第16話私はあなたの騎士……そして……前編
≪アルバート視点≫
幼いころよりユリウス王子殿下のお側にいた。
ユリウス様と私の歳が同じであったこと。
ナイツ家は代々、王室直属の近衛騎士であることも関係して、私は王子殿下の護衛を任された。
それについて特に異論はなかった。
それが、ナイツ家に生まれた私の宿命なのだと、子供ながらに理解していた。
私は、己が騎士としての努めを、ただ果たすための存在。
そう教育されていた。
所詮私は、あくまでも王子の盾であり剣でしかない身であった。
――だから最初、王子殿下に出会い、開口一番こう言われたのが、今だ衝撃的だったのを覚えている。
「僕はユリウス。なあ、君、僕の友達になってくれないかな?」
その言葉を聞いて、私は、天地がひっくり返ったかのような思いに駆られた。
「私の存在は、あなたの御身をお守りするがために存在しているに過ぎません。それ以上でもそれ以下でもございません。ましてや王子殿下とお友達など、恐れ多いことにございます」
「なんだ、僕と友達にはなってくれないのか……」
「はい、申し訳ございません、王子殿下」
「いやいい。でもそうか……それではなんだかつまらないな……」
ユリウス様は顔を俯かせ、酷く残念そうな顔となっていた。
そんなユリウス様を見ていると、ついこんな言葉が口から零れた。
「お友達に……、というのは無理ですが、代わりにそれ以外のことであれば、何なりと私にお申し付けください」
ユリウス様の顔が明るさを取り戻したように見えた。
「そうか。なら、私と雪合戦をしようじゃないか! 丁度いまは冬だから、王宮の庭に雪が積もっている。それで雪合戦といこうじゃないか!」
ユリウス様は、とても嬉しそうにそう言うものだから、どうしようかと困ったものだった。
「殿下……、申し上げにくいのですが、そのような遊びをなさって、万が一にも殿下がお怪我をなされては……」
「なんだ? さっきはなんでも申しつけよと申したではないか? お前さてはこの王子である僕に、嘘を言ったのか? それとも何か僕の言うことが聞けぬというのか?」
「いえ、そのようなことはございません、王子殿下!」
「うむ。それでよろしい。では早速やるぞ」
「かしこまりました……」
――私は渋々ユリウス様に従った。
王宮の庭には、辺り一面雪が広がっていた。
「よし、やるからには勝負するぞ。先に降参と言ったほうの負けとしよう。異論はないな?
」
「は、はい。お、仰せのままに……王子殿下」
「よろしい。では始めようか」
「はい……」
正直気が重かった。
だが、これも王子殿下のご命令。
従わないわけにはいかない。
適当にやって早々に終わらせよう。
そう思っていた。
だが――。
「なあ、あそこにいるのはお前の父ではないか?」
「え?」
ユリウス様が指さすほうへとつい顔を向けた。
その瞬間、私の顔面に雪玉が飛び込んできた。
「いててっ……」
「やーい、引っ掛かったー!」
してやられた。
まんまとユリウス様の嘘にひっかかってしまった。
私はムキになって負けじと、ユリウス様の顔面に雪玉を投げ返した。
「ぐはっ……」
「これでお相子ですよ王子殿下」
「ぐぬぬ、やってくれたなー、このー!」
――それからお互いに、時を忘れるほど雪玉の攻防は続いた。
冬だというのに、汗までかいてしまうほど、熱い試合だった。
――それが終わる頃には、もはや勝負のことなどどうでも良くなっていた。
二人とも、最後はびしょびしょになって王宮に戻った。
そして、私たちが王宮の方々に叱れられたことは言うまでもない。
今考えると、この時からユリウス様と私とで、友情のようなものが芽生え始めていたのかもしれない。
そんなことがあったその年の夏頃。
「アル、ちょっとこっちにきてくれ」
「なんでしょうか殿下?」
「これを見てくれ」
そう言ってユリウス様が見せてきたのは、蛇のおもちゃだった。
「これがなんです?」
「ふっふっふー、まあ見ておれ」
ユリウス様は、その蛇のおもちゃを玉間と国王陛下の寝室とが繋がる廊下に置いた。
私たちはしばらく物陰に隠れていた。
すると国王陛下が歩いてくるのが分かった。
寝室へと向かっていた。
ご公務を終えられたようで、いつものようにひと時のご休息をとるためでしょう。
国王陛下が、あの蛇のおもちゃが置いてある廊下までくると、ほどなくして「へ、へへへ、ヘビだー!」と仰天した声を発した。
王宮内はそれでちょとした騒動になってしまった。
あとから犯人が判明し、その犯人たちはこっぴどく叱られたことは言うまでもない。
その時に国王陛下から「ユリウス、お前は少々利発的すぎるところがある。私はいつかお前が危ない目にあってしまうのではないかと心配である」と仰った。
「大丈夫ですよ父上。私にはアルがおります。もし私がそんな危ない目にあった時は、アルがきっと私のことを守ってくれますから」
「うむ。そうであるな……。のう、アルバートよ」
「はい、なんでありましょう国王陛下」
「私の頼みをひとつ頼まれてはくれないか?」
「はい、国王陛下のお頼みであればどのようなものであろうとも」
「では、国王として、また一人の父親として私から頼む。ユリウスのこと、どうかよろしく頼んだ。この子の騎士として、またこの子の友としてな」
「はっ、精一杯努めさせて頂きます!」
身の引き締まる思いに駆られた。
また、国王陛下から私のことを、ユリウス様の友と言ってくださったことが、何にも代えがたい喜びを感じた。
とても光栄だった。
素直に嬉しかった。
これからはユリウス様の友として、胸を張っていられるのだと、どこか誇らしかった。
ユリウス様も、もしかしたらその時、私と同じ思いだったのかもしれない。
このことがあってからというもの、ユリウス様と私の友情は確かな形となった。
どこへ行くにも。
何をするにも。
私たちは常に一緒であった。
王子と騎士とのそんな堅い絆は、思わぬ形で裏目に転ぶこととなった……。
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