第27話私は大馬鹿だ

「あら、ミシェルさん、あなた大丈夫? 今日のショーは出場するのは辞めて置いたら」とロザリーが言ってきた。




何その分かりやすく自分が突き飛ばした犯人です、って言っているような言動は。


私まだ何もうんともすんとも言っていないのに。


それこそ足を怪我したことなんてまだ一言も発していないのに。


ロザリーさんや、その言動は自分が犯人であると白状しているようなものですよ。




まあ、いいや。


ロザリーさんがやったという確たる証拠もないし。


腹立たしいけど、彼女を責め立てるのはやめておこう。




「ミシェルさん、大丈夫ですか? 一体何があったのですか?」




アルバート様が、ヴェインに背負われていた私を心配してくれたみたい。




「それが、その、階段から滑って落ちてしまいまして、その時に足を挫いたみたいなのです」




「そんなことが!? ならはやく保健室へ言って手当を」




「いや、今はやめておいてくれないか?」




ヴェインが話を遮る。




「どうやらミシェルは、今回のショーに懸けている思いは本気みたいだからな。そのミシェルの意志を尊重してやって欲しいんだ。頼めるかなアルバートさん?」




ヴェインのその言葉に、アルバート様が少し考えてから「……分かりました。では私に考えがあります」と言った。






――いよいよ私たちの順番がやってきた。




私とアルバート様は特設ステージを歩きだす……。


いや、正確にはアルバート様だけが歩き出した。




どうしてかですって?


そりゃ今私……、アルバート様にお姫様だっこされているのですもの!


アルバート様の尊いご尊顔が間近にある。




どうしてこうなった?


めちゃ恥ずかししい。


照れる。


無理ー。


ドキドキし過ぎて死ぬー!




めちゃくちゃみんなからの視線を感じる。


良くも悪くも女子たちからの注目が強い。




私はステージ上を歩いているアルバート様に「あ、あの、すみません。こんなことになってしまって」と申し訳なくそう言った。




するとアルバート様から「いえ、姫をこうしてお守りするのも騎士の務めですから」とにこやかに言われてしまった。




ぐわっはあっー。


もうダメ。


なんかもう今日死んじゃっても良いかもしれない。




――そうしてショーは終わり、ランキング発表の瞬間が訪れた。




「栄えある第一位は――」




ドラムロールの音楽とともに一位の発表がされた。




「第一位はユリウスアンドソフィアペアの二人! 二人ともおめでとうございます!」




その二人は、この乙女ゲー世界の主人公であるソフィアと、攻略対象の内の一人であるユリウス王子。


え……?


うそ?


二人とも出てたんだ。


しかも一緒のペアで……。




そんな、まさかね……。


まさか二人がそういう関係だなんて、そんなことあるわけ――。


いや、私にとってここはゲームの世界であり、そして現実の世界。


なら充分にあり得る話だわ。


現に前世では、ソフィアとユリウス王子の二人が結ばれるエンドをこの目で見た。


であれば、もしやソフィアはユリウス王子と結ばれるルートに入っているということなのでは?


そうだわ、だって私ユリウス王子を含めた四人の攻略対象の内、王子以外の三人とは、既に面識がある。




つまり本来その三人と関わるはずのなかったモブであるはずのミシェルが、その三人と関わってしまったが故に起きてしまった、ルートの改変が起きたんじゃないかしら!?




本来乙女ゲーとは主人公による無数の選択によっていくつかのルートに別れる。


誰と結ばれるかやどんな終わり方であるかなど、それこそ本当の人間の人生のように、無数の選択肢によって結末が変わる。




つまりソフィアは、ヴェインやグウェン、そしてアルバート様の誰かと結ばれる運命もあったはずなのだけれど、私がその三人と関わってしまったことで、何か予期せぬフラグの発生を潰してしまったのではないかしら?




だとしたら、まずいわ。


今ソフィアは、ユリウス王子と結ばれるルートに入りつつある。




ここが仮にゲームのシステムをそのまま引き継いだ世界であったなら、そろそろソフィアとユリウス王子が結ばれる確定ルートのイベントが起こるはず。




それまでにユリウス王子と私が結ばれるために頑張れば良い……。


いや、そんな悠長な事言っていられるわけない。


ああもう、どうして今まで気付かなかったんだろう。


私の馬鹿。




急がないと。


なんとかしてユリウス王子と私が結ばれる運命を、この手に手繰り寄せなければ!






――ファッションショーが終わったころのこと。。




「あなたがミシェルさんですわね。はじめまして、私ソフィア・シルフィエットと申します。どうか私と仲良くしてくださらないかしら?」




そう言ってきた方は、まるで雪の結晶をそのまま落とし込んだような色の髪と肌をしていて、全てが白く透き通ったとても綺麗な美少女だった。


それがソフィアとの初めての出会いだった……。






「は、はじめましてソフィアさん。どうされたのですか?」




やばい、恋のライバルが向こうからやってきた。


「突然すみません。あなたに言わなくちゃいけないことがありまして……」




「言わなくちゃいけないこととは?」




「あなたに感謝したいのです」




「どういうことでしょう?」




「その……聞いてもお驚かれると思うのですが……。私はあなたのおかげでユリウス様と出会えたような気がするのです」




私のおかげでユリウス様と出会った……?。




「ますます分からないのですが……?」




「そうですわよね。なんと言ったら良いのか……。私が同じクラスの方々から酷い扱いを受けていた時があるのですが、その時に頭の中で何をどうしたら良いのか何故だかすっと分かったのです。まるで何か見えない力が働いていたような。私じゃない違う誰かにそうしろと言われたような感覚になったのです。それからも度々何かその見えない何者かの力を感じることがあって、それにユリウス様ともその力のおかげ出会えた気がするのです」




「はあ、そうなのですね」




何か分かったような分からないような。




「ええ、それで今日あなたがショーに出ているの見つけて分かったのです。あなたがその見えない何者かの力の正体だったのだと……。なんとなくそう感じたと言いますか」




ソフィアは、どう説明したものかと苦心しているような顔になっていた。




ソフィアの言いたいことがわかってしまった……。


きっと多分こういうことなのだろう。




「もしや何個かある選択肢のうち、その一つを自分ではない他の誰かが選んでくれているような、そんな感覚のことではないでしょうか?」




「そうなのです! まさしくそうなのですよ! もしかしてミシェルさんもそういった感覚になるのですか?」




「そうかもしれませんね……」




「やっぱり、ミシェルさんもそうだったのですね。だからあなたを一目みて、何かを感じたというか、私あなたのことを知らないわけじゃないような、そんな気がしたのですよ。私たちきっと同じ力を持っていたからそう感じたのですね」




「そうですね。私はあなたであり、あなたは私であるような、まるで私たちは一心同体のような感じがしますね」




「そうですそうですわ。私もまさに同じことを感じましたの。ミシェルさんもそうですか、これでやっと謎がとけてよかったですわ。それではまた」




去り際のソフィアに私はあることを聞きたくなった。




「あの、一つだけ聞いてもよろしいですか?」




「ええ、なんでしょうか?」




「今度の学際ではユリウス王子とソフィアさんのお二人で劇をおやりになるのでしょう? その演目はきっと『永遠の誓い』というおとぎ話なのでしょう」




「ミシェルさんはそんなことまで分かるのですね! ええ、まさしくそうですわ」




「やっぱりそうですか……」




「あの、すみません私そろそろ行かなくてはならなくて、これで失礼させて頂きますね」




ソフィアはそう言うと去っていった。




――ああ、そうだったのね。


全部わかったわ。




この世界はきっと、私がプレイしていた「聖ヴァレンシュタイン学院パラダイス」のそのままのデータの世界なのだ。


私が前世で死ぬ直前にプレイしていた、一週目のユリウス王子ルートの通りのまま進む世界。


つまり私がどう足掻こうとも、主人公であるソフィアとユリウス王子は結ばれる運命にある。


だって私が前世でプレイしていた時にそれを選んでいたのだ。


その通りのままにこの世界の歯車は回っていたのだ。




……そうか。


私はどうしたって主人公のようにはなれない――。

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