第7話「下着透けさせるのは家だけにしてください」
「あの、先輩……その下着のやつってあれですよね? 某人気シリーズのやつなんですよね……?」
先輩が上着を着ている間、俺はそう尋ねた。
無論、下着を見たことで俺の頭は大混乱を起こしていた。
見えた下着の色が瞼の裏にくっきりと焼き付いてしまったせいで煩悩が頭の中を支配する。
『それでは、煩悩大臣。今の事象についての率直な意見を述べてください』
『えぇ、今回の「下着透け透け大作戦」では多くの脳細胞を死に至らしめたこと、大変遺憾に考えております。そのため、今後の対策につきましては……』
と俺の中の国会ですさまじい議論になっているほどにだ。
いやだって、俺女性の下着見るの初めてだよ!?
そりゃ、初めてあの噂のはながら刺繍で豪華っぽいやつ見えたらドキドキするよね、普通さ。
というか、実際はあれなんだけどさ?
見えたっていうか透けてたってだけなんだけど。
まぁ今の俺にはそんなこと関係ないし、どうでもいいけどね!?
いやいや、にしても俺ってすごくないか?
あの藤宮先輩のブラジャー見てしまったんだぞ、服越しに。
色は透き通った水色。
それこそ、藤宮先輩の綺麗な瞳みたいな色で、柄は花柄の美しい刺繍。
そこまで見えて、目が一気に胸元に惹きつけられた。
あれは色っぽすぎる。
まだまだ18歳の男が見るようなものではない。
にしても、女の人ってみんなあんなエッチぃ下着身に付けてるのか?
普通にあの子も、あの子も、高校で隣の席だったあの子だってそうなのか?
いやでも、先輩がモデルになりきるためにかげきな下着着けてるっていう線もないわけではないけど……。
くそう、わからねえ。てかわかっていた方がおかしいのかも知れないけど。でも分からないせいで余計によく分からなくなっちゃってておかしいぜ。
俺の日本語もとろけちゃってるし……。
うわぁ、やべえよ、普通にやべえの見てしまった。
俺の大好きな先輩ってあんなの着てるのか、なりきっているとか抜きにしてもしっかり持ってるのかよ。
まじかよ。もしも、もしも俺の恋愛がうまくいったりでもしたらいつかあんなものを今度こそ生で見ることになるんだよな?
ぬぉおおおおおおお、そりゃやべえ。
やばすぎでGANTZみたいに頭爆発しないか心配だよ。
って、いやいや、まだ落ち着け俺。
話が飛躍しすぎだよ。
「ふぅ……」
ため息を吐くと、隣から上着を羽織った先輩が首を傾げて見つめてきた。
「……あ、えと。すみません。ちょっと考え事してて」
「かんがえごと…………それは、その…………もしかして……私の下着の、こと……かな?」
「うっ」
恥ずかしそうに図星なこと呟いてくる先輩に俺は胸を突かれた気分だった。
一つ言い訳させて欲しいのは、女性とのそういう経験がないんだから考えちゃっても普通だよねってこと。
図星言われて凹んでいると、先輩は熱心に俺を見つめながら呟いた。
「や、やっぱり男の子ってそういう反応するんだよね……えへへ、間違ってなかった」
変態そうな笑みを浮かべる先輩に、俺はすかさず聞き返す。
「え、な、何が間違ってなかったんですか?」
「ん? あ、そのね……私の漫画の透けてる子シリーズのやつで、新しい女の子出そうかなって思ってるんだけど……それで、男の子もピュアな子にしようと思ってて、普通はどんな反応するのかなって思ってたから」
俺が訊ねると、なんか嬉しそうに口ずさむ。
先輩って、自分の世界に入ったら真面目に変態っぽい顔するんだよな。
「あ、やっぱりそうなんですね……」
「やっぱり?」
「え、いやその……下着とか、その辺演技で着てたのかなって思いまして」
「これは……私の自前のだけど」
すると、何気ない顔でボタンを外して見せてこようとしてきたので俺は慌てて先輩の手をガシッと掴んだ。
「ちょちょちょ!!! あ、あの先輩は一体何をしようとしてっ!?」
「え、見えないかなって……」
「天然なのか変態なのかどっちなんですか」
突っ込んでいるつもりなんだけど、当の本人はボケたつもりもなく本当に不思議そうな視線を向けてくる。
なんか、まるで俺がおかしなこと言ったみたいな空気感出すのはやめてほしい。
「へんたい? てんねん?」
頭の上にはてなマークが乗っているのが見える藤宮先輩。
自覚がないところが可愛いんだよな、優しくて綺麗なのに。ギャップ萌えしちゃうから。
「あぁいや、そのことはどうでもいいっていうか……とにかくこんな公共の場でボタン外そうとするのやめてください!!」
「じゃあ、これっ」
って今度は上着をはおいで白いシャツ下着にびっしりくっつけて透けさせてこようとしてくるんだけど!!
今度も俺は慌てて飛びついた。
「ちょちょちょ! あの先輩……それもやめてくださいっ!!!」
「え、でも見えてない」
「見えなくていいんですよ! というかさっき見ましたし、また見たら俺死んじゃいますから!」
「死んじゃうの? だめだよ、死んだら。堀田くん、私との約束忘れたのっ?」
急な上目遣い両手包みに胸がドキッとした。
いや、なんでこんなに急にめちゃくちゃ可愛い天然仕草見れるんだよ俺は。下着見て、手も掴まれちゃって俺ってもしかして明日にでも犯されちゃったりするんか?
「あ、いや、そうじゃなくて……死にませんし。頼むからこういうことを学校でするのやめてくださいっ」
さすがに言い切るとしっかり納得してくれたようで先輩はコクっと頷いた。仕草がかわいいなぁ、もう。こんな人がエロ漫画家だなんて考えられないよ普通は。
秘密とは言ったけど……えぐい秘密共有してるよな。
そんなことを考えている俺に、藤宮先輩がくいくいと袖を引っ張ってくる。
「……それじゃあ、どこならできる?」
「え、ど……どこ?」
「うん。だって、私と堀田くんでモデルやらないといけないし」
いや、そういうことじゃないんだけどなぁ。
ん?
待て待て待て、なんか先輩の目本気じゃないか?
やる気っていうか、ヤる気っていうか?
って、やばいやばいやばい。
あれなのか、もしかして俺ってめっちゃヤバいことを先輩と約束しちゃったんじゃないないのか?
ほら、昨日までの俺は乙女だとか思ってちょっと感動してたんだけど、こう見るとただの変態エロ漫画家って……そうだった、この人俺の大好きなエロ漫画家だったは!!
と、先輩はさらに続けるようにこう呟いた。
「あ、もしかしたら……私のお家ならいっぱいモデルになってくれるかな?」
おーい。
ど変態がここにいますよ、警察さん!
この人超絶怒涛のピン芸人じゃなくて超絶怒涛のド変態ですって!!
「……だめ、かな? 約束したから、私てっきりどこでもできるのかなって思ってて……」
あれ、なんか藤宮先輩目元から涙出てない?
なんで泣いてるの?
「ごめんね……私、よく分からなくて勝手に考えちゃって……」
あぁ、やばいやばいやばい!
こんなことされたら、もう……。
「い、家で……よろしくお願いしますっ!!」
今にも崩れ落ちてしまいそうな憧れの先輩のあまりにもな表情に敗北してしまって、肩をガシッと掴み、しっかりと目を合わせて、俺ははっきりとそう言ってしまったのだった。
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