第22話 変わり果てた村
「――どうなってるんだ、これ……?」
「ウォンッ……」
ウルと共にリンは草原を歩いて一番近くの村に辿り着いたが、そこには人の姿はなかった。彼がこの村に最後に訪れたのはマリアが亡くなる前であり、一年以上は立ち寄っていない。
まるで大地震が発生したかのように村の中の建物の殆どは倒壊しており、さらに村の中には人の骨と思われる物が散乱していた。前に訪れた時は数十人ほどの人間が暮らしていたはずだが、今は家畜一匹すら残っていない。
(ここ最近は地震なんて起きていなかったはず……いったい何がどうなってるんだ?)
荒れ果てた村の中をリンはウルと共に歩み、人の姿を探すが一向に見つからない。状況から考えてこの村は大分前に滅びたらしく、村人は逃げたかあるいは皆死んでしまったと思われた。
「この村でいったい何が起きたんだ……?」
「クゥ〜ンッ……」
村に辿り着ければリンは一泊する予定だったが、村がこの様子では安心して休める事はできない。だが、次に人が住んでいる場所まで地図を確認する限りでは歩いても2、3日は掛かる距離のため、今日の所はここに泊まるしかない。
(村に着いたら色々と買い込んでおこうと思ったのに、この様子だと人がいるとは思えないな……)
森を出る前に一応は旅支度は整えたが、次の目的地に辿り着くまでの食料と水しか持ち合わせていない。本来ならばこの村で旅に必要な物を買い揃えるつもりだったが、村に人がいないのであればどうしようもできない。
「ウル、今日はここに泊まろう。外よりはマシだと思うし……」
「ウォンッ!!」
村の中を歩き回ったリンは村の中央にある広場を見つけ、そこで夜営を行う事にした。村の中の建物は何処も酷い状態であり、下手に建物の中に休んでいると地震が起きた時に建物が崩壊して生き埋めになる可能性があった。
焚火になりそうな木材を集めてリンは火を炊くと、今日の所は森から持って来た食料で凌ぐ。ウルには干し肉を渡し、リンはパンを齧りながら地図を確認する。
(旅をするなら乗り物がやっぱりほしいな……ウルはまだ大きくないから背中に乗る事はできないし、そうなると次の街で馬とか買った方がいいかな。でも、馬なんて乗った事ないから大丈夫かな……乗馬の仕方も覚えないとな)
次の街でリンは馬を買い、ついでに乗馬の技術を身に付ける事にした。馬を買うお金は師匠が残してくれた回復薬を売却し、その売上金で馬を買う事を決めた。師匠が残してくれた大切な薬だが、旅をするのであれば乗り物は必須だった。
「ウル、夜になったら交代で見張りをしよう。何か気付いたらすぐに起こすんだぞ」
「ウォンッ!!」
ウルはリンの言う事に素直に従い、彼はリンの事を主人と認めていた。白狼種は魔獣種の中でも人間に友好的な生き物であり、自分が主人と見定めた相手には一生仕えると言われている。だからこそハクも主人であるマリアが死んでも彼女の墓がある場所からは離れない。
今日の所は村に一泊し、明日の朝になったら次の街に向かう事に決めた。リンは夜を迎えるまで時間はあったが、昼寝をしておいて夜の見張りに備える事にした――
――夕方を迎えるとリンは焚火に使えそうな材料を集め、夜通し火を燃やすための準備を行う。ウルは既に寝込んでおり、交代の時間まで休ませる事にした。リンは眠っているウルの身体を優しく摩りながら空を見上げる。
「大分暗くなってきたな……そういえば森の外で泊まるなんて子供の頃以来だな」
森に暮らし始めてからはリンは森の外で寝泊まりした事も一度もなく、改めて自分が森から出た事を実感する。森の中以外での寝泊まりとなると少し落ち着かないが、これからは森の中ではなく、外で暮らす事が多くなる。
「なんか落ち着かないな……その内に慣れてくるのかな?」
「スンスンッ……ウォンッ!!」
「うわっ!?どうしたの!?」
自分の横で眠っていたウルが急に起きて立ち上がった事にリンは驚き、彼は何かを感じ取ったのか牙を剥き出しにして唸り声を上げる。
「グルルルッ……!!」
「ウル?近くに何かいるの?」
「ガウッ!!」
リンの言葉に肯定するように彼は荒々しい鳴き声を上げ、それを聞いたリンは周囲を見渡す。時刻は夕方を越えて夜になろうとしており、周囲は暗闇に染まっていた。
森の中で暮らしてきたリンは他の生物の気配には敏感であり、夜目も効きやすい。だからこそ彼は何時の間にか自分達が取り囲まれている事に気が付き、暗闇の中に紛れて自分達の様子を伺う存在を見抜く。
(囲まれている……しかも、この気配は人じゃない!!)
咄嗟にリンは右手に魔鎧を発動させ、右手を魔力の膜を包んだ状態で焚火に突っ込む。魔鎧を纏っていれば熱を感じる事もないため、火が点いた薪を手にしたリンは隠れている相手に目掛けて投げ放つ。
「出て来い!!」
「ギィッ!?」
「ギィアッ!?」
火が灯った薪を投げつけると、隠れていた敵は驚いた様子で鳴き声を上げる。案の定というべきかリン達を取り囲んでいた相手は人間ではなく、魔物のゴブリンである事が判明した。
十数匹のゴブリンがリン達を取り囲み、正体がバレると隠れるのを止めてゴブリン達は姿を現わす。この時にリンは驚いたのはゴブリン達は人間の衣服を着こんでおり、その手には鍬や鎌が握りしめられていた。
(こいつら、この村の人間の道具を扱っている)
ゴブリンは魔物の中では知能が高いため、武器や罠を自作して獲物を仕留める事もある。だが、リン達の前に現れたゴブリンは人間の道具を扱いこなし、森の中で遭遇したゴブリンよりも厄介そうな相手だった。
「ギィイイッ!!」
「ギギィッ!!」
「ギッギッギッ……!!」
「こいつら、笑ってるのか……?」
「グルルルッ!!」
獲物を見つけた事に喜んでいるのかゴブリン達は笑い声らしき鳴き声を上げ、その態度にウルは苛立ち、リンもいい気分はしなかった。確かに状況的には囲まれたリン達が不利なように思えるが、実際の所は危険なのはゴブリン達の方である。
リンはこんな時のために事前に昼間に武器になりそうな物を集めており、彼は焚火を燃やすために用意しておいた棒切れを取り出す。それを見たゴブリン達は呆気に取られ、再び笑い声を上げる。
「ギッギッギッ!!」
「……何を笑ってるんだ?お前等なんか、こんな棒切れひとつで十分だよ」
「ギィッ!?」
ゴブリンの群れはリンの挑発を聞いて笑顔から一変して怒りの表情を浮かべ、体格がいいゴブリンが彼に目掛けて突っ込む。こちらのゴブリンは両手に鎌を握りしめ、リンに目掛けて跳躍して上から振り下ろす。
「ギギィイイッ!!」
「まずは……お前だ!!」
ゴブリンが飛び掛かってきた瞬間、リンは目つきを鋭くさせて両手に握りしめていた棒切れを構える。すると彼の掌越しに魔力が流れ込み、棒切れは一瞬にして光剣へと変化した。
上空から振り落とされた鎌に対してリンは光剣で受け止めると、破壊されたのは鎌の刃の方だった。高密度の魔力に包み込まれた光剣の切れ味は凄まじく、鋼鉄以上の強度と鋭さを誇り、そのまま空中に浮かんだゴブリンの身体を斬り裂く。
「ギィアアアッ!?」
「まずは1匹!!」
『ッ……!?』
仲間が斬り裂かれた光景を見て他のゴブリンは目を見開き、何が起きたのか理解できていない様子だった。そんなゴブリンの隙を見逃さず、今度はウルが駆け抜けて近くに立っていたゴブリンに襲い掛かる。
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