第11話まあ、悪い気はしないけど

「ゲッ!」




苦虫を嚙み潰したような顔をしながらそう発した言葉。


今出くわしたくない人と会ってしまった。


私のそんな思いとは裏腹に、意気揚々と話しかけてきたヴェイン。




「やあ、ミシェル! 今日も君は麗しいね」




「どうしてここにいるのですかヴェイン?」




私は今、リコと二人で学院の中の図書室にいた。


リコと私は、本の趣味で話が盛り上がったことがあった。


特に恋愛小説の話でね。


それ以来、放課後はよく二人で図書室に来ることが多くなった。


そこで一緒に本を借りて、もしかしたらこの本は、ああなのかもこうなのかもと感想を語り合うのがいつのまにか恒例になっていた。




リコは、最初こそあまり自分から話したがらなかったけど、好きな本の話をしている時の彼女はよく喋ってくれる。


そのうちに彼女のほうからも気さくに話しかけてくれるようになった。


そうして段々と彼女とも打ち解けられるようになってきた。




リコと話しをするのがすごく楽しい。


そしてなんだかとても和む。




そんな平穏な毎日を送っていたのですが。


ヴェインのせいで、そんな平穏な日々が崩れ去ろうとしている……。




「どうしてってそれは、ミシェル、君に会うために決まっているじゃないか」




どうやらヴェインは、私たちがいつもここにいるのを、どこからか嗅ぎつけてきたようね。




「ああそうですか。私はご遠慮させて頂きます。どうぞお帰りくださいヴェイン」




「そうか分かった。じゃあ俺と一緒に帰ってくれるってことだなミシェル」




「はあ? どうしてそうなるのですか?」




「だってほら、俺は君と一緒にいたい。でも君は俺に帰れと言う。なら、その間をとってミシェルと俺が一緒に帰る、それしかないじゃないか!」




「『それしかないじゃないか』じゃないですわ! 一体全体どういう思考回路をしていたらそうなるのですか!?」




「なんと言われようと俺はミシェルを諦めたりはしないからな!」




はあ。


困ったものだ……。




ヴェインとはずっと距離をとっていた。


彼につき纏われないように。


この前、彼にストーカーのように追いかけまわされたことが、軽くトラウマになってしまったのよね。


だから、彼に話しかけられそうになった時や、近づかれた時は、ささささっと彼から避けることにした。




それがかえってよくなかったのかもしれない。


彼のストーカー行為は止むどころかむしろ増幅されていった。




「俺はミシェルを諦めない!」




彼はその一点張りだった。


まったく……。


その熱意をもっと違うことに向かわせれば良いのに。




「どうしていつも私に絡もうとするのですか? この学院には私よりももっと他にたくさん素敵な人がおりますよ? 何故私にばかり執着するのです? 正直迷惑です。というか本当のところ、私のことをこうやってからかって楽しんでおいでなのでしょう?」




もう正直ヴェインにはうんざりしてきたところだったので、ついポロっと本音を漏らしてしまった。


でもこれで良いのだ。


私はイケメンの殿方は良いけれど、チャラ男は論外なのよ。


こうして本音を言うことで、ヴェインは私から離れてくれるはず。




けれど、私のその思惑とは違った態度を見せたヴェインだったのでした。




「ん? 何を言ってるんだ? からかってるわけないだろう。俺は最初からミシェルのこと本気だぜ」




「だから何で……」




「だって君は、美しいから……」




……はひゃっべ!?


え、ええ、ええええええー!?




そ、そんな、急にそんなこと言われたら……私。


かぁわあああああああああああ!?




「ふふふ、どうしたミシェル顔が赤いぞ?」




そう言いながら悪戯っぽく私の顔を覗きこんでくるヴェイン。




そうかこれもチャラ男の巧妙なナンパテクニックに違いない!




こうしてあたかも自分は本気であるかのように乙女に見せつけて、その実ただの暇つぶしに遊んでいるだけに過ぎないのだわ。


いけないいけない。


危なく引っ掛かるところだったわ。




「本当は、こんな地味で平凡なだけの私を、弄んで楽しんでおいでなのでしょう?」




そう言うと彼は、酷く傷ついたような顔をしてから「そんなことはないよミシェル。君には、君にしか持っていない美しい輝きがあるんだ」と私の目をじっと見つめながらそう言った。




はわわわわわわー!


どうしてそんなことを、さらっと言えてしまうのよヴェインは!?




一連の私たちの様子を黙って見ていたリコが「ご馳走様です」と、メガネをクイっと持ち上げながらボソリと一言呟いた。




「何をですか? リコは今一体何を美味しく頂いたのですか!?」




「いえ、目の前にとても甘いスイーツのようなものがあったので、ついそれを堪能してしまいました」




「あはは、面白い言い回しをするなリコは」




どこか満足気にそう笑ったヴェイン。




「ミシェルさん、私もヴェインさんに同感です。ミシェルさんは私に唯一手を差し伸べてくれたたった一人の方です。私にはミシェルさんがとっても美しく、輝いてみえます!」




「リコ……」




私は、そう言ってくれたリコの手をぐっと握り、女の友情に花を咲かせたのでした。




「ってそれは良いけど、俺が伝えたミシェルへの本気の気持ちの返事は?」




ヴェインが焦ったように私に問い詰めてきた。




「……まあ、どうせ何といったところでしつこくつき纏うのでしょう。だったらまあ、視界の端の方でヴェインを捉えておきますよ」




「そ、そうか……。ま、まあ、眼中にないって言われるよりは少しマシになったな」




ヴェインって変なところで前向きなのよね。




でも、どうしたものか……。


ヴェインとは、いつまでもこのままの関係ではいられないわよね。




何か対策を練らなければ……。


あ、そうだわ!


ふふふ、良い事思い付いたわ……。

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