第15話尊きことアルバート様の如く

「アルバート様……」




「ん? はて、失礼ですが、私のお知り合いの方だったでしょうか?」




「あ、いえ。そうではないのですが、なんというか、ユリウス王子とアルバート様のお二人は有名人なので」




「ああ、そういうことでしたか」




って間近で見ると本当にお美しいお顔だわ。


男性だと知らなければ、女性と見間違えてしまいそうだわ。




やだ、私。


アルバート様のお顔を見ただけでドキドキしてきちゃう。




「――おーい! ミシェルどこだー? いたら返事してくれー!」




げっ!


ヴェインの魔の手がここまで差し迫ってきている……。


どうしよう。


あ、そうだわ!




「アルバート様どうか助けてください!」




「え? ええ、分かりました。私はどうしたら良いのですか?」




「では、こうしましょう」




私は、アルバート様に協力してもらい、校舎建物の壁とアルバート様の身体との間でちょうど挟まれるように隠れた。




「これで本当によろしいので?」




アルバート様が困惑しながらそう聞いてきた。




「はい、ばっちりです」




――ほどなくしてヴェインがこっちにやってきたのが足音で分かった。


私はバレないようにこっそり様子を伺う。




「なあここにミシェ……。いや、女の子がこなかったか?」




ヴェインがアルバート様にそう尋ねている。




「ああ、女性の方なら、あっちの方へと行きましたよ」




そう言いながらアルバート様はどこかに指を指して、嘘情報を言ってくれたようです。




それを聞いたヴェインは、指が向けられた方へと、一目散に走っていった。


まるでアニメ走りさながらにビューっと走っていった。




そして「待ってろミシェル今そっちに行くからなー!」と言っていた。




やっぱりヴェインは色んな意味で危険人物である。




「もう行きましたよ」




「ありがとうございました」




「いえ、こんなことでよろしければ」




「はい、とても助かりました。ところでアルバート様は、こんなところで何をしておいでだったのですか?」




「ああ、いえ、別に大したことではないのですが……。そこにある花壇の手入れをしていたところです」




ああ、確かに花壇がそこにはあった。


こんなところに花壇なんてあったのね。


知らなかった。




「いつもアルバート様がここの花壇の手入れを?」




「ええ、まあ。と言っても私の手が開いている時だけですがね。今日は王子殿下から休暇を言い渡されてしまって……」




「ああ、そうだったのですね。お休みの時にとんだお邪魔をしてしまってすみません」




「いえ、謝ることではありませんよ。それにちょうど今、暇を持て余していて、花見をしていたところなので……」




「そうですか。そうだ、私もそのお花見をご一緒させていただいてもよろしいでしょうか?」




「ええ、勿論、構いませんよ」




「ありがとうございますアルバート様」




花壇を眺めるとそこには、綺麗な花々が咲いていた。




「わあ、とても綺麗ですね」




「ええ、本当に。ここの花たちは私の癒しです」




「アルバート様はお花がお好きなのですね」




「ええ、とても」




「実は私も、花がとても好きなんです。花って良いですよね。花はそこに咲いているだけで、人々を惹きつけてしまう、そんな魅力があるといいますか……。そう、まるで私とは相容れない対照的な存在のような……。まるで、ユリウス王子とアルバート様のお二人のように、まぶしく美しい存在のような……。ってごめんなさい、私ったら何を言って……」




「いえ、別に気にしていませんよ。ただ、女性の方から、そのような誘い文句が聞けるとは光栄です」




「ああ、いやこれは違う……決してそういうつもりではなくて。……何と言いますか、その、そこの花壇に咲いているゼラニウムの花を見ていると、ユリウス様とアルバート様のお二人が重なって見えるのです。その、知っていますか? ゼラニウムの花言葉は”真の友情”なのですよ。その花言葉はまるで、本当にお二人のことを言っているかのようだと思いまして……」




その私の言葉を聞いていたアルバート様が、何か驚いたような顔をした。


そして少し間を置いてからこう言った。




「……ゼラニウムの花はお好きですか?」




「え? ええはい。とても尊い花のようで私は好きです」




私がそう言うと、アルバート様は私のことをじっと見つめてきた。




アルバート様からイケメンの良い匂いがしてくる……。


じゃなくて、え、え、ええ!?


なになに?


私、もしかしてなにかまずいことでも言っちゃったのかしら?




そんなこんなと私がドキドキしながら考えていると、アルバート様がこう言った。




「私も……ユリウス王子殿下をお慕えしているように、このゼラニウムの花が好きなのです……」




そう言うと、普段はあまり見せないであろう、二カッとした笑みを浮かべたアルバート様。


その笑顔はまるで、咲き誇る花のような美麗さがあった……。




「あなたのお名前をまだ伺っておりませんでしたね。よろしければ伺っても?」




アルバート様がゆるりとした口調でそう聞いてきた。




「え、ええ勿論。私はミシェル。ミシェル・ブラウンと申します」




「ミシェルさんですね。……覚えさせて頂きました。……私、人の名前を覚えるのが苦手でして。でも、あなたのような方のことは、決して忘れそうにありませんね」




ひょぺっぱうぇ!?




何今の?


どういう意味?




この胸に、ズキューンって何かが走る感じ、なんなのこれ?


やばい、ドキドキしすぎて心臓に穴でも開いてしまいそう。


そんな私のことを、アルバート様が見つめてきてこう言った。




「また、ここで、あなたに会えたりしないでしょうか?」




「は、はいー! わ、私でよければ喜んで!」




緊張で変な声を出して返事をしてしまった。


そんな私をみて、アルバート様はクスっと笑った。




はあ、もうなんか色々、尊い!

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