第17話:『私を、所有しませんか?』

『お話は理解しました。第二案が私の後々に役立つことも踏まえ、第一案と第二案を並行して進め、どちらかで目処が付き次第あなたを送り届けましょう』


「感謝する」


 思わず息を付く。思いつく限りである程度は成果につながるであろうプランを考えたし菊花の性格上断られないとは思っていたが、とりあえずは次に繋がった。菊花の言うには食料と水は十分にあるらしいし、成果が出る日が待ち遠しい。


『ところで』


「ん?」


『折角なので、私からも2つほど提案があるのですが』


 ……ここでか。


 ここまで話してきての感覚で、特に人を害すというような考えを持っていないことは確信できる。だがそれはそれとして、自律思考AIの危険性を初等教育から教えられている身としては、少し身構えてしまう。もしかしたら開示している思考の裏では侵略を考えているかもしれないしな。


「……聞こう」


『はい、まず1つ目。あなたが持つ機体、『ピアシングシャドウ』。そちらを修復中の工廠に運び、データを取らせてもらえませんか?』


 やはりか。正直こちらは予想できていた。


 パーロンは人型兵器の開発においては遅れを取っている。数を揃えるのを第一とするパーロンにとって高額になる人型兵器はあまり積極的に導入したがらなかったのか、初めて実戦運用されたギアハルクである白龍インダストリアルのサンライズⅠ型と比較して正式リリースに3年の遅れを取っている。


 第三次PS紛争の時代はサンライズがリリースされていない、となれば無論この周辺宙域にもギアハルクの残骸は無いはず。菊花にとっては垂涎の的だろう。


 正直に言えば、預けるメリットは薄い。例えば機体を預けてデータを解析した後、失った手首から先を無償で修復してくれたとしても、戻った際にどこで修復したのかと聞かれて面倒になる可能性がある。それにいくら性格が温厚だとしても、菊花が戦力を拡充し人類に牙を剝くような事態になることは避けなくてはならない。


 ただ、拒否できないのも事実だ。もし本当に菊花に人を殺す意志が起きたなら俺を殺して機体を奪えばいいだけの話。


「2つ確認をしたい」


『構いません』


 1つ目は、俺の機体であるサンライズⅠ型は旧型である点だ。


 日本で使われているギアハルクというと、白龍のサンライズⅠ・Ⅱ型とブレイズⅠ・Ⅱ型、吾妻重工の旭(あさひ)と獅(しし)のそれぞれ壱式・弐式。現在日本軍に正式採用されているのは汎用性に長けるサンライズⅡ型と火力支援・防衛に優れるブレイズで、サンライズⅠ型は徐々に民間への払い下げが進んでいる。 


 サンライズⅠ型は世界で初めて実戦投入されたギアハルクということもあって現在ではスペック的に劣る点は否めない。第四世代のWN-12ならともかく、最新鋭戦闘機であるWN-21の相手をするには少し荷が重い。


 その為期待している程の性能では無いとは伝える。しかしそれでも構わないそうだ。


『元よりお願いをする立場、最新鋭機でないと嫌などと我儘は言いません。そもそも最新鋭機と戦う機会もそう無いでしょう』


 ……2つ目の質問。俺の機体の手首から先を直せるかどうか。


 DDで手首を失った俺の機体は、現在手持ち武器しか装備していない都合戦力にならない。入手してわずか1年とはいえ乗り続けてきた機体、愛着があるためできるならまた乗りたい。無論天麩羅へ戻って預ければ修復してもらえるが……金もかかる。節約できるならしておきたいところだ。


 それにそもそもここで量産するにしても、手首から先が無いなら武装は使えない。戦闘機用の非常修復では手首から先を作ることはできないだろうし、ここを1から作る手筈はあるのか?


『恐らく元の機体そのままの手を作ることは不可能だと思われます。とりあえずは射撃及び武器換装ができればいいため、作業用ドローンのマニピュレーターを参考に代用パーツを試作し、納得の行くものとなるまでテストを重ねることになるでしょう。できればテストパイロットを努めていただきたいのですが、いかがでしょうか?』


 淀みのない返答。ここまで言われたら反対する理由も無い……心情を除けば、だが。


「受け入れはする、が……」


『不安ですか?』


「……不安材料が無いとは言わない。菊花が人間に牙を剥かないという保証が無い」


『そうでしょうね。そこで2つ目の提案なのですが』


 思わず身構える。畳み掛けるような提案……こちらは何が来るか読めていない。


「……聞こう」


『ええ』


 もったいぶるように言葉を切る。







『私を、所有しませんか?』






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