第三章 第58話 油断すんなよ?
アーチークレール・モレノアは、
ピケから少し離れた、
全ての
その日の
(やっぱり
――
レアリウス所有の
そして、動くのなら
下っ
(だけど、もう少しだ。きっと馬車は通る)
アーチーの知る限り、ピケにレアリウス関連の
以前は違ったのかも知れないが、十年前のあの事件でそれらしいところは軒並み
だから、セラが馬車に乗るとすれば広場の発着場を使うしかないのだ。
風見鶏亭は
アーチーが待っていたのは、一本の
しかし、夜になると煙は見えなくなってしまうので、通る馬車を目視で確認するしかなくなってしまったのだが……実際はそれほど問題でもない。
夜になってからピケを出て
(それに俺は……何でか知らんが
自覚してこそいないが、アーチーの動体視力の良さや暗闇でも視界をある程度確保できる力は、彼の唯一の
動かぬ
当然その力は悪条件の
実のところ、その力は無意識のうちに
だから、彼の立てた
護衛は馬車の左右に二騎、後方に一騎のはず。
街道の片側から
馬は出来れば殺したくない。
無駄な
可能なら、馬車まで
馬車が途中で襲撃されたことが
その
(――――ん?)
遠くから、
……
アーチーは
やがて小さな光の点がぼんやりと浮かび、音と共に徐々に大きくなっていく。
(多分あれだ……よし)
アーチーは
ザハドとピケを結ぶ街道には、日本ほどではないが次の
アーチーが陣取ったのは、ちょうど街灯と街灯の中間地点。
最も暗くなる場所である。
ガラガラガラガラ……。
とうとうあと
懐から、三本の短刀を取り出し、連投する準備を整える。
最善の瞬間を
狙うのは首元が一番効果的だが、
これまでの経験からも、騎手が落馬すること必至なのは間違いない。
アーチーの狙い通り、小さな叫び声が三つ上がり、それまで規則正しかった
馬車の向こう側を走っていた最後の護衛が異変を察知して、こちらに回り込んでくるのを確認したアーチーは、四本目の短刀を正面やや斜めから、馬の首越しに投げつけた。
短刀は
護衛はくぐもった悲鳴を漏らしながら落馬し、地面に叩きつけられると顔を掻きむしりながらもがき、転げまわっている。
(よし!)
馬車と馬たちは、
御者を失った馬車が横転せずに済んだことに、アーチーは安堵の息を
(あとは……)
すぐにでも馬車に駆け寄って、アーチーは
だが――
(護衛が一緒に乗り込んでいてもおかしくない。油断すんなよ? 俺……)
一歩一歩慎重に、アーチーは馬車に近付いていった。
残り
……
一度立ち止まり、アーチーは馬車を凝視した。
窓の内側は布か何かで覆われていて、光の他には物音ひとつ漏れてこない。
これは……と、彼は警戒度をさらに一段階上げた。
何が起きてもいいように、アーチーは短刀を構えながらじりじりと歩を進める。
セラか? ……護衛か? ――アーチーは一層目を凝らして扉を見る。
扉の端からほんの
「セ――」
影へ駆け寄ろうとした瞬間、アーチーは背中に、まるで熱湯をかけられたような熱さを感じた。
「!…………」
アーチーは無言でその場に崩れ落ちた。
倒れながらも背後をちらと見ると、見知らぬ足が目に入った。
「お、
馬車から下りてきたセラピアーラが、倒れ伏すアーチーの元に駆け寄る。
「お兄ちゃん! お兄ちゃん! お兄ちゃんっ!」
「馬車から出るなと言っただろうが」
アーチーの向こう側から、アロイジウスが
「お兄ちゃん! お兄ちゃ――ひっ!」
セラはアロイジウスに構わず膝をつくと、アーチーの背中に
彼の背は、右肩から
兄は倒れたまま、ぴくりとも動かない。
「お兄ちゃん! お兄ちゃん!」
「とっとと馬車に戻れ」
外の異変をすぐに察知したアロイジウスは、
セラには馬車の中に
「お兄ちゃ痛いっ!」
倒れたアーチーに取りすがって泣くばかりのセラの髪を
「ちっ……俺が御者をやる破目になっちまったじゃねえか……」
馬車の扉が
うずくまって激痛に
――雨が降り始めた。
アーチーの背中に広がる血の染みは、雨に濡れることで身体の外側にまでじわじわと広がっていく。
夜闇と血だまりに沈む彼は、そのまま動かなかった――――。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます