じつは実話です。その6 不自然な人々

毎回古い話ばかりで恐縮ですがもう少々お付き合いください・・。

今回は不自然な人々あれこれエピソードをご紹介します。


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20年くらい前、恐山に行ったときの話。

恐山への登りの山道をママチャリで登っていくおじいさんを車で追い越したことがある。

電動自転車がまだ普及していなかったころである。

ママチャリで座ったまますいすい坂道を上っていくおじいさん。すごい脚力。

しかものぼりが始まって間もなくではなく、結構何回かカーブしたところでの話である。

おそらく毎日恐山にチャリ通勤をして、鍛えているおじさんなのであろうと自分の中で整理したのを覚えている。


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これも20年近く前のこと。

日中友人を乗せて車を走らせていた時の話。

浦賀から観音崎に抜けるトンネルの入り口に、膝丈よりも長い白のワンピースを着た黒髪ロングの女性が立っていた。

ちょっとふらふらとして車に寄って来ようとしている雰囲気があったので、なるべく見ないようにして通り過ぎた。

十分にトンネルから離れたところで、「コスプレかなあ」と私が言うと、友人も「コスプレだよねえ」と返してきた。

あまりにもそれっぽ過ぎるいでたちだったけれど、何か助けを必要としている普通の人だったのかもしれないと思うと、逃げるように通り過ぎてしまったことに、少し罪悪感を感じる。


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15年ほど前、鎌倉の岩瀬かどこかの住宅街で脱輪したことがある。

左後ろの車輪が側溝にはまってしまったのだ。

社用車の軽バン。

職場に電話をして助けを呼ぼうにも遠いうえに始末書ものである。

とりあえず状況を確認しようと車を降りると、ちょうどビジネスマン風の男性が通りかかった。

つやつやのオールバックで、茶色いスーツを着て、薄いビジネス鞄をさげており、ひょろっと背が高く細い人だった。

その人は、状況を見ると


「ああ脱輪してますね。ここ多いんですよ。乗ってエンジンかけてください持ち上げますから」と静かにいった。


私はその人の指示通り運転席に戻り、エンジンをかけ、合図とともにアクセルを踏んだ。

車輪は無事道路に戻った。

お礼を言おうと車を降りようとすると、すたすたと路地を曲がって歩き去ってしまった。


「助けていただきありがとうございます。」と心の中でめちゃんこ感謝した。

無事に鎌倉の入り組んだ住宅街から抜け出せることへの感謝。

始末書を書かなくても済みそうだということへの感謝。

ふいに現れて風のように去ったビジネスマンへの感謝の思いが止まらない。

タイミングよく現れた偶然といい、薄くて細い印象のいでたちといい、あの細さで軽バンをひょいと持ち上げたことといい、妖精のような印象の人だったので、以来私は、かのビジネスマンを心の中で妖精さんと呼んでいる。


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とはいえ・・。そんな私自身も、実は状況的にかなり”不自然な人”になったことがある。

子どもがまだ1歳かそこらの時、急に思い立って観音崎公園に遊びに行った。

観音崎公園にあるらしいアスレチックで子どもを遊ばせようと思ったのである。

ところが、急に思い立ち、よく調べもせずに行ったものだからアスレチックの場所がわからない。

適当に止めた駐車場から、地図も見ずに、なぜだか灯台を目指し、そのまま灯台付近の森に足を踏み入れてしまった。

子どもを抱っこしながら観音崎の森をさ迷い歩いた。

結構長い時間山道を歩き続けて、レンガ積みの古そうなトンネルにたどりついたが、さすがに子どもを連れた状態で、真っ暗なトンネルを通り抜ける気にはなれなかった。

元来た道を戻る途中、森深い山の中腹でトレイルランの男性とすれ違った。

男性はぎょっとした顔をしていた。

うっそうとした森の中、子どもを抱いた得体のしれない何者かとすれ違ったたりしたらそりゃあ怖いだろう。

・・・その節は、すみませんでした。


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以上、不自然な人々エピソードでした。

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