第47話 魔力調整

(集中しろ……魔力を全部吸収されないようにすれば大丈夫なはずだ!!)



両手に持った魔力剣にリンは意識を集中させ、魔鎧を構成する魔力を少しずつ送り込む。ここで気を付けるのは魔鎧を維持するための最低限の魔力だけは残しておき、決して魔力剣に全ての魔力を吸い取られないように気を付ける。


これまでの修行の成果を生かし、以前よりも魔力操作の技術が磨かれたリンは魔力剣に送り込む魔力を最小限に抑える。やがて柄から小さな光刃が誕生し、彼の身体に纏っていた魔鎧が小さくなった。



(これだ!!これぐらいの魔力で抑えておけば大丈夫なはずだ!!)



魔鎧が解除されない程度に魔力剣に魔力を注ぐと、柄から短剣程度の長さの光刃が生み出される。それを利用してリンは扉の取っ手の部分を破壊し、鍵を壊すと勢いよく扉に体当たりを行う。



『おりゃあっ!!』



扉を破壊して遂に中に入る事に成功したリンは子供の姿を探すと、ベッドの上に子供が寝転がっていた。年齢は5、6才ぐらいであり、どうやら眠っている様子だった。



『君、大丈夫!?』

「う、う〜んっ……」



子供が生きている事を確認するとリンは安堵したが、直後に部屋の中にまで火が燃え広がり始める。どうやら建物が限界を迎えているらしく、悠長に下の階まで下りる余裕などない。



(階段を下りている暇なんてない!!こうなったら窓から飛び降りるしかない!!)



リンは子供を抱きかかえると、この時に彼は毛布を見つけて子供と自分を縛り付ける。これならば子供を落とす心配もなく、しっかりと子供を抱きかかえながらリンは窓を開く。



「子供を見つけました!!今から飛び降ります!!」

「な、なんだって!?」

「無茶だ!!」

「や、止めてっ!?」



下に居る人間にリンはこれから飛び降りる事を伝えると、人々はリンの行動を慌てて止めようとした。しかし、脱出するには他に手段はなく、リンは覚悟を決めて窓から身を乗り出す。



(これしかない!!)



窓から飛び降りる寸前にリンは魔力剣を両手で掴み、柄を直に握りしめている方の手で魔力を注ぎ込む。そうすれば魔力剣に光刃が生み出され、建物の壁を切り裂きながら落ちる事で落下の速度をできる限り現象させる。


この時に気を付けるべきなのは魔力剣に魔力を注ぎ込む事に集中し過ぎず、反対の手で柄を握りしめて決して手放さないように気を付ける。つまりはリンは左手で魔力剣を発動させ、反対の腕は身体強化を発動させて柄を手放さないように握りしめて固定する。


この土壇場でリンは魔力剣と身体強化を同時に発動させる方法を見出し、見事に建物の壁を切り裂きながら落下する速度を緩めて地面に着地する。降りる際に子供を間違っても下敷きにしないようにしっかりと抱きしめ、背中から地面に倒れ込む。



「うぐぅっ!?」

「ほ、本当に飛び降りたぞ!?」

「大丈夫か君!?」

「わ、私の坊やは!?」



倒れたリンの元に急いで他の人間も駆けつけ、二人が無事であるのかを確認する。リンは苦痛の表情を浮かべながらも抱きかかえていた子供を持ち上げると、女性に子供を返す。



「お子さんは無事です……」

「ああっ……良かった!!私の可愛い坊や!!」

「ううんっ……お、お母さん?」



自分の子供が無事である事を知って女性は泣き叫び、その声に子供は目を覚ます。人々はその光景を見て拍手を行い、子供を救い上げたリンを褒め称える。



「君、凄いじゃないか!!」

「まさか本当に子供を救うなんて……」

「大した奴だよ!!」

「いや……あははっ」



他の人間に肩を貸して貰ってリンは火事が起きた建物から離れ、背中に抱えていた反魔の盾を確認する。どうやらリンは無意識に地面に落ちる際に反魔の盾を利用していたらしく、この盾が落下の衝撃を抑えてくれたお陰で大怪我を負わずに済んだらしい。



(ドルトンさんの武器のお陰で助かった……今度会ったらお礼を言わないと)



反魔の盾と魔力剣がなければリンは五体満足で子供を助けられたかどうかは分からず、改めてドルトンに感謝した。そして彼は今更ながらに気付いたが、身に着けている退魔のローブは焦げ跡もない事に気が付く。



(あれ!?全然汚れていない……普通だったら燃えていてもおかしくないのに)



リンはあくまでも魔鎧で身を包んだのは皮膚だけであり、衣服に関しては魔鎧を纏っていない。だから普通ならば彼の身に着けている退魔のローブは炎で燃えていてもおかしくはないのだが、退魔のローブは焦げ跡すら残っていない。


炎に炙られても焦げ跡さえないローブにリンは疑問を抱くが、ここで彼はカイから教えて貰った事を思い出す。カイによればこの退魔のローブは特別な素材らしく、魔法に対する耐性だけではなく、非常に頑丈で熱や寒さにも強いらしい。



「このローブ、本当に凄い代物なんだな……あ、そうだ!!ハルカとウルは!?」



人助けを終えたリンはハルカとウルを噴水広場に置いてきた事を思い出し、慌てて二人の元へ向かう。しかし、何故か二人と別れた場所には誰もおらず、しかも地面には引きちぎられた首輪が落ちていた。



「これは……!?」



二人が居た場所に千切れた首輪がある事にリンは嫌な予感を抱き、急いで二人の姿を探す。しかし、周囲を見渡しても二人の姿は見当たらず、広場には他に人間の姿はない。



(さっきまではあんなに人がいたのに……まさか、さっきの火事のせいか!?)



広場に存在した人間は先ほど起きた宿屋の火災でいなくなったらしく、殆どの人間は火事の現場に向かってしまった。ハルカとウルはここに残るようにリンは注意したが、それが仇となった。



(早く二人を見つけないと!!)



千切れた首輪を握りしめてリンは二人の身に何か危険が起きたと判断し、急いで二人を探そうとした。しかし、探すと言っても手がかりがなければどうしようもなく、闇雲に探し回っても見つかるはずがない。



(くそっ、何処に連れて行かれたんだ!?落ち着け、まずは落ち着くんだ……)



焦る気持ちを抑えてリンは冷静になるために目を閉じて考え込む。興奮していては良案も思いつかず、まずは気持ちを落ち着かせて二人を探そうとした時、奇妙な感覚を抱く。



(何だ、これ……?)



目を閉じた途端にリンは精神が研ぎ澄まされ、無意識に目を閉じたままある方向に顔を向ける。過去にも似たような感覚を何度か味わった事があり、その時の出来事を思い出す。


最初にこの感覚に気付いたのは部屋の中で回復薬の調合を行っている時であり、リンは不意に誰かが近くにいる様な気がした。この時にリンは知らない事だが、実は隣の部屋でカイがリンの様子を覗き見していた。次に同じ感覚を抱いたのはつい先日に魔法の練習を行っていた際、ハルカが後ろから見ていた時だった。



(これは……気配?いや、何か違う気がする……)



危険な魔獣や動物が生息する森で暮らしていたリンは気配に対しては敏感だが、今のリンが感じ取ったのは気配の類ではなく、別の何かだった。



(そうだ、この感覚は……思い出した!!)



最後にリンが思い出したのは少し前にハルカの魔法の練習を行った際、彼女に触れて魔力を送り込んだ際、彼女の魔力を直に感じ取った。そして目を閉じたリンが精神を集中させると、何となくではあるが彼女の事ができた。

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