第二章 第39話 箱根山の東側
居酒屋へ
かつて戦国大名として関東を広く支配した
そして言わずもがな、
迅が一人ここを訪れたのは、自分の
「うお、結構
電車を降りるなり、プラットフォームを一陣の
昼前ということもあって、ちょうど向かいのホームに見えた立ち食いそば屋から匂いが
(いやいや、これからラーメンを食うってのに、先にソバを入れちまう訳にはいかねえし)
迅は約束を思い出し、辛うじて自制を利かせた。
外国人らしい姿もちらほら。
(どうもここの、西口と東口ってのに慣れねえんだよなあ、感覚的に)
O市では東海道本線がほぼ南北に走っているため、
しかし迅が普段住むS市においては線路は東西に
迅は改札から右に折れ、東口(迅的には南口)に向かって歩く。
大きく
正面の下りエスカレーターに乗り地上一階に出ると、バスターミナルをぐるりと時計回りに回る形で、迅は歩く。
大通りではなく、斜め左方向へと向かう「錦通り」を進んでいくといわゆる家系ラーメン店が姿を現し、その横に迅の
その人物を見て、迅は小走りで駆け寄って行った。
「あれ? ごめん叔父さん、もしかして待たせちゃった?」
「んあ?」
叔父さん、と呼びかけられた男が
ソフト帽に丸型サングラス、そして黒いスーツ。
ちりちりパーマでこそないが、いかにも
「いや」
男は壁から背中を離し、彼の
百九十センチ近くある迅と、目線の高さはほぼ同じである。
「ちっと徹夜ぶっこいちまってな、寝たら起きられそうになかったんでそのまま来たんだわ」
「そっか、そんならよかった。で、早速だけど店に入らねえ?」
迅はラーメン店の入り口を指さして言った。
「俺もう腹減っちまってさ」
◇
「
店員の元気な声が響いた。
示されたQRコードを、
「いつも思うけどさ、おじさんよくこのスープ全部飲めるよな……」
「バカおめ、基本だろがよ」
完まくとは、
いわゆる家系に属するこのラーメン店のスープは、かなり濃厚な豚骨醤油味なのだが、彼――
若い時ならいざ知らず、少し年が
「さて、んじゃ事務所に戻りがてら話すか」
「ああ」
ありがとうございましたーという店員の声を背に店を出ると、八雲は切り出した。
小田巻八雲は、O市内で興信所を営む独身男。
先日の居酒屋での飲み会で、
身長百九十近い二人――
「ほれ、頼まれてたやつだ」
「サンキュー、叔父さん。助かるぜ」
八雲は歩きながら、数枚の紙を迅に片手で手渡した。
迅は
「ふむふむ、なるほどなー」
「なあ、迅よ」
八雲が前を向いたまま甥に声を掛ける。
「前も言ったが、オレぁあんまりおすすめしねえぜ?」
「分かってるさ。叔父さんに迷惑をかけるつもりはねえからさ」
「そういう話じゃねえんだけどな……」
二人は南、
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