第16話:二つの案
「アテ……デブリか?」
『はい』
ソラルの第一案は説得力あるものだった。ソラルはあまり逡巡しないというか語り口に迷いがないから、何喋っても自信があるように聞こえるんだよな。リーダーに向いてる人ってこういう感じなんだろうか。
で、機体ね。これはある意味タイミングが良かったというべきか。
というのも、別に人格データの一部をコピーして艦に乗っけた程度で俺本体が動かなくなるわけではないので、救難信号が偽物だった場合のことを考えて、そして後に救難信号を出した機体を回収してデータを取るため、作業用ドローンの増産が終わったあとに工廠を急ピッチで修復しているのだ。
まあ現在進行系なので終わってないのだが……とにかくこれで艦や機体の解析による詳細なデータの取得、並びにこれを元とした新造や修復が可能になる。
今使ってる艦の修復作業はデータがないせいで、非常修復任せになっちゃったからなぁ。これは主に他国艦など自身の保有データにない機体の非常修復用で、修復箇所を割り出したあと手持ちのデータから似た機能や設計を探し出してそれを元に修復するのだ。俺の艦のデータは古いから、そのままだとスペック落ちちゃうんだよね……。
とにかく工廠が完全に修復できたら、事前に目星を付けていたデブリを回収してデータを取るつもりでいる。損傷の少ない同型機を3機も集めれば、完全修復に必要なデータは集まると踏んでいる。まさか全部が全部同じ場所が壊れているということはあるまい。
「なるほど、理解した。他に懸念があるとすれば、運悪く複数機の相手をすることになれば旗色が悪いくらいか。こればかりは仕方無いが……」
『でしたら、複数機作って私が動かしましょうか。データがあればシミュレーションが可能であるため、私のリソースの一部を回せばある程度の実戦は可能と思われます』
「……AIのみで動かす無人戦闘機は国際法違反だが」
『そこはまあ、助けたり帰還に手を貸す見返りとして見逃してほしいんですけどね』
そう伝えれば、大きな溜め息をこぼされた。酷い。
「……話を戻す。とにかくこれが第一案だ」
『第二案は?』
「これも菊花の協力がいる、その上そちらにも利がある」
『ほほう』
ソラルが次いで語ったのは、偵察機を使用して地道に周辺宙域の情報を得ていく方法だ。
ソラルが言っていたように宇宙は広く、移動や情報の伝達に時間がかかる。その為宇宙空間にスペースを持ち製造や出荷に携わる業者は、企業間のやり取りの他にも輸送を主に請け負う所謂「行商人」や情報を売買する「情報屋」なんかにも取引をしている。
企業Aのトラブル発生により生産が遅れる→企業Aからの部品が届かないことにより企業Bの生産が滞る→その情報を「情報屋」に売る→情報屋は傭兵ステーションや企業Cに情報を売る→「行商人」は企業Aに別所で仕入れた原料を売りに行き、企業Cは企業Bに部品を売りに行く……よくある例としてはこんな感じらしい。
この事情のため、例えばステーションの所有者や簡易的な説明、交易のオファーといった所有者側が公開している情報を、民間機でもステーション外部からスキャンすることで得ることができる。例えば行商人はステーションを外からスキャンして商品の在庫はどれだけあるかを確認して、在庫余ってるから予め安く買ってあそこで売ろうとか、この部品足りてないならあそこから仕入れてこようとか、そういう利鞘で稼ぐわけだ。
もちろんあんまり不審な動きしてると警告されたり、酷いとその場で撃ち落とされたりするから程々にしないといけないが、とにかく結論としては、民間の機体が単独で宙域内を飛んでいてもあまり不審には見られないということだ。この案ではこれを利用する。
具体的には高速で移動可能でかつ空間サーチ能力に長けた偵察機複数とそれの運用能力がある輸送艦を修復もしくは建造し、偵察機用のエネルギーセルを一緒に積んでどの宙域のどこに何があるのかを明らかにしていくとのこと。
「目当てはJ星域と中国圏を繋ぐハイウェイ『龍流』かジャンプゲート。直接それを見つけられなくても、例えばステーションを発見したなら、そのステーションから発つ船がどんなルートを通ってどこに向かうか調べるでもいい」
『それでいいのですか?』
「同宙域内でのみ活動しているという例はそんなに多くないし、そうだったとしても、宙域の中で交通量が多い一等地を一切通らないということも無いはずだ。一等地は大抵はハイウェイやゲートの周辺にある。広い宙域を自力で埋めなければならない分最初は時間がかかるが、何かしらの成果は出るだろうと踏んでいる」
ようするに、ゲームでダンジョンに潜ってフロアのどこに何があるかマッピングするみたいに、宙域の端から端まで移動して埋めていって、人の集まる場所を探すわけだ。これもまあ理に適っているな。
第一案第二案と言っていたが、別に両方並行して進めてもいい気がするな。特に後者はむしろ俺が自分のためだけにやりたいくらいだ。
ソラルを仲間の元へ返すための第一案、自分の為の第二案。そんで第二案の方で先に成果が出そうならそっちを使ってソラルを運ぶ。そんな感じで行ってみるか。
うん……やっぱ、ソラルいいよね。宙族退治をする程度には善寄りで、俺を蔑ろにせず相談しあえて、自前の傭兵団という戦力を持っていて、傭兵ギルドや師匠と呼んでいる高ランクの傭兵団とのコネクションも繋げる。
ここで会えたのはきっと運命……なんてね。
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