第22話これってもしや逆ハーレム

――それはお昼休みの時間のこと。




「元気かいミシェル?」




その声はグウェンからのものだった。


グウェンが私がいる一年の教室にきていた。


そのグウェンが、教室中からちょっとした注目を集めていた。


特に女子の熱い視線が注がれていた。


無理もないわね。


グウェンはイケメンさんですから。


ついつい女子はイケメンを目で追ってしまうものですもの。




「ああ、グウェンじゃないですか。ええ、私は元気ですよ。いいえ、なんなら元気一杯です!」




「そっかそれは良かったよ」




「グウェンは今日、どうされたんですか?」




「実はちょっとミシェルに渡したいものがあってね」




「ああ、そうなのですか? どういったものでしょう?」




「これだよ」




そう言って渡されたのが、私の両手に丁度収まるくらいの大きさの一枚の絵でした。 


それは一目見てグウェンのものだと分かるほど、繊細で美しい色使いの絵でした。


その絵は純白のドレスに着飾られた私が描かれていた。


耳にはエメラルドの装飾が施されたイヤリングがあった。


すごく綺麗な絵だわ……。




「これを私に?」




「うん。どうかな気に入ってくれたかな?」




「ええ、とても。大事にしますね。まさか私を描いてくれるなんて思いませんでしたわ。こんなに素敵な絵をありがとうグウェン」




「ふぁー、良かった。今日一日ミシェルに気に入って貰えるかずっと不安だったんだ」




「そうなのですか? 私グウェンの描く絵の大ファンなので、まさか気に入らないなんてことありませんよ」




「僕の描く絵の大ファンか……。そっか、そうだよね。ミシェルありがとうね」




「ええ、そうですよもっと自信をもってください。グウェンは未来の画家さんなんですから」




「うん! そうだね。よーし、もっともっと頑張るぞー!」




「うふふ、その意気です」




なんていう会話をしていると、ヴェインが横からちゃちゃを入れてきたのでした。




「そういうの困るなあグウェンさん。”俺”のミシェルに近づかないで貰えないですかね?」




何かグウェンを威嚇するようにそう言い放つヴェイン。


ぎっと彼を睨んでいる。


何か怖い……。




「言っておくけど君がこの前、ミシェルの頬にキスしたくらいで僕が諦めるとでも思ったかい?」




売り言葉に買い言葉のようにグウェンが言い返していた。


何か二人の間に、バチバチと火花が飛んでいるように見える。




え、なに? 今一体なにが起きているのかしら?


何か私を巡って二人がバトってるのだけれど……。


なんで?


なんでいつも二人が会うとこうなるのよ。




というか、ヴェインが私の頬にキスしてきたことはもう忘れていたことなのに、今の言葉で思い出しちゃった……。


ううううぅー……。


まずい、またここから走り去りさってしまいたい。




そう思っていると……。




「どうも、ミシェルさん。会いにきてしまいました」




と、アルバート様まで私たちの教室にきたのでした。




「ア、アルバート様! どうもお、お久しぶりですね」




「ええ、本当に。中々ミシェルさんに会えなくて。寂しかったのでつい、こちらから伺ってきてしまいました」




「そ、そうですか。それは良いのですが……」




気付けば教室中がざわめいていた。


そりゃそうです。


他の人たちからしたら、三人のイケメンたちと私が、普通に接しているのが不釣り合いな景色に映っていることでしょうからね。




中には「え、あのアルバート様が一年の教室にきていらっしゃってるわ!」と驚きの声を上げている女子の方がいました。




なんかこれって私、悪目立ちしている気がするのだけれど……。




「ミシェルがまた無自覚に男を釣ってきたのか……」




何か呆れ気味にそう言ったヴェイン。




「どうやらライバルが増えてしまったようだね……」




なにやらヴェインに同調気味のグウェン。




「私が何か?」




何か状況が呑み込めていないような様子のアルバート様。


というか私も状況がよく読めていなのですけれど……。




うん、私にはお手上げ。




もう為るようになれ―……。


思考放棄モードに移行した私であった……。




そんな私に「ミシェルさん。その、どうかこれを受け取ってはくれないでしょうか?」




アルバート様がそう言って渡してきたのは、青色のカーネーションの形をした髪飾りでした。


その髪飾りはアルバート様の髪色とよく似ていた。




「これを私にですか?」




「ええ、ミシェルさんの美しいブラウン色の髪にぴったりだと思いまして」




はにかみながら私の髪を撫で、とろけてしまいそうなそんな甘い言葉を言ってきたアルバート様。


周りにいた女子たちが「キャーキャー」と騒いでいる声がした。




ああ、やっばいわ。


これ、惚れてしまうわ。


というかこんなの惚れないほうがおかしいでしょ!




「ミシェルさん知っていますか? 青のカーネーションの花言葉は……」




「おいおい、なに勝手なことしてんだよ」




アルバート様の話を遮りヴェインが割って入ってきた。




「失礼ですがあなたは?」




丁寧な口調でアルバート様がそう聞く。




「一年のヴェイン・ウォルターだ」




「そうですかヴェインさん。私はアルバートと言います。それで先ほどあなたは『なに勝手なことしてんだよ』と言いましたが、それは何のことでしょうか?」




「ミシェルに贈り物なんかしたことだよ」




「ん? 何か問題でも?」




「大ありだよ! ミシェルに贈り物を送ることが出来る男は、この世には俺しかいないって決まってんだよ」




いや、決まってませんが?




「何故です?」




「ミシェルは俺のものだからさ」




「ミシェルさんは別に誰のものでもないと思いますが?」




「そういう正論は聞き飽きてるんだよー!」




何にキレてんのよヴェインは……。




「でもさ、贈り物を受け取るか受け取らないかはそもそもミシェル次第なんじゃないの?」




グウェンが更なる正論を言った。




「さっきだって僕の絵を受け取ってくれたしね」




ニコっとした笑顔を私に向けながらそう言ったグウェン。


うう、グウェンの癒しオーラ全開の笑顔がまぶいわね。




「それもそうだな。じゃあ、俺も二人に負けてられないからミシェルにこれを贈るよ」




そう言って、ヴェインが首から下げていた四つ葉のクローバーのネックレスを私の首にかけた。




「そんな、こんな大事そうなもの頂けませんわ」




私は申し訳ない思いに駆られてそう言った。




「いいっていいって、ミシェルは気にしないで。それに男からの贈り物は素直に受け取っておくもんだぜ」




「あ、ありがとうございます。大事にしますねヴェイン」




「ああ。ミシェルとっても似合ってるぜ」




「あ、ありがとうございます」




何私今日死ぬの?


今日一日で殿方三人から同時に贈り物を受け取るなんてどういうこと?


私もしかして一生分の運を今ここで使ってしまってるんじゃないかしら?


ま、まあ大丈夫よね。


まさか死にはしなわよね……。










――――


≪グウェン視点≫






ミシェルは気付いてくれるかな。


この絵の意味に。




このエメラルドは僕の髪色を模していて、つまりは僕自身を意味している。


そしてイヤリングの意味は、「君と永遠」にって意味だ。


つまりエメラルドのイヤリングは「僕と君が永遠であれ」という隠れたメッセージを仕込んでいる。




まあ、ミシェルのことだからきっと気付かないんだろうけど……。






――――


≪アルバート視点≫






ミシェルさんに今日、青のカーネーションの髪飾りを贈る。


青のカーネーションの花言葉は「永遠の幸福」なのだそう。




ミシェルさんにはどうかずっと幸せであって欲しい。


そんな意味を込めてあなたに今日これを贈りたいと思います……。






――――


≪ヴェイン視点≫






ミシェルに俺の持っていた四つ葉のクローバーのネックレスを贈った。


まあ、想い人への贈り物にしては上出来だったんじゃねえかな。


それにあの二人には負けてられないからな。




四つ葉のクローバーには一枚一枚の葉にそれぞれ意味があるそうだ。


「希望」「信仰」「愛情」「幸福」って意味がな。




そしてネックレスの贈り物には「あなたは私だけのもの」って意味があるらしい。


ミシェルへの想いが伝われば良いけど……。


多分、気付かないだろうな。


ミシェルのことだから……。

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