第12話これは一体どういう状況なの!?
「で……。なんでここにきたんだいミシェル?」
グウェンが不思議そうにそう聞いてきた。
私は今グウェンのいる美術室にいた。
ヴェインも一緒についてきている。
ここへきたのには訳がある。
ある作戦を実行するためにね。
ヴェインを追い払うために、グウェンにはちょっと一役買ってもらうことにしたのだ。
「あの……。それは、その……」
私はグウェンにヒソヒソと耳打ちした。
「このヴェインって人が私にしつこくつき纏ってくるのです。なのでグウェンにはどうか私の盾役になってほしいのです」
グウェンもまたヒソヒソと返した。
「つまり男の僕に仲裁をして欲しいってことかい?」
「そ、そうですね。お願いできますか?」
「良いよ。ただしこの報酬は高くつくよ」
「またまたそんなご冗談を」
「さてどうかな……」
「え? あの、それはどういう……」
意味深なことを言ってから、グウェンはこう切り出した。
「やあ、君がヴェインだね? ミシェルから話しは聞いてるよ」
するとヴェインが、「はあ、まあどうもよろしくお願いします」と若干訝しげに返事をした。
「うん、よろしく。僕はグウェン。二年生だよ。
それでさ僕の可愛い後輩であるミシェルが君のせいで困ってるみたいなんだよ」
「困ってるとは?」ヴェインは話が読めないといったふうな顔をした。
「いやね、ミシェルが君にしつこくつき纏われて困ってるみたいなんだよ。だからさもうミシェルのことは諦めてくれないかな?」
「は? どういう意味だよ?」
「だってほら、ねえミシェル? すごく困ってるもんね?」
ああそうか。
ここで一旦私の同意が欲しいということね。
「え、ええ。それはもうすごく困ってるのよ。だって私ヴェインとは……」
「そう。ヴェインとは一緒にはなれないもんね。だって僕ら付き合ってるからね!」
そう言いながらグウェンは私の手を握ってきた。
ひょべばえっ!?
グウェンの手がすごく柔らかい……。
っていや、そんなことより!?
今なんて?
「ちょ、ちょっとグウェンいきなり何を言って……」
「ね? そうだよねミシェル? 僕らとても良い雰囲気だもんね? ほらあの時も『あなたは特別な人』とか僕に言ってくれたじゃないか」
「そ、それはそうなんだけど、それとこれとはまた違う話で……」
「違うのかい……。じゃあ、あの時の僕への君の言葉は全部嘘だったのかい?」
悲しそうな顔になっているグウェン。
「ああ、いやそれは本心なんだけど……。だからええと、その……」
何と言おうかと考えていると、横目にヴェインが顎をあんぐりと開けて、パサパサとした声をだして項垂れているのが目にうつった。
さらにどこか精気の宿っていないような顔にも見えた。
そんなヴェインに、追い打ちをかけるかのようにグウェンがこう言った。
「もうミシェルとは普通の関係ではないよね? もう僕らは特別な間柄でしょ? そう、それはもう友達以上の関係性とも呼べるような……」
「ちょ、ちょっとそんなグウェン、そんなこと大っぴらに言わないでください。恥ずかしいじゃないですか。もし他の誰かに聞かれたらどうするのですか?」
もし他の誰かに聞かれて、グウェンと本当にそういう仲だと勘違いされては困るわ。
「良いじゃないか。本当のことなんだから」
そしてグウェンは私の手を両手でぐっと握り、じっと見つけてきながら「ミシェル、君は僕にとっても特別な人だよ」と言った。
ひょべべべばべべっ!!!
どうしてこうなるのよー!
私が顔を真っ赤にしていると、
「悪いな、”俺”のミシェルに触らないでくれ」とヴェインが言い、私を引き寄せた。
そうして私がグウェンから遠ざけられた形になった。
「”俺”のミシェルねえ……。ミシェルはそもそも誰のものでもないと思うけど? それに言ったでしょ、僕とミシェルは”特別”な間柄だって」
「そうだな、ミシェルは誰のものでもないな。それにアンタとミシェルがどういう関係なのかもよく知らない。だけどな、俺が最初にミシェルを見つけたんだ! 誰よりも輝いていて美しい女性をな!」
「言うねえ、ヴェイン君は」
「そりゃそうだ、他の男なんかにとられてたまるかよ! シェルは誰のものでもないけど、これで今日からミシェルは”俺”のものだ!」
そう言うとヴェインは私の頬に、ちゅっと……キスをしてきた。
えっ? えええ!? えええええええええええええー!!!
ひょええええばああああ!?
なに、今の、ちゅって感触は!?
今一体何が起こったの!?
私は半ばパニックになり、「乙女の純情な感情の残りの3分の一はイケメンのキスで一杯でー!!!」と、自分でも訳の分からないことを言いながら、その場から走り去ったのでした……。
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