第6話「モデル1-0 下着透けさせ美人」
家に帰り久々の湯船に浸かりながら、俺はスマホの画面を眺めながら考える。
「はぁ……いやぁ、濃い一日だったなぁ」
本当にその通り、濃い、というか濃すぎる一日だった。
匡生に合コンに誘われて断ったかと思えば本命の藤宮先輩のピンチに遭遇してこれからテンプレのラブコメ的な展開があるのかな——なんて考えていたのも束の間、まさか藤宮先輩の正体があの超人気エロ漫画家”ドデカメロン”だったなんて思ってもいなかった。
だって。
考えてみてくれよ。
あの可愛くて優しくて美しい、女性としてみればもう誰にでも勝てるくらいには魅力の詰まった超絶美人女子大生の藤宮姫子先輩が。
裏の顔はSNSで軽く一大ムーブメントを起こしている超絶人気なエロ漫画家だったんだぞ?
二面性にも程がある。
まるで恋愛漫画か何かの流れじゃないか。
そりゃあドキドキで目も飛び出そうになるし、頭もぐちゃぐちゃにかき乱されておかしくなる。
それに加えて、俺はどちらものファンだということだ。
中々ないぞ、こんなこと。
好きな人が二人とも同じ人だったなんてこと。神様が何かを仕組んだって言われても何の疑いもしないほどだ。
それに、ちょっと心苦しいのがあの綺麗で清楚だった藤宮先輩像がもうボロボロに傷つけられてしまったということだ。
これ自体、藤宮先輩は何も悪くないし、俺が一方的に押し付けている想像の話だから言及はしないでほしいけど、こう胸にぽっかり穴が空いた気分だ。
なんて言えばいいだろうか、例えばほら、大好きで推していたアイドルが引退した後に結婚して幸せになったとか。大好きだったVtuberが引退した後に皮を捨てて生身で配信するようになったりだとか。
そんな感じの気分だ。
ふぅと息を溢すと、なんか白い靄が出てきたような気がして不意にお酒を飲みたくなった。
——って、俺はまだ十八歳なんだけどね。
きっと、こうやって悩んだ時に飲むのかな大人の人は。
先輩も確か誕生日四月中だったし、今頃飲んでるのかな。
そう言えば、台所にストゼロの長い缶の空き缶も数本置いてあったし、きっと作品が売れないときとか、スランプの時に飲んだりするんだろうな。
にしても、あの藤宮先輩がエロ漫画だけじゃなくてお酒までバクバク飲んじゃう人だとは……結局、人は見た目だけじゃないって言うことなんだな。
くぅ~~~~!!!!
「なんだかなぁだよ!!! 俺の想像していた藤宮先輩ってもっとこう、お酒を数口飲んで真っ赤になってべったりくっ付いてくるようになっちゃう色気の出し方をすると思ったのに!!!!」
心の底から飛び出た本音。
風呂場の籠った壁に反響して増幅して、隣の家からの壁ドンを呼び起こす、
——ドドドドドン!!!!!
「すみません!!!」
太鼓と達人かよって、ちょっとくらい良いじゃん。今日は色々あったんだし。
ってまぁ、そんなの自分勝手な話だよな。
俺も、先輩の役に立ちたいって決めたことしっかり全うしよう。
たとえ藤宮先輩が超がつくド変態だったとしても好きな気持ちはそう簡単には変わらない。
どっちも好きな人なんだ。それが同一人物でも俺は応援しよう。
「ふぅ……あがろうか、な」
―――――――――――――――――――――――――――――――
翌朝、俺はいつも通り大学へ向かった。
本日の講義は二、三、五限の三つだけだ。
数学、数学、そして電子系のラインナップ。
「だけ」なんて格好つけて軽く言ったが実のところ、俺はまだ課題が終わっていない。
よって、残りの課題を講義が始まる五限までに終わらせなくてはいけないのだ。
だからまぁ、二、三限が終わった後に図書館に来たのだが————隣に見知った顔がいた。
「あ、あの……どうしてここに先輩がいるんですか?」
目が合って思わず聞いてしまったが別に聞かずとも答えは出ていた。
先輩の目が若干左右に泳いでいる。そして、昨日と一緒で頬が赤い。
「……ぇ、ぇと、私もその……やることがあってね?」
恥ずかしそうに言った先輩の手にはタブレットと電子ペン。多分、漫画か何かを描いているのだろうか——
「……あぁ、そ、そうですね。そっちのですか」
——って、変態な藤宮先輩がそんな普通なことしてるわけなかった。
自習室の隣の席との間に置かれた壁の上から覗き込むと見えてきたのはタブレットの画面に映っていた裸体の女の子だった。
真っ赤な頬に、桃色の綺麗な乳首。
恥ずかしそうに手であそこを隠しながら大きく口を開ける黒縁の丸眼鏡の子だった。
こんな大学の敷地内でエッチなイラストを描いちゃう先輩は本当に変態だ。周りに人がいないのが唯一救えるところだけど。
「堀田君はどうして、きたの?」
「俺はその、五限目までに課題を終らせなくちゃいけなくて」
「どのくらい残ってるの?」
「あーっと、それはもうたんまりと。まだレポートが一つ終わってないですし、今日の小テストの勉強もしてないので……」
「お、おぉ……」
そう言うと先輩は少し悲しそうに呟いた。
「もしかして、私のせい……だったかな?」
声が若干震えている。
さっきまで赤かった頬も元に戻って、申し訳なさそうな表情で見つめられて俺は急いで否定した。
「いやいや! 別にそう言うことじゃないですよ、本当に。俺が帰ってだらだらしすぎてたので先輩は何も関係ないですよ」
「な、なら、いいんだけれども……」
「はい、だから心配しないで大丈夫です。先輩もすることあるんですし、頑張りましょ?」
そう言うと顔が分かりやすくパーっと明るくなる。
「う、うんっ」
コクっと頷いて俺たちはやることをそれぞれ始め——————ようとしたところだった。
俺は、思わぬことに気が付いた。
というか、気が付くタイミングが遅すぎた気もするけど……うん。ちょっとさすがに、これは異常かもしれない。
だって、藤宮先輩。
——今日の服、薄くないか?
大きな胸が薄く透けている白い服のせいで、中のブラジャーの色がうっすら見える。
水色……そして、花の刺繍がびっちり入っている結構気合の入ったやつだった。
無論、俺はそんな光景に驚きながらも思考をフル回転させた。
俺の目のバグかとも思ったが、壁がからはみ出た上半身の胸元にブラの紐が綺麗に透けている。
やっぱり、バグじゃない。
にしても、エロい――じゃなくて、これって指摘した方がいいのかな……。
迷いながら、ここは一旦先輩の表情を窺ってみようと席を後ろに引いて顔を覗こうとする。
そして—————
「っあ」
「っえ」
藤宮先輩の目と俺の目が綺麗に合った。
「……っ」
そして、俺の頭はすぐに答えを出した。
どうやら、隣にいる先輩は漫画のために「隣の後輩君に下着が透けているのがバレるかどうかのスリルを楽しむ女子大生」のモデルをしているのだ。
ドデカメロン先生の大人気シリーズの一つ。
気づいてくださいシリーズの最新作の案だろう。
それを瞬時に思いだす俺も俺だが……周りに人はいないとは言えど、下着透けさせるのは変態すぎませんか?
「あの、先輩……さすがに上着着てくれませんか?」
「は、はいっ……」
俺は先輩の席の背中にあったカーディガンを持って背中を覆うように羽織らせた。
そんな何気ない仕草に、先輩はどこか嬉しそうで狂気を感じたのは俺の中での秘密にしよう。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます