第55話 魔道具使い

「おい、ここにガキが居るぞ!!どうする!?」

「ガキだろうが関係ねえ、一人残らずぶっ殺せ!!」

「坊ちゃん!?馬鹿野郎、早く逃げろ!?」



団長はリンが盗賊に見つかった事を知り、慌てて逃げる様に促す。しかし、リンは逃げるつもりはなく、自分に向かってくる盗賊に対して反魔の盾を構えた。



「死ねっ!!」

「……はあっ!!」



相手が剣を振り下ろした瞬間、リンは反魔の盾で受け止めた。すると反魔の盾が光り輝き、衝撃波を発生させて男の剣を弾き飛ばす。



「ぐあっ!?」

「な、何だと!?」

「そんな馬鹿な!?何をしてやがる!?」

「ふうっ……」



剣を弾かれた男を見て他の盗賊は驚き、一方で攻撃を上手く弾く事に成功したリンは冷や汗を流す。反魔の盾ならば相手の武器を弾ける事は分かっていたが、それでも本気で殺しにかかる相手の攻撃を受けるには勇気が必要だった。


先日もリンはハルカを攫おうとした誘拐犯と戦ったが、彼等の場合は盗賊と違って最初から殺すつもりで戦っていたわけではない。しかし、今回の敵は最初からリンに対して殺意を抱いており、自分を本気で殺しにかかる相手に緊張してしまうのも無理はない。



(一瞬でも油断したら殺されるかもしれない……絶対に隙を見せるな!!)



決して油断しないように自分自身に言い聞かせながらリンは盗賊達と向かい合い、まずは剣を弾いて武器を失った男に対して蹴りを放つ。



「喰らえっ!!」

「ぐはぁっ!?」

「うわっ!?」

「ば、馬鹿なっ!?」



身体強化を発動させたリンは相手を蹴り飛ばすと、男は数メートルは吹き飛ぶ。ただの蹴りで仲間の一人が派手に吹き飛んだのを見て他の盗賊に動揺が広がるが、その隙を逃さずに団長は盗賊の一人を切り伏せる。



「よそ見してんじゃねえよ!!」

「ぎゃあっ!?」

「く、くそっ!?こいつら強いぞ!!」



他の傭兵と違って団長だけは盗賊を相手に勇猛果敢に挑み、盗賊達は焦りを抱く。しかし、盗賊の中で一番大柄な男が声を張り上げる。



「怯えるな!!相手はたかが2人だ!!」

「は、はい!!」

「お頭の言う通りだ!!相手はたった2人だぞ!」



声を張り上げた大男が盗賊の頭らしく、彼の言葉を聞いて動揺していた盗賊達も落ち着きを取り戻す。それに対して団長は舌打ちし、一方でリンは盗賊の頭に向かう。



(あの男を倒せば!!)



盗賊の頭を倒す事ができれば他の盗賊は指示する人間を失い、もしかしたら退散するかもしれないと考えた。リンは男に目掛けて突っ込み、魔力剣に魔力を流し込もうとした。



「やああっ!!」

「ガキが……おい、相手をしてやれ!!」

「おうっ!!」



自分に目掛けて駆け出してきたリンに対して盗賊の頭は近くに立っていた部下に命令を下し、槍を構えた男が二人も立ちはだかる。リンは男達に邪魔をされて頭に近付けず、仕方なくまずは二人組を倒す事にした。


槍を構えた男達はリンが通れないように槍を構えるが、それに対してリンは魔力剣を振りかざす。男達は刃がない柄を持つリンを見て何をするつもりか警戒する。



「おい、このガキ……何か変な物を持ってるぞ」

「油断するな、ただのガキじゃないぞ!!」

「はああっ!!」



魔力剣にリンは魔力を流し込んだ瞬間、柄から光刃が生成されて男達の持っていた槍を切り裂く。男達は手にしていた槍が切られた事に驚き、それを見た盗賊の頭は目を見開く。



「馬鹿な……こいつ、を持ってるのか!?」

「魔道具だって!?」

「そんな馬鹿なっ!?」



何故かリンの魔力剣を見た瞬間に盗賊達に動揺が広がり、その事にリンは不思議に思いながらも隙を見せた二人組に対して攻撃を仕掛ける好機だった。



(魔力剣だと殺しかねないから……ここは素手で!!)



光刃を解除するとリンは魔力剣を鞘に戻し、武器を失った男達の元へ向かう。身体強化を発動させたまま接近し、一瞬だけ両腕に魔鎧を形成して攻撃を叩き込む。



「喰らえっ!!」

「ぐはぁっ!?」

「ぶふぅっ!?」

「な、何だと!?」



男達の腹部にリンの拳がめり込み、魔鎧を纏った彼の両拳を受けた男達は白目を剥いて倒れ込む。それを見た盗賊の頭は焦った表情を浮かべるが、即座に手にしていた斧を振りかざす。



「このガキ!!」

「うわっ!?」



斧を振り払った盗賊の頭に対してリンは反射的に後ろに下がって回避すると、盗賊の頭は斧を両手に構えた状態で向き合う。この時にリンは再び魔力剣を抜こうとするが、男は斧の刃に嵌め込まれた赤色の宝石に触れる。



「まさかてめえのようなガキが魔道具を持っているとはな……だが、運が悪かったな。俺の魔道具を見せてやる!!」

『おおっ!!』

「えっ?」



男は斧に嵌め込まれた赤色の宝石を押し込んだ途端、斧の刃が赤色に変色した。それを見た他の盗賊達は歓喜し、他の盗賊を相手にしていた団長は慌ててリンに注意した。



「魔道具だと!?おい、坊ちゃん!!そいつから早く離れろ!!」

「魔道具?」

「くくくっ……てめえも魔道具を持っていようが関係ねえっ!!俺の魔道具には敵わねえよ!!」



刃が赤色に変わった斧を手にした盗賊の頭はリンに目掛けて振り下ろし、嫌な予感がしたリンは後ろに跳んで回避した。



「おらぁっ!!」

「うわっ!?」



斧を回避する事に成功したリンだったが、避ける際に刃から異様な熱気を感じ取り、慌てて距離を取る。原理は分からないが頭が斧に嵌め込まれていた宝石を押し込んだ途端、斧は異様な熱を宿していた。


熱を帯びた斧の刃を見てリンは危険を感じ取り、まともに受ければ決して無事では済まない。盗賊の頭はリンに目掛けて突っ込み、斧を振り回す。



「おらおらっ!!さっきまでの威勢はどうした!?」

「うわぁっ!?」



赤く変色した斧を振り回してくれる盗賊の頭に対し、リンは逃げ回るのが精いっぱいだった。斧に触れずに盗賊の頭を倒す方法を考えるが、相手はただの素人ではなく、盗賊団の頭を勤めるだけはあって隙を見せない。



(このままだと身体強化が切れる!!その前に倒さないと……)



リンは身体強化が解除すると筋肉痛に襲われて一時的に動けなくなり、そうなる前に勝負を終わらせる必要があった。しかし、男の隙を突こうにも相手は得体のしれない武器を手にしており、あの斧に触れるのは危険を感じた。



(あの斧に当たらずに攻撃を当てるには……やっぱり、これしかない!!)



一か八かの賭けになるがリンは反魔の盾を構え、斧を正面から受け止める体勢を取った。それを見た頭は笑みを浮かべ、全力で斧を振り下ろす。



「馬鹿がっ!!死ねぇっ!!」

「……ここっ!!」



しかし、盾を構えたリンに対して頭は全力で斧を叩きつけようとした瞬間、斧が当たる寸前でリンは跳躍して回避する。何時の間にかリンの後方には岩が存在し、頭は岩に目掛けて斧を振り下ろす形となった。


岩に斧の刃がめり込み、徐々に岩が解け始める。それを上空から見届けたリンは予想通りというべきか、斧の刃が信じられない程の高熱を宿している事に気付く。頭は慌てて岩から引き抜くと、まんまと自分が嵌められた事に気付いて苛立つ。



「くそがっ……てめえ、俺を嵌めようとしやがったな!?」

「…………」



リンの狙いは岩がある場所まで頭を誘導し、敢えて攻撃を受けるふりをする事で頭が自ら岩に斧を振り下ろすように仕向けた。しかし、結果から言えば斧を岩に当てさせる事はできたが、予想以上の斧の熱で簡単に岩は溶かされてしまう。

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