第56話 熱斧VS魔力剣
「はっ!!だが、その程度の小細工で俺の
「熱斧……」
「坊ちゃん!!そいつの武器はやべえ、まともに受けたら駄目だ!!剣も盾も溶かされちまう!!」
盗賊の頭の武器は「熱斧」というらしく、それを見ていた団長は注意した。確かに鉄製の剣や盾では攻撃を受け止めたとしても斧の放つ高熱によって溶かされ、攻撃を防ぐ事もままならないだろう。
熱斧を生身で受ければ無事では済まず、身体を溶かされながら切られてしまう。しかし、遠距離からの攻撃を持ち合わせていないリンは近づく以外に方法はない。
(あの武器、危険だな……でも)
リンは魔力剣を再び抜くと、光刃を形成して頭と向かい合う。自分の熱斧を見ても逃げようとせず、それどころか武器を取り出したリンに頭は少し驚く。
「ほう、逃げずにまだ俺に歯向かう気か……良い度胸だ、ぶっ殺してやる!!」
「……行くぞ!!」
「坊ちゃん!?」
「リン君!?」
先ほど団長に注意されたにも関わらずにリンは頭に目掛けて駆け出し、不用意に近付いては熱斧の餌食になるというのに走り出したリンに団長と馬車の下に隠れていたハルカは驚きの声を上げる。
「馬鹿がっ!!これで終いだ!!」
「やああっ!!」
魔力剣を掲げて突っ込んできたリンに頭は熱斧を振りかざし、彼の頭に目掛けて振り下ろそうとした。だが、それを見越してリンは斧が当たる前に両足に力を込め、後方に跳躍を行う。
「ここだっ!!」
「何だと!?」
リンは後ろに跳んだ事で斧を回避し、頭は斧を地面に叩きつける。しかし、リン自身も後方に跳んだ事で距離ができたため、本来ならば反撃する事もできないはずだった。
しかし、距離を取ったリンが即座に魔力剣に魔力をさらに流し込み、光刃の形状を大きく変化させた。リンの魔力剣は彼の魔力を光剣へと変換させるだけではなく、別の形に変える事もできる。
――リンが生み出したのは剣の刃ではなく、ハンマーを想像させる形の鈍器を作り出す。しかも普通のハンマーと違って柄の部分が異様に長く、そのまま彼は頭の頭に目掛けて振り下ろす。
「喰らえっ!!」
「ぐはぁっ!?」
「嘘だろ!?」
「ええっ!?」
「ウォンッ!?」
リンが振り下ろした魔力のハンマーは盗賊の頭に的中し、頭部に強烈な衝撃を与える。頭に直撃した盗賊の頭は白目を剥き、地面に倒れた。この時に彼が持っていた熱斧は地面にめり込んだままであり、彼の手が離れた途端に刃に嵌まっていた赤色の宝石が外れてしまう。
熱斧から赤色の宝石が外れると赤く変色していた刃が元に戻り、熱が収まったのか熱気は感じなくなった。リンは倒れた男の元へ向かうと、落ちた熱斧を拾い上げる。
(触っても大丈夫みたいだ。それにしてもこの斧……熱斧だっけ?いったいどんな原理なんだろう?)
頭から熱斧を回収したリンは刃に嵌め込まれている宝石に視線を向け、この宝石を食い込ませた瞬間に斧の刃が発熱したように見えた。試しにリンは宝石に触れてみると、今までにない感覚を味わう。
(何だこれ……この宝石から魔力を感じる!?)
触れただけでリンは宝石から魔力が宿っている事に気が付き、しかも今までリンが感じてきたどの魔力とも違う事に気が付く。ハルカの魔力は温かみを感じるが、この宝石の場合は温かいどころか非常に熱く、まるで燃え盛る炎を想像させる。
(いったい何だろうこれ……いや、そんなのは後回しだ)
熱斧の事は気になるがリンはまだ盗賊が残っている事に気が付き、彼は魔力剣と熱斧を手にすると他の盗賊と向かい合う。
「まだ戦うんですか!?」
「ひっ!?」
「お、お頭がやられた!!」
「に、逃げろ!!俺達の敵う相手じゃねえっ!!」
「あ、待ちやがれ!?」
盗賊達は自分達の頭が倒された事に恐怖を抱き、慌ててその場を逃げ出した。それを見たリンは敢えて追いかける真似はせず、内心では安堵していた。
盗賊の頭は倒したとはいえ、リンは身体強化の効果が切れかけていた。修行のお陰で前よりも身体強化の効果と持続時間は伸びていたが、効果が切れると酷い筋肉痛を起してまともに動けなくなる事に変わりはない。
「うっ……」
「坊ちゃん!?大丈夫か!?」
「リン君!!」
「ウォンッ!!」
リンが身体をふらつかせると盗賊達を追いかけようとした団長は立ち止まり、彼の元にハルカとウルが慌てて向かう。リンは倒れる前に団長が慌てて身体を支え、ハルカはリンに回復魔法を施す。
「待っててね、すぐに治してあげるから……えいっ!!」
「うっ……ありがとう」
「いや、えいって……お嬢様は無詠唱で魔法が扱えるのか!?」
「あれ?そう言われれば……」
ハルカは両手を翳して掛け声を上げると彼女は初級回復魔法の「ヒール」を発動させ、それを見た団長は驚く。基本的には魔法使いは魔法名を告げる事で魔法を発動させるが、熟練の魔術師は無詠唱で魔法を扱えると聞いた事がある。
治癒魔術師になりたてはずのハルカが初級魔法とはいえ、回復魔法を無詠唱で扱えるのは普通ならばあり得ない事だった。しかし、彼女もリンの手ほどきのお陰で以前よりも魔法の腕が上達し、いつの間にか無詠唱で魔法を発動できるようになっていた。
「ありがとう。大分身体も楽になったよ」
「え!?もう治ったのか!?」
「よ、良かった〜……リン君が無事で本当に良かったよ」
「むぐぐっ……」
ハルカは自然な感じでリンを抱き寄せ、自分の胸元に彼の顔を挟み込む。ハルカの行動にリンは頬を赤く染めて困りながらも、危機を乗り越えた事に安堵した――
――結局は護衛の傭兵の中で生き残れたのは団長しかおらず、他の傭兵は殺されるか逃げ出して戻ってくる事はなかった。リン達が乗っていた馬車の御者も何時の間にか姿を消してしまい、もしかしたら御者は盗賊とグルの可能性もあった。
こんな場所で都合よく盗賊が襲いに来る事自体がおかしく、最初から盗賊達はリン達が乗る馬車を狙って襲ってきたのかもしれない。捕まえた盗賊はリンが倒した盗賊の頭と数名の盗賊だけとなり、彼等は縛り付けて傭兵団の馬車に乗せる。
「ちょっと困ったな……馬車の運転は俺でもできるけど、こんな奴等と一緒の馬車に坊ちゃんとお嬢様を乗せるのは危険だしな」
「あ、それなら私がこっちの馬車を運転できるよ?」
「えっ!?ハルカは馬車を運転できるの?」
「うん、お祖父ちゃんがやり方を教えてくれたんだ。こう見えてもお祖父ちゃんより上手いんだよ?」
「へえ、そいつはたまげたな……なら、御二人はそっちの馬車に乗ってくれると助かる。俺はこいつらを見張りながらこっちの馬車を動かすよ」
「ウル、この人達が逃げ出さないように見張っててくれる?」
「ウォンッ!!」
意外な事にハルカは馬車を運転する事ができるらしく、彼女はリンを乗せて自分達の馬車を運転し、傭兵団の馬車には捕まえた盗賊と団長が乗り込み、ウルが見張りを行う事が決まった。
本来ならば今日の所は一晩は草原で過ごすつもりだったが、こんな事態に陥った以上はゆっくりと休んでいられず、傭兵の死体の臭いを嗅ぎつけた草原の魔物が襲ってくる前に急いで離れる必要があった。リンは馬車に乗り込むと、先に団長の馬車が出発してその後にハルカが運転する馬車が後に続く。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます