第27話 補助

(婆さん、あんたのガキはとんでもない大物になるぞ)



魔力剣と反魔の盾を装備したリンを見て、ドルトンは彼ならば自分の作り出した武器と防具を使いこなせると思った。実を言えばドルトンは武器と防具の製作中に知り合いの魔術師に協力してもらったが、その魔術師は今のリンのように魔力剣と反魔の盾を使いこなす事はできなかった。


ドルトンの知り合いの魔術師は20代後半でリンよりも倍近くの年の差があり、この地方ではそれなりに有名な魔術師だった。だが、そんな魔術師でもドルトンが作り出した魔力剣と反魔の盾は使いこなかった。



『こんな武器と盾、いったい誰が使うんだ!?』



彼の知り合いの魔術師は魔力剣を使おうとすると、魔力の刃は形を保つ事ができず、反魔の盾の方も強い衝撃を受けるとすぐに魔力を消費して動けなくなってしまった。



『欠陥品だ!!こんな物を扱える魔術師なんているはずがない!!』



結局はドルトンの知り合いの魔術師は魔力剣と反魔の盾を扱い切れずに憤慨し、制作途中で帰ってしまった。ドルトンは彼の言葉を聞いて本当に魔力剣と反魔の盾をリンに渡していいのかと思ったが、この二つの武器と防具の制作を依頼したのはマリアである。


マリアは一般の魔術師でも扱いが難しい武器と防具の制作を敢えて依頼し、彼女の頼みを断り切れないドルトンは約束通りに作り上げた。そして彼はマリアの弟子であるリンに託したが、彼は見事に使いこなす。



「この剣と盾、凄く気に入りました!!本当に貰っていいんですか!?」

「あ、ああ……遠慮するな、そいつはお前の物だ」

「ありがとうございます!!」



リンは嬉しそうに魔力剣と反魔の盾を掲げ、その場で素振りを行う。その様子を見てドルトンは感心し、彼の知り合いの魔術師はそもそも魔力剣から光刃を形成する事も困難だった。



(あの武器は魔力の制御が上手くできない奴は扱いこなせないように設計したはず……と言う事はリンは並の魔術師よりも魔力を制御できるという事だ)



並の魔術師ならば魔力剣を扱っても光刃を維持する事もできず、無駄に魔力を消費し続けるだろう。だが、リンの場合は魔力剣を完璧に使いこなし、それどころか刃の形を自由自在に変化させる事ができた。


既にリンの魔力操作の技術は並の魔術師を上回り、もしかしたら師であるマリアさえも超えているかもしれない。魔法使いにはなれないはずのリンが魔術師よりも魔力の操作に長けている事にドルトンは苦笑いを浮かべる。



(婆さん、あんたの弟子はとんでもない逸材だぞ)



ひょうたんを取り出したドルトンは中身の酒を飲み込み、きっと今もリンを空の上で見守り続けるマリアに語り掛ける。



(だが……婆さん、最後の言葉はどういう意味なんだ?)



ドルトンはマリアと最後に会った日、彼女が別れ際に告げた言葉を思い出す。その言葉の意味がドルトンには未だに分からず、彼女との最後の会話を思い返す。




『おい、婆さん!!あんたの言う通りの物を作ってやるけどよ、この武器と防具だと所有者の負担が大き過ぎないか?』

『それでいいんだよ。むしろ、負担が大きい方が

『はあ?どういう意味だよ?』

の武器と防具をやっても意味がないんだよ。そんな物を渡したらあいつの成長の妨げになるからね』

『意味が分からねえぞ……』



普通に考えるのならば大切な弟子に武器と防具を渡す場合、性能が高い代物を用意して渡す方がいいだろう。しかし、マリアは敢えてドルトンに癖のある武器と防具の制作を依頼する。



『使いこなせなければ性能を引き出せない武器と防具の方が、あいつの成長を促すんだよ。だから言ってみればあいつに渡す武器と防具はあたしからの最後の修行なんだよ』

『おいおい、作るのは俺なんだぞ?もしもリンの奴が俺の渡した物を使いこなせなくて死んだら俺のせいみたいになるじゃないか……あいてっ!?』

『あたしの弟子を舐めるんじゃないよ!!三流鍛冶師の武器と防具なんてあっという間に使いこなすさ!!』

『だ、誰が三流だ!?』



最後の方は喧嘩になってしまったが、マリアの言う通りにリンはドルトンが渡した武器と防具を使いこなせていた。並の魔術師でも扱いに困る武器と防具だというのにリンは簡単に使いこなす。



「せいっ!!やあっ!!とりゃっ!!」

「ウォンッ?」

「う〜ん……もうちょっと刃は長い方がいいかな?これぐらいがちょうどいいかもしれない」

「……婆さんの言う通りだな」



魔力剣の素振りを行っていたリンは、魔力を調整して光刃をほんの少しだけ伸ばすと満足そうに頷く。その様子を見てドルトンはマリアの言う通りに彼は只者ではないと認める。


ドルトンは自分の作った魔力剣と反魔の盾をリンが本当に使いこなせるのか心配だったが、それはただの杞憂だと思い知らされる。マリアの言う通りにリンは完璧に彼の作った武器と防具を使いこなし、もう心配する必要はない。



「リン、儂は帰るぞ」

「えっ!?もう行くんですか!?」

「ああ、長い間本業をサボっていたからな。そろそろ戻って真面目に仕事をしないと生活もできなくなるからな」

「そ、そうなんですか……あの、本当にありがとうございました」

「気にするな……達者でな」

「クゥ〜ンッ」



用事を済ませたドルトンは立ち去ろうとすると、最後にリンに振り返る。彼はリンが手にした魔力剣と反魔の盾に視線を向け、笑みを浮かべて立ち去る。



「どうせその剣と盾もすぐに必要なくなるだろうな……」

「え?」

「いや、何でもない。それじゃあ元気でな!!」



片手を振ってドルトンは自分が暮らす山に向けて出発し、そんな彼の後ろ姿をリンとウルは見送る――






――翌日の朝、準備を整えたリンとウルは村から一番近い街へ向けて出発した。リンは魔力剣を腰に装着し、反魔の盾の方は背中に抱えた。やはり旅を出る以上は自分の身を守る武器と防具は身につけておかなければ格好にならず、身を守れる装備があるというだけで安心してしまう。



「へへっ……ようやく旅人らしくなったかな?」

「ウォンッ?」

「何でもないよ、さあ行こう!!」

「ウォオオンッ!!」



リンはウルと共に村を出ると再び草原に繰り出し、まずは地図を取り出して自分達の現在地と方角を確認する。次の街の名前は「イチノ」というらしく、ここから歩いて移動するとなると頑張っても二日は掛かる距離はあった。



「二日ぐらいは歩きっぱなしになりそうだな……はあっ、乗り物が欲しいな」

「ウォンッ!!」

「え?いざというときは自分の背中に乗れ?駄目だよ、ウルはまだ子供なんだから背中には乗れないよ。次の街に辿り着いたら馬を買わないと……」

「クゥ〜ンッ……」

「そんなに落ち込まないでも……ウルがもう少し大きくなったら背中に乗って旅できるからね」

「ウォンッ!!」



ハクと違ってまだ子供のウルはリンを乗せて走る事はできず、彼が大きく成長する日まではリンは馬などの乗り物を利用して旅をしようと考える。


まずは馬を購入するために街へ向かう必要があり、お金に関してはマリアが用意してくれた回復薬を売却してお金を得る事にした。マリアが残してくれた大切な回復薬だが、リンの手持ちの金はそれほど多くはない。長旅をする事を考えればどうしてもお金は必要になる。



「次の街に到着するまで時間は掛かりそうだし、のんびりと行こうか」

「ウォンッ!!」



急ぐ旅でもないのでリンはウルと共にゆっくりと旅を楽しむ事にした。だが、数時間後に彼は旅がどれほど過酷なのかを思い知らされる事になる――

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