第26話レッツファッションショー!

「さあ、今年もこの日がやってまいりました! レッツ! 男女でファッションショー! を開催するこの日がやってきましたー!」




――学内の中庭に特設されたステージ場で、司会進行の方がマイクを手に場を盛り上げていた。




ついに始まってしまった。


この日が――。




ステージ裏の控え広場に私はいた。


そこで深呼吸をする。


まだ心臓がバクンバクンといっている。




「ミシェルさん、あまり緊張なさらずに」




アルバート様が私に優しく声をかける。




「と言っても、今回私も初めて出場するので、緊張しているのですがね……」




緊張している私を和ませるために敢えてそう言ってくれているのでしょう。




「はい、なんとか頑張ってみます……」




緊張している私はなんとか声を絞りだし、返事をした。




「そのドレスとてもよく似合っておりますよ」




アルバ―ト様が私のドレスの袖に手を添えながらそう言った。


このドレスはお母さまが急遽用意してくれたものだ。


私がこの催しに出るといったら、慌てて新調して仕立ててくれたのだ。


赤い色が良く映えているドレスだった。


私に似合っているか正直不安だったのだけれど、アルバート様が似合っていると褒めてくれて良かった。




「ど、どうもありがとうございます」




照れているのをなるべく悟られないように冷静にそう言った。




「――あら、ミシェルさんじゃないの。あなたも出るって聞いていたけれど、本当だったのね」




その声はいつぞやの陰湿伯爵令嬢のロザリーからの声のものだった。




「ああ、ロザリーさんも参加されるのですね」


でも、考えてみればそうよね。


ロザリーはこういう催しに興味がありそうな側のタイプの人よね。




「ええ、勿論。でもごめんなさいねミシェルさん」




「何がでしょう?」




「私が今日一位をとることに決まっているでしょう? あなたも知っているでしょう? 出場者にはランキング形式で順位が与えられると。私がそのランキングで一位をとることは決まったも同然ですわ。だって私以外対して華のない女ばかりですもの。オーホホホホ!」




本当嫌味な人だこと。


でも確かに美人なロザリーには、私じゃ敵わないでしょうね……。




「ミシェルさん、この前の髪飾りは持っていますか?」




アルバート様が突然そう言い出した。




「え? ええ、はい。持っていますが」




「では、ちょっとだけじっとしていてください」




「はい……? 良いですけれど」




アルバート様は私の前髪を横のほうにかき分けると、髪飾りでそのまま留めた。




「出来ました。どうぞ鏡を見てみてください」




「え、ええどうも……」




私はアルバート様から渡された手鏡を覗く。




……え。


これが私?




そこに写っていたのは、どこからどうみても美少女にしか見えない姿だった。


我ながら、自分のことを美少女と呼ぶのはどうかとも思うのだけれど、そう見えてしまったのだからしょうがない。




私ってこんな顔だったんだ。


やぼったいくらいの前髪をかき分けるだけで、こんなに変わるものだったんだ。




「ミシェルさん、あなたはとても綺麗な方なのですよ。あなたのその心が美しいから、そのお顔もまた自ずと美しいものになるのですよ」




アルバート様、もうやめて。


それ以上言われると私、もうどうにかなっちゃいそうなくらい今心臓が、ドキンドキン言ってるから!




「な、なによ。ちょっと髪型を変えたくらいでいい気にならないでくださいね!」




吐き捨てるようにそう言い放ち、その場からどこかに行ったロザリー。




「アルバート様、その、ありがとうございました」




「いえ、私は何もしておりませんよ。私はただ、隠れていたその美しさを思い出させただけのことです」




やばいやばいやばい。


もう頭の中がずっきゅんずっきゅん言ってるんですけどー!?




ってそういえば。


ふと、手鏡に写る自分を見て思い出した。


そう言えばヴェインから貰ったクローバーのネックレスがない。


もしかして教室に置き忘れてしまったのかもしれない。




「アルバート様、私ちょっと教室に戻って忘れ物をとりに戻ってきますね。アルバート様はここでお待ちになっていてください」




「ええ、わかりました。まだ順番はこないでしょうから、ゆっくり探していても大丈夫だと思いますよ」




「はい、では行ってきますね」




私は特設会場を抜け出し、校舎の一年の教室に戻った。


そこで探していると無事にネックレスが見つかった。


良かった。


ヴェインから貰ったこの大事なネックレス。


危なく失くすところだったわ。




会場に戻るため教室を抜け、階段を降りる。


その降りている最中、何者かが私を階段からつき飛ばしてきた。


え?


気付いた時には、階段から足を踏み外し、落下していた――。


いたたっ……。


足を挫いてしまったようね。


でもそれくらいで済んだのは幸いだったわ。


あの高さから落ちてこれで済んだのは救いだった。




一体誰が私をつき飛ばしたのだろう?


いや、今はそれよりも誰か助けを呼ばなくては。


この状態では歩きようもないし。


はやくしないとショーが始まっちゃう。




「ミシェルじゃないか。こんなところで何してるんだ?」




その声はヴェインの声だった。




「ヴェインじゃないですか。ヴェインこそこんなところで何してるんです? ショーはもう始まっちゃいますよ」




「いや俺はショーには出ない。それにミシェルが他の男と出てるところなんてみたくないしな」




「そうですか。ってそれよりヴェインちょっと助けてくれませんか?」




「どうした?」




――私はことの経緯を話した。




「なるほどな。じゃあまず、保健室に行こうぜ」




「いいえ、それはダメです」




「おいおい、ダメってなんだよ。まさかその状態でショーに出るつもりじゃないだろうな」




「そのまさかですよ」




「はあ、ミシェル……。なんでそこまでしてショーに出たいんだよ」




「そうですね……。あの陰湿伯爵令嬢をぎゃふんと言わせたいからですからね」




「陰湿伯爵令嬢? って誰だ?」




「ロザリーさんのことですよ」




私がそう言うと、ヴェインはゲラゲラと笑い出した。




「陰湿伯爵令嬢って、確かにあいつにはお似合いの名だな。ははは」




「そうなのですよ。だからあの人をちょっと見返す意味も込めて、私がショーでもし一位を取れたらロザリーの鼻っ柱を折れるかなって」




「なるほどな。そういうことならわかったぜ」




そう言うとヴェインは屈んだ姿勢になった。




「ほら、乗ってけミシェル。俺が会場まで連れてくよ」




ヴェインは本当今みたいなイケメンムーブがお似合いよね。


この前も私が足を捻った時も似たようなことがあったっけ。




「じゃ、遠慮なく。あ、重いなあとか絶対言わないくださいね。言っときますけど、乙女の重さ事情はデリケートなんですからね」




ヴェインの肩に捕まる。




「心外だなあ。俺がそんなデリカシーのない男に見えるのか?」




「デリカシーないは嘘ですけど。でもいつもヴェインは強引すぎて、私はそれに振り回されっぱなしなのですが」




「あははっ、さてなんのことやら。俺はただ、愛しのミシェルに振り向いて欲しくてついつい、ちょっかいかけてしまっているだけなんだがな」




「ちょっかいかけてる自覚はあるのですね……。自覚があるのならやめてくださいよ」




「嫌だね」




「なんでですか!」




「だって俺にはミシェルしか目に入ってないから……。ミシェルに振り向いて貰うためなら俺はなんでもするぜ」




ぐあはああああー。


またそんなイケメンにしか許されない言葉を吐いて。


まあ、現にヴェインはイケメンなのですけれども……。




「そうだ。今までのミシェルも勿論綺麗だけど、今日の君はいつにも増して輝いているよ」




ごほあああああー。


とどめの一撃を喰らってしまったー。


今のはあれよね。


きっと私の髪型が変わったことをいっているのよね?


ああ今日髪型変えたんだ、イメチェンしたんだね、似合ってるよー。


ぐらいのよくある軽いやり取りよね?


うん、きっとそうだわ。


きっとね……。




ヴェインに背負われて、進み、無事に会場へとついた。




そこに着くと、何やらロザリーがニヤニヤと悪そうな笑みを浮かべていた。

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