 蜀の道は、正直悪い。峠道を進み、桟道を通って漢中へ向かう。

 途中で馬を変えて、夜道を強行軍した。

 部下は……、半分が脱落だな。歩兵はしょうがない。でも、騎兵は頑張ってくれている。

 食事も馬上でとる。とにかく急いだ。



 三日で漢中へ到着する。


「陛下! 丞相は亡くられたのです。今更急いでも、何も変わりません! 冷静になってください!」


 ついて来てくれたのは、張翼ちょうよく将軍だった。

 いや、今ならまだ変えられるんじゃない?


 ここで、北伐より帰って来た軍が漢中に戻ってた。第一陣だな。


「これは、陛下!?」


 馬より降りて、将軍が一礼してくれる。


楊儀ようぎ将軍。ご苦労だったのね。君は、丞相の棺を持って成都に帰って。後は、朕が引き継ぐよ~。あ……、墓は漢中の定軍山だっけ?」


「「えええ!?」」


 まだ、間に合うはずだ……。

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