第48話 魔力感知
(分かる……ハルカの魔力を感じる!!)
以前にハルカと触れ合った事でリンは彼女の魔力を直に感じ取り、彼女の暖かな魔力の事をよく覚えていた。魔力は生物ならば誰もが持っている力だが、ハルカの場合は生まれた時から常人の何百倍もの魔力を有している。
目を閉じる事でリンは意識を極限にまで集中させれば、彼女の魔力が感じ取れる事を知った。だが、ハルカの魔力は徐々に離れていく事に気が付き、理由は不明だがハルカは広場を離れて移動しているらしい。
「ハルカ!!」
リンは目を開くと魔力が感じた方向に視線を向け、全速力で駆け出す。身体強化を発動させてリンは街道を駆け抜け、通行人を潜り抜けながら走り続けた。
「すいません!!退いて下さい!!」
「うわっ!?」
「な、何だよ!?」
「おい、気を付けろっ!!」
街道を歩いていた人々はリンに驚いたり、中には文句を言う人もいたが今のリンはそんな事を気にしている余裕はなかった。
「くそっ、何処だ!?」
魔力を感じた場所にリンは到着したが、既にハルカの姿はなかった。彼女の魔力を再び感じ取ろうとしたが、目を開いた状態では上手く感じれずにリンは仕方なく目を閉じた。
ハルカの魔力を感知するには相当な集中力を必要とし、目を閉じて数秒ほど意識を集中させなければならない。しかし、今は他に当てはないのでリンはハルカの魔力を感知すると駆け出す。
「こっちか……うぷっ!?」
「うわっ!?き、気を付けろよ兄ちゃん!?」
「す、すいません……」
目を開いたリンは駆け出そうとした瞬間、通りすがりの男性とぶつかってしまう。リンは謝罪しながらもすぐに移動を開始し、身体強化を発動させて急いで向かう。
(身体強化が切れる前にハルカの元に辿り着かないと!!)
ここまでの移動で身体に大分負担を掛けたが、今は一刻も早くハルカとウルと合流するためにリンは全速力で駆け出す――
――同時刻、ハルカは人気のない路地裏を走っていた。彼女の前にはウルが走っており、まるで彼女を誘導するように鳴き声を上げて走り続ける。
「ウォンッ!!」
「はあっ、はあっ……ま、待ってよウルちゃん!!」
疲れた様子でハルカはウルの後を続き、彼女はずっと走りっぱなしだった。噴水広場にてリンと別れた後、ハルカはウルと彼が戻ってくるのを待っていた。しかし、そんなハルカとウルの前に先ほどリンと揉めた男達が現れた。
『えっ……だ、誰!?』
『グルルルッ……!!』
『ひひひっ……お嬢ちゃん、結構可愛いじゃないか』
『おい、どうする?こうなったらワンコロだけじゃなくてこの娘も連れて行くか?』
『確かにこっちの方が高く売れそうだな……よし、連れて行け!!』
男達はどうやらリンが離れたのを見計らってウルを連れ去りに来たらしく、ハルカの容姿を見て彼等はついでにハルカも捕まえようとした。いきなり自分達を連れ去ろうとする男達にハルカは恐怖を抱き、そんな彼女を守るためにウルは歯向かう。
『ガアアッ!!』
『うわっ!?こ、こいつ……大人しくしやがれ!!』
『油断するなよ、ガキとはいえ白狼種だ!!こいつに噛みつかれたら終わりだと思えっ!!』
『毛皮を傷つけないように気を付けろ!!』
『や、止めてよっ!?』
抵抗するウルを捕まえようと男達は抑え付け、この時にウルは男達に首輪を掴まれて苦しくなり、咄嗟に首輪を噛み千切った。
『ガウッ!!』
『うわっ!?こいつ、自分で首輪を……』
『ウル君、逃げよう!!』
『くそっ、娘も逃げた!!早く捕まえろ!!』
首輪を自分で噛み千切った事で自由になったウルを見て、咄嗟にハルカはウルを連れて逃げ出した。男達はハルカとウルを捕まえるために後を追いかけ、それからずっと彼女は逃げ回っていた。
男達はしつこくウルとハルカを追い掛け回し、どうにか二人は人気のない路地裏まで逃げ込んだ。意外とハルカは運動能力も高いため、ウルに置いて行かれずに逃げ延びる。
「はあっ、はあっ……つ、疲れた。少し休もうよ」
「クゥ〜ンッ……」
流石に走り続けたせいで疲れたハルカは休憩を提案すると、ウルは足を止めて彼女を心配するように顔を覗く。そんなウルをハルカは抱きしめ、涙目を浮かべる。
「ううっ、怖かったよ……リン君、早く助けに来てくれないかな」
「ウォンッ!!」
リンならば必ず助けに来てくれるとハルカは信じており、その言葉に肯定するようにウルも返事を行う。しかし、そんな二人の希望とは裏腹に状況は悪化していく。
「よ、ようやく追いついたぞ!!」
「もう逃がさないからなっ!!」
「はあっ、はあっ……て、手こずらせやがって」
「ふえっ!?」
「グルルルッ……!!」
振り切ったと思った男達三人が現れ、しかも最悪な事にハルカに迷い込んだ路地裏は一本道で前後を挟まれてしまった。後方には男が二人、前方には大男が立ちふさがる。
前後を挟まれてしまったハルカは怯えた表情でウルの後ろに隠れ、ウルは威嚇する様に彼等を睨みつけるが、この時に大男は剣を抜く。
「ちっ……これ以上の鬼ごっこなんて付き合ってられるか。白狼種は俺が殺る、お前等は逃げないようにその娘を見張ってろ!!」
「お、おう!!」
「頼んだぞ!!」
「いやぁっ……こ、来ないで!!」
「ウォオンッ!!」
剣を抜いた大男にハルカは怯え、ウルを庇おうと抱きしめる。しかし、ウルの方は大男に対して引くつもりはなく、牙を剥き出しにして戦闘態勢に入った。
このままではウルと大男が争う事は避けられないと思われたが、不意にハルカは身体の震えが止まった。彼女は何かを感じ取ったように後方の通路に振り返ると、呆然とした表情で言葉を呟く。
「……リン君?」
「はあっ?」
「こいつ、何を言って……!?」
男達はハルカの表情と言葉を聞いて疑問を抱き、彼女の視線が自分達ではなく後ろの方へ向けられている事に気が付く。男達は後ろに誰かいるのかと振り返った瞬間、顔面を何者かに掴まれた。
「おらぁっ!!」
「「ぶふぅっ!?」」
「なっ!?」
何者かに顔面を掴まれ、地面に勢いよく押し倒された男二人の悲鳴が路地裏に響き渡る。それを見ていた男は驚愕の表情を浮かべ、その一方でハルカとウルは歓喜の表情を浮かべた。
「リン君!!」
「ウォンッ!!」
「はあっ、はあっ……遅れて、ごめん」
男達を倒したのは全身に汗を流したリンであり、彼は身体強化を発揮させたまま男達を地面に叩きつける。後頭部を強打した男達は白目をむいて気絶し、しばらくの間は目を覚ましそうにない。
リンが本当に助けに来てくれた事にハルカは感激し、ウルも嬉しそうに彼の元に駆け寄る。しかし、当のリンはここまでの移動で相当に無茶をしたらしく、身体強化の効果が切れて身体中が悲鳴を上げていた。
「リン君!!怖かったよ!!」
「あいたたたっ!?」
「ウォンッ!?」
身体強化の効果が切れたせいで全身に筋肉痛を引き起こしたリンは、感極まったハルカに抱きしめられて悲鳴を上げた。あまりの痛みに意識が飛びそうになるが、どうにか堪えてハルカを引き離す。
「も、もう大丈夫だよ……だから、ハルカは後ろに下がってて」
「うんっ!!」
「ちっ……よくも俺の仲間をやりやがったな!!」
大男はリンが仲間を倒した事に怒りを抱き、剣を抜いたまま彼にゆっくりと近寄る。一瞬で仲間二人を倒したリンを見ても怖気づいた様子も見せず、そんな男に対してリンは内心焦りを抱く。
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