第21話あなたとずっと……

≪リコ視点≫






生まれた時から、私には特別優れたところなんてなかった。


人よりも並外れた部分がなかった。


強いて他の人よりもどん臭いところがあったことくらいでしょうか。


運動も勉強も大して出来ない。


外見もぱっとしない私。


何をしても不器用で、要領が悪く鈍かった。




そんなどれをとっても並以下で鈍い私は、周囲の人たちからは「鈍子」というあだ名で呼ばれるようになっていた。


人より秀でたところのない私には、お似合いのあだ名なのでしょうね。




でも両親だけは、そんな私をずっと大切に育ててくれた。


一言で言えば愛してくれていたのでした。


私もそんな両親を愛していたし、尊敬もしていていました。


だから私はいくら自分がこんなダメダメな人間であっても、両親が私のことを愛してくれているからこそ、今まで生きてこられたのだと思います。




――そんなある日のことでした。


私が七歳のころです。




隣近所に住んでいた、ロザリーさんが私の家に突然尋ねてきてこう言いました。




「ねえ、あなたリコさんよね? 良かったら私と一緒に遊びませんか?」




それがロザリーさんとの初めての出会いでした。


ロザリーさんはとても綺麗で可愛らしい方で、まるで私とは住む世界の違う人間のようでした。


だから最初「一緒に遊びませんか?」と言われているのが自分だとは思えませんでした。


この方はきっと、誘う人を間違えているのではないかなと思ったからです。




彼女は私に手を差し伸べてくれた。


でも私はそのお誘いを断ろうとしました。


けれどロザリーさんは「えー、一緒に遊びましょうよ。私たちせっかく隣近所なのだから、仲良くしましょうよ」と、屈託のないまるで天使のような笑顔でそう言ってくれた。




私はそんなロザリーさんに手を引かれて、あまり家から出ることのなかった私が、外の世界へと飛び出していったのでした。




ロザリーさんは私と本当にとても仲良くしてくれていた。




ロザリーさんのお家に遊びにいった時なんかは、私にはとても似合いそうもない華麗なドレスや靴をお借りして着させてくれたりした。




その時私は正直恥ずかしかったのですけれど、ロザリーさんが「とてもよくお似合いよ」と、言ってくれた。


嫌味ではなく本心からそう言ってくれているようでした。




その頃のロザリーさんはとても優しい人でした。




けれど――。


いつからか人が変わってしまったように、ロザリーさんは私に冷たい態度をとるようになった。




「あなたみたいなどれをとってもパッとしない人と関わっていても、私には一文の得にもなりませんわ。それに聞きましてよ、あなた鈍子というあだ名があるそうじゃありませんか。あなたにぴったりのあだ名じゃなくて。オーホホホホ!」




そう嘲笑するような笑みを浮かべながら私を見てきたロザリーさん。




私にはその時、自分に起きている状況がよく分かりませんでした。


ただ分かったことが一つだけありました。


それまで私に優しかったロザリーさんは、もういなくなってしまったということを……。




そのことがあって以来、彼女は私に対して棘のある言動をしてくるようになりました。


大抵は私の容姿であったり、私の至らない点についての悪口を言われましたた。


私は悲しいと思うと同時に、彼女がこうなってしまったのには、何かきっと事情があるのだろうと思いました。




後に、私の両親からロザリーさんの家のことについてきいたことがありました。


それはロザリーさんの両親が、権力ばかりを追い求めて、娘であるロザリーさんにはあまり愛情というものを注いでいないということでした。




私はそれが原因なのだろうと思いました。


ロザリーさんはきっと、自分が愛されていないという現実の反動でああなってしまったのだと考えました。




だから私は彼女を攻める気にはなれず、私が彼女から受けている言動についても、誰にも言わないでいるつもりでした。


だってロザリーさんはこんな私に優しくしてくれた人だったから。


こんな私とお友達になって……いえ、親しくしてくれた人だったから。


そんな彼女のことを非難する気にはなれませんでした。




それにいつかまた、優しかったころのロザリーさんに戻ってくれるのではないかと、期待している自分がいました。


だからそれまでじっと耐えてきた……。




それに私がなんでもないただのダメな人間であることは、私が一番よく知っていた。


だからロザリーさんにどんなことを言われようとも別に平気だった。


いいえ違う、平気なふりが出来ただけだった……。






けれど学院の入学式でのあの時、ロザリーさんに人がたくさんいたあの場所で、いつものように罵倒されたのは流石の私も堪えそうになった。


それまで人前では私のことを悪くいうことなんてなかったから、この状況を誰かにみられていることが苦しくて恥ずかしくて、とても耐えられなかった。




――でもそんな時にあなたに出会ったのです。




「そんなことをしていて、人として、恥ずかしいとは思わないのですか?」




ロザリーさんにビシっとそう言い放った人。


それがミシェルさんとの出会いでした――。






ミシェルさんはこんな私に手を差し伸べてくれた人。


一筋の光を与えてくれた人。


私と友達だと言ってくれた人。




そんなあなたに出会て嬉しかった。


そしてあなたのことがとても眩しかった。


美しく輝いてみえた。






私にはないものを持っているあなたのことが、とてもきらきらして見えた。


私は出来ることならあなたとずっと――。


お友達でいたい。


ただそれだけが今の私の願いです――。

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