第37話 治癒魔術師の修行
「う〜ん、美味しい!!やっぱり朝はオークの骨付き肉に限るね!!」
「そ、そうかな……」
皿の上に乗った大きな骨付き肉にハルカは豪快に嚙り付き、それを見たリンは冷や汗を流す。リンは外の世界の女の子とあまり接触してこなかったため、ハルカの食べっぷりを見て外の世界の女子はこんなにも食べるのかと考えてしまう。
(あの骨付き肉だけで僕だとお腹いっぱいになりそうだな……女の子って、こんなに食べるのかな?)
ハルカの食事量を見てリンは圧倒されながらも自分も食事を行い、これから行う修行のためにしっかりと食べて体力は身につけておかなければならない。リンはハルカに顔を向け、今日の修行の確認を行う。
「ハルカ……いや、ハルカ師匠」
「も、もう!!師匠って呼ぶのは止めてよ〜……恥ずかしいよ」
「でも教えて貰っている立場なのに呼び捨てにするのは……」
師匠と呼ばれたハルカは困った表情を浮かべ、現在のリンはハルカの元で教えを受けていた。数日前にハルカに弟子入りを希望したリンだが、今は彼女が治癒魔術師になる時に受けた修行法を教えて貰っている。
ハルカが正式に治癒魔術師に認められたのは最近の出来事だが、治癒魔術師になるためにはハルカは回復魔法の基礎を身に付ける特別な修行法を受けていた。その修行法はリンが森の中で行っていたマリアの指導とは大分異なっていた――
――食事を終えた後、リン達は屋敷の中庭に訪れる。中庭には様々な植物が育てられており、その中には薬草なども含まれていた。この中庭の植物は元々はハルカの母親が世話をしていたらしく、彼女は綺麗な花だけではなく、色々な植物を育てていた。
「じゃあ、今日の修行を始めようか」
「はい、ハルカ師匠!!」
「だ、だから師匠は止めてよ〜」
ハルカは二つの植木鉢を用意し、彼女は種をリンに渡す。リンとハルカは植木鉢を床に置くと、種を両手で握りしめた状態で座り込む。
「「…………」」
しばらくの間は二人な目を閉じて意識を集中させ、自分の両手に収まった種に魔力を送り込む。これまでリンは怪我をした相手に魔力を送り込む事はあったが、植物の種に魔力を送り込むのはここへ来てから初めての体験だった。
治癒魔術師は最初に行う修行は植物を利用し、魔力を送り込む感覚を掴む事だった。リンも森の中で魔力を操作する修行は行っていたが、治癒魔術師の修行法は根本的に異なっていた。
(植物の種に魔力を送り込む事で自分の中の魔力の感覚を掴むのか……でも、この方法だと僕の修行よりもかなり難しいと思うけどな)
魔力を送り込む方法はリンは自分の体内の魔力の流れ感じ取り、自力で魔力を操れるようになってからできるようになった。しかし、治癒魔術師の場合は魔力の流れを掴む前に魔力を送り込む方法を優先しており、その事にリンは違和感を抱く。
(まあ、魔力を送り込む感覚が掴めれば自然と魔力の流れも感じるようになるのかな……)
リンの場合は魔力の流れを掴む段階を踏んで魔力を送り込む方法を身に付けたが、最初から魔力を送り込む方法を覚えれば自分の中の魔力の流れも掴めるようになるかもしれない。そんな事を考えている内にリンの隣に座っているハルカは手を開く。
「ふうっ……芽が出てきたから植えるね」
「え、もう!?」
ハルカの言葉を聞いてリンは驚いて振り返ると、彼女の開かれた両手の上には芽を生やした種があった。この修行法は種に魔力を送り込む事で成長を促す事ができる。
治癒魔術師の魔力は生物の怪我を癒すだけではなく、植物などに魔力を送ると成長を速める事ができる。ハルカは自身の魔力を分け与える事で種の成長を促し、芽を生やさせる事に成功した。
(やっぱり凄い……この種、普通なら芽を生やすのに一晩は掛かるはずなのに)
修行に利用される植物は比較的に成長が速い物が選ばれるが、ハルカが用意した物は一晩は地面に埋めないと芽が出ない植物だった。しかし、彼女は数分ほど握りしめていただけで芽を生やす事に成功し、植木鉢に植え込む。
「大きくな〜れ、もっと大きくな〜れ……」
「……それは呪文なの?」
「え?違うよ?」
植木鉢に向けてハルカは今度は両手を翳し、念じる様に呟く。今度は直接触れずに魔力を送り込んでいるらしく、彼女は「大きくなれ」という言葉を呟きながら念じる。ちなみに彼女が前かがみになった事で胸が強調され、心なしか揺れているように見えた。
(……成長しているのは種だけなのかな。いや、何を考えてるんだ僕!?)
ハルカの揺れ動く胸を見てリンは慌てて顔を反らし、邪な考えを振り払って自分も種に魔力を送り込む事に集中する。しかし、ハルカと違ってリンの種は一向に芽を生やさない。
(ハルカはすぐに芽を生やしたのに……)
魔力操作には自信があるリンだったが、治癒魔術師の修行を開始してからリンはハルカのように上手く植物の種を育てる事ができなかった。
カイによるとハルカは生まれながらに膨大な魔力を持って生まれたため、普通の魔術師よりも魔力の制御が難しいと言っていた。しかし、そんな彼女でも植物の種に芽を生やす事はできる。
リンの魔力量はハルカと比べるとどの程度の物なのかは分からないが、少なくともハルカと違ってリンは最初の頃は魔力が少なく、魔力の制御もそれほど困難ではなかった。むしろ魔力が少なかったお陰で魔力を扱える技術を自力で身に付ける事ができたはずなのだが、治癒魔術師の修行は一向に進まない。
(やっぱり、僕には紋章が刻まれていないから駄目なのか……?)
治癒魔術師の紋章を持つハルカと違い、リンは自分が紋章を持っていないから上手く植物の種を育てる事ができないのかと思った。やはり紋章がない人間では回復魔法は会得できないかと思ったが、それでもリンは諦めない。
(いや、弱気になるな!!絶対にやり遂げて見せる!!)
気を引き締め直してリンは種を握りしめ、魔力を送り込み続ける。しばらくすると彼は両手に異変を感じ取り、恐る恐る開くと芽が出ていた。
「や、やった!!」
「わあっ!?遂に芽が出たんだね!?」
リンの掌の上に置かれた種は芽が生えており、初めてリンは芽を生やす事に成功した。彼が芽を生やしたのを見てハルカは驚き、すぐに嬉しそうに抱きしめる。
「良かったね、リン君!!」
「うぷぅっ!?」
感極まったハルカはリンに抱きつき、自分の胸元に彼の顔を押し付ける。予想外のハルカの行動にリンは驚き、危うく種を落としそうになった。
(で、でかい……それに柔らかい)
同世代の女子と比べてもハルカの胸は非常に大きく、あまりの柔らかさにリンは戸惑う。ハルカは小さい子供を褒め称える様にリンの頭を撫でた。
「よしよし、リン君も頑張ったね。いい子いい子」
「むぐぐっ……!?」
ハルカとしてはウルを可愛がるようにリンを褒めているつもりかもしれないが、リンとしては彼女の胸の感触に心地よくも苦しい思いを抱く。しかもやたらと力が強くて引き剥がせない。
一緒に暮らしている内にリンはハルカが普通の女の子ではないのかと思い始めていたが、それが今になって確信に至る。リンは全力でハルカから離れようとするが、一向に彼女を引き離す事ができない。リンも森の中で鍛えてきたので力には自信があるが、まるで巨人に抱きしめられたかのように引き剥がせない。
※作者「馬鹿な、私の作品で普通のラブコメ展開になってるだと……あ、あり得ない!?」(; ゚Д゚)コイツハニセモノダ!!
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