第35話 弟子にしてください!!

「本当です。僕は魔法は使えません、だけど魔力操作の技術は習得しています」

「なんと……リン殿を疑いたくはないが、到底信じられませんな」

「魔法使いじゃない人が魔力を使えるの……?」



命を救ってくれた人間とはいえ、ハルカもカイもリンの言葉を素直に信じる事ができなかった。二人の反応は当たり前であり、この世界では紋章が刻まれた人間しか魔法は扱えない。


そもそも魔法使いではない人間が魔力を操作する技術を身に着ける事自体があり得ず、魔法が使えない人間が魔力を身に付けても意味はないと思われることが多い。しかし、リンは証拠を見せるために馬車を停める様に頼む。



「すいません、あそこにある岩の所に止めてくれませんか?」

「え?」

「リン君?急にどうしたの?」



リンの言葉に馬車を運転していたカイは戸惑いながらも指示通りに馬車を停止させると、リンは馬車から下りて岩の前に立つ。その様子をカイとハルカは不思議そうに眺めると、二人に対してリンは振り返って一言告げる。



「よく見ててくださいね」

「リン君?」

「リン殿、いったい何を……」



岩の前に立ったリンは右拳を握りしめると、意識を集中させるために目を閉じる。そして彼は身体強化を発動させると、ハルカとカイはリンの雰囲気が変化した事に気が付く。



「あ、あれ?」

「これは……」

「ふうっ……」



全身の筋力を強化させたリンは岩に狙いを定め、右拳を全力で突き出す。そして攻撃が当たる寸前に魔鎧を右腕に発動させ、強烈な一撃を叩き込む。



「だああっ!!」

「わあっ!?」

「ぬおっ!?」

「ヒヒンッ!?」



魔鎧を纏ったリンの拳が岩に衝突した瞬間、強烈な衝撃が走って岩が砕けた。それを見たハルカとカイは驚き、馬車を引く馬達も驚く。


慌ててカイは馬達を落ち着かせると、岩を砕いたリンは右拳を確認して頷く。森で修行していた頃に毎日殴りつけていた岩と比べると脆く感じられ、普通の岩ならば今のリンならば魔力剣など使わずとも壊せる事ができた。



「うん、調子はまあまあかな」

「す、すっご〜い!!」

「し、信じられん……あんなに大きな岩を砕けるなど」



岩を破壊したリンにハルカとカイは驚きを隠せず、二人の反応を見てリンは自分が治癒魔術師ではない事を説明する。



「これと同じことを治癒魔術師の人もできますか?」

「む、無理だよ〜……そんな事できる人なんていないよ」

「今のはまさか攻撃魔法ですか!?と言う事はリン殿は治癒魔術師ではなく、別の……」

「いいえ、僕はただの人間です」



カイはリンが岩を砕いたのは攻撃魔法の類で破壊したのかと思ったが、リンは自分が魔法使いじゃない普通の人間だと改めて言い直す。



「今のは魔力を利用して筋力を強化して、その後に右手に魔力の鎧を形成して殴りつけただけです。子供の頃から修行すれば誰だって同じことができます」

「い、言っている意味はよく分からんが……確かにこんな芸当は治癒魔術師には真似できん」

「リン君、本当に治癒魔術師じゃなかったんだ……」



リンの説明を聞いてもカイとハルカは理解できなかったが、彼が治癒魔術師ではない事は信じてくれた。治癒魔術師は攻撃系の魔法は覚えられないため、彼の様に岩を素手で破壊する事など絶対にできない。



「でも、リン君は治癒魔術師じゃないのにどうしてウル君の怪我を治す事ができたの?」

「それは……ウルに僕の魔力を流して自然治癒力を高めたんだよ」

「ウォンッ!!」



自分の名前を呼ばれた事でウルは馬車から下りてリンの元に駆けつけると、それを見たハルカは首を傾げる。彼女はウルの元に近付き、怪我をしていた箇所を確かめるが傷跡も残っていない。



「やっぱり怪我は治ってる……回復魔法で治したとしか思えない」

「多分だけど、僕の能力とハルカの回復魔法は原理は同じなんだよ。だけど、僕の場合は紋章がないからハルカみたいに上手く回復させる事はできないと思うけど……」

「そ、そんな……紋章無しで回復魔法を使う人なんて聞いた事ないよ!?」



ハルカはリンの言葉を聞いて動揺を隠しきれず、紋章を刻まれていない人間が回復魔法と同じ原理で治療するなど聞いた事もない。しかし、現実にリンは紋章無しでも自身や他者の怪我を治す事ができた。


世間一般では十字架の紋章が刻まれた人間、つまりは治癒魔術師(治癒魔導士含め)しか回復魔法は扱えないと思われているが、実際には紋章がない人間でも怪我を治す能力は扱える。但し、紋章がある無しでは回復効果に大きな差があった。



(ハルカの回復魔法の方が圧倒的に回復速度が早いし、魔力もそんなに消費してない気がする。僕の再生の場合は回復にも時間が掛かるし、魔力も相当に消費する……と言う事は紋章がある人間の方が優れた魔法を使えるという事なのかな)



リンはハルカの胸元に視線を向け、今は服で隠れているが彼女に刻まれた十字架の紋章を思い出す。師のマリアは紋章がある人間しか魔法使いにはなれないと言っていたが、リンの再生とハルカの回復魔法が同じ原理で怪我を癒すとしたら二人の使っている能力と魔法は同じ物を意味する。



(もしも僕の再生が回復魔法と一緒だとしたら、僕は知らず知らずのうちに魔法を使えるようになっていたのか?)



魔法使いにはなれないと言われ続けていたリンだったが、ハルカと出会った事でリンはある可能性を見出す。それはという可能性であり、それを確かめるためにリンはハルカに頼む。



「ハルカ!!」

「ふえっ!?」



名前をいきなり呼ばれたハルカはリンに振り返ると、彼は真剣な表情を浮かべてハルカの両手を握りしめた。唐突なリンの行動にハルカは戸惑い、頬を赤らめる。



「リ、リン君!?急にどうしたの!?」

「ハルカに頼みたいことがある……どうしてもハルカの力を貸してほしい」

「えっ!?」



彼女の両手を力強く握りしめながら彼は意を決した表情を浮かべ、そんな彼の顔を見てハルカは顔を真っ赤に染めた。



「だ、駄目だよリン君、私達はさっき会ったばかりで……あ、でも友達からなら……」

「どうか俺を……!!」

「……えっ!?」

「なんと……」

「ウォンッ?」



リンの言葉にハルカは呆気に取られ、それを見ていたカイは唖然とした表情を浮かべ、ウルは可愛らしく首を傾げた――







※馬車|д゚)ナンダコノテンカイハ……←予想外の事態に戸惑う作者

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