第二章 第19話 挿話 ――葬送――

 ※本エピソードには、遺体いたいあつかう場面が少しだけえがかれています。

  それほど強烈な描写びょうしゃではないと思います。

  それでも苦手なかたは、本エピソードを飛ばしていただいて構いません。

  読まなくてもストーリーの把握はあくに支障がないよう、配慮いたします。


    ◇


 場面は日本からほんのひと時だけ、エレディールに戻る。

 あわせて時は、八乙女やおとめ涼介りょうすけが学校を追放された翌日・・・・・・・まで進む・・

 日数にして、約二百日ほど。


    ◇


 異郷いきょうの真っ青な空のした

 目の前を、担架ストレッチャーに乗せられた白いものが運ばれていく。


 運んでいるのは……かがみさんと壬生みぶさんだ。

 私をふくめたそれ以外の人たちは、二列に分かれて道を作っている。

 手向たむけの花を、それぞれ手にしながら。


 ここに転移してきた当初、二十三人いた私たち。

 今は――十九人になってしまった。

 どうして、こんなことに……。


 誰一人として、言葉をはっさない。

 ただただ、あらかじめ決められた手筈てはず通りに、ことは進んでいく。

 聞こえるのは、すすり泣くかすかな声と、風が渡る音だけ。


 シーツにくるまれた朝霧あさぎり校長を乗せた担架たんかが、埋葬まいそう場所に着いた。

 私たちもそこへ移動する。


 そこには、長方形の深い穴がいていた。

 これからこの中に、校長先生をめるのだ。


 最初は荼毘だびす予定だった。

 でも、十分じゅうぶんな施設も資材もないので、土葬どそうに決まった。


 運ばれてきた校長先生が担架からろされ、地面に横たえられる。

 鏡さんが、校長先生の顔の部分だけシーツをめくった。

 最後のお別れ。


 私たちは一列に並んだ。

 そして一人ひとり、順番に校長先生のかたわらにひざをつく。

 お別れの言葉をつぶやく人。

 黙ってじっとお顔を見つめる人。

 言葉にならず、嗚咽おえつらす人。


 私の番になった。


 ――校長先生。


 苦悶くもんに満ちた表情だったが、今は安らかだ。

 私が、そうした。

 血にまみれた身体も、私が清拭せいしきした。

 胸の包丁を抜いたのも、私。


 朝霧彰吾しょうご校長先生。

 こんな死に方をしていい人じゃなかった。


 あなたの机に入っていた遺書。

 私があずかっています。

 あなたの命を奪った、包丁も。

 いつか遺品と一緒に、必ずご家族に届けます。


 全員が別れをませると、穴の中に瓜生うりゅう先生と純一じゅんいちさんがりた。

 鏡さんと壬生さんから校長先生を受け取り、静かに底へと横たえる。

 二人が穴から出たあと、全員でまわりを囲んだ。


 皆が一斉いっせいてのひらひらく。

 持っていた小さな花たちが、校長先生に静かにそそいだ。

 それからスコップを持ち、皆で少しずつ土をかけていった。

 白い身体が、だんだん茶色に染まっていく。

 風の一層いっそう高鳴り、挽歌ばんかのように響いている。


 穴が完全にまり、小さなつかになった。

 木で作った簡素かんそ墓標ぼひょうが、その上に立てられる。


 ――朝霧彰吾、ここに眠る。

 ――二〇XX年 四月十三日

 ――星暦一二五一一年 始まりの節


 葬儀そうぎは、終わった。


 皆が学校へ戻る中、私はふと東の森の方を振り返る。

 遠く、異郷いきょうの町へ続く一本の道。

 この道を、あの人たちは歩いていったのだ。


 ……八乙女さんと瑠奈ちゃんは、今どこにいるのだろう。

 山吹さんは、ちゃんと追いつけたのかな。


 校長先生を失った悲しみで、仲の良かった同僚どうりょう――もう友達と言ってもいい――二人に置いて行かれたようなせつなさで、子どもを親から引き離してしまった罪悪感で、私の心はともすれば折れそうになる。


 そんな時、私は思い出すのだ。

 八乙女さんに言われた言葉を。

 そして、日本に残してきてしまった夫の顔を。


 ――和馬かずまくん。


 私、いろいろたくされちゃったんだ。

 だから、まだしばらく帰れないと思う。

 ちゃんとご飯食べてる?

 玄関の靴、ぎっぱなしにしてない?


 私、きっと帰るから。

 だから、それまで――


 お願いだから……元気でいて。

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