第20話私であり、あなたであり
≪リコ視点≫
ミシェルさんのお家にご招待された。
ヴェインさんもミシェルさんのお家についてくることになった。
お家についた私たちは、ミシェルさんの個性的なご両親のお出迎えを受けることになった。
そしてリビングに通された私たちは、皆さんで他愛もない会話をしました。
ミシェルさんがお手洗いに立った時のことです。
ミシェルさんのお母さまからこんなことを聞かれました。
「ねえ、リコさん。ミシェルは学院ではどうなのかしら? あの子全然学院でのこと話してくれないのよ」
私はその言葉に「どうでしょうね。なんというか、私が思うにミシェルさんは学院生活を楽しんでおられるのだと思いますよ」と思ったことをそのままに言った。
「本当に? それは良かったわ。でもきっとそれは、リコさんがミシェルと仲良くしてくれているからだと思いますよ」
「そうなんでしょうか……。でも、ミシェルさんが私と仲良くしてくれて嬉しい反面、どうしてこんな私と仲良くしてくれるんだろうって思っていて……。ってあの、これはその別に変な意味ではなくて……」
私のその言葉にミシェルさんのお母さまが少し間を置いてから、「ねえ、リコさん、あなたのいう”こんな私”ってどんな私のことかしら?」と聞いてきた。
え?
今までそんなこと考えたこともなかった。
気付いた時にはつい口癖になってしまっていたこの言葉。
私はいつも、まるで針でチクチクと刺されているような言葉を言われてきた。
それを聞くと心が痛くなってくる言葉。
”こんな私”とは、きっと私が今までそうやって言われてきたことをいうのでしょうね。
「なんの取り柄もない、こんなブスで鈍い私のことです……」
自分で自分の人格を否定しているかのようなこの言葉。
こんなこと、どうしてミシェルさんのお母さまに言ってしまったのでしょうか。
自分でも良くわからない。
けれどミシェルさんのお母さまは私のその言葉に対してこう言った。
「……私はこう思うのよね。何か並外れたものがあるかとか、何か人より優れたものがあるかとか、容姿が優れているかとか、そういう”つまらないもの”に固執する考えのほうがよっぽど醜い人、ようは”ブス”な人だと私は思うの。でも私から見てリコさんは、そういう”つまらないもの”に執着している”ブス”な人には見えないわ。あなたはもっと違うものを見ているはずよ」
私が見ているもの……?
私が……、私が見ているものは……。
両親とミシェルさん、そしてヴェインさんの顔が脳裏に過ぎった。
……そうか”私”を見てくれている人たちのことだ。
私の両親や、私とお友達になってくれたミシェルさんや仲良くしてくれているヴェインさん。
そのみんなが私を”私”として見てくれている人たちだ。
私を大切にしてくれるその人たちのことを、私は大切に思っている。
「私を見てくれている方々を、私は見ています!」
「ふふふ、それがあなたの答えなのね。ねえ、最後にもうひとつだけ聞かせてちょうだい。あなたから見てミシェルはどう見えているの?」
「……とても美しく、輝いて見えます」
「ふふふ、素直な答えね。ありがとうリコさん、ミシェルの母として嬉しく思います。ねえ、リコさんどうかこのことを忘れないでね。ミシェルから見ても、あなたと同じようにあなたのことを見ているということをね。人は自分自身を映す鏡です。それに人は類は友を呼ぶように、本当に似たもの同士しか巡り合わないように出来ているのですよ……」
……そうか、私が私を卑下する度に、それと同時に私のことを大切に思ってくれている人のことを否定しているのと同じことなんだ。
私はそのことにやっと気付けたのだ。
……涙が零れてくる。
ヴェインさんが「さすがはミシェルのお母さまだ。なんという聡明なお考えをお持ちの方なのだろうか。あなたのことは敬意を込めて、真の淑女とお呼びしてもよろしいでしょうか?」と言っていた
「まあ、若い殿方からそう言われるなんて光栄ですわ。ありがとう」
「貴様ー! ミシェルだけに留まらず私の妻にまで手を出すつもりかー!!」
「いいえ、そのようなことは……。ってああ、ぶたないで。ああ、ぶった! しかも二度もぶった」
「あなた、そのへんにしてくださいね」
ヴェインさんとお父様のお二人がちょっとした乱闘騒ぎを起こしてしまった。
私はその様がおかしくって、泣きながら笑っているような、そんな状態になりました。
そこにミシェルさんが、お手洗いから戻ってきたのでした。
「なに? この状況? どうしてこうなった……。っていうかリコどうしたのよ? 泣いているけど大丈夫?」
「私は大丈夫ですよ。あのミシェルさん……いつもありがとうございます。どうか変わらず私を見ていてください。私もミシェルさんのことをずっと見ておりますから」
「え? ええはい? 今後とも末永く私とよろしくお願いします……? って急にどうしたのリコは?」
「いえ、ただ私は、とても恵まれている人なんだなって思っただけです」
――これからは自分のことを”こんな私”なんてもう言わない。
これから出会う”あなた”が”私”を見てくれるように、”私”も”あなた”のことを見続ける。
それが”私”であり”あなた”なのだと気付けた。
今までごめんさない、”あなた”……。
今までごめんさない、”私”……。
そして今までありがとう……。
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