第14話:宇宙ステーション「菊花」
決まった……。
恐らく俺に顔があるなら渾身のドヤ顔を決めていることだろう。あまり表情の動かないソラルの顔を崩したいという……いやもちろんそれだけではないけど、そういう理由で素性を黙っていた甲斐があったというもんだ。
たっぷり2分ガラスに貼り付いたソラルが、フラフラとメイン端末へ近寄る。
「AI搭載型宇宙ステーション、菊花……」
『驚きましたか?』
「それはもう、な。流石に想像の外だ」
溜息と共に吐き出したその言葉に心の中でニコニコしてしまう。まさに見たかったものを100点満点で見れた。
「軍用であることは予想できていたが、まさか拠点というのがステーションまるごととは思っていなかった」
『流石にわかりますか』
「あそこまで一般知識について質問されればな」
うんまあ、そうよね。おかげでなんとなくこの時代の情勢とか宇宙活動における基礎知識はなんとなく知れたが、時々訝しげな顔と返事してたし、間違いなくおかしな点だったろう。もし俺が民間施設のAIならその辺の知識がインプットされてなきゃサポートできないしね。
『ではまず、一度ドックへ着艦します。その際そちらの機体をドックの通路に転がすわけにもいかないので、フックを外し自身の機体の着艦をお願いします』
「了解した」
そう言って踵を返しブリッジを出るソラル。頭の切り替えが早いなぁ。俺もソラルの機体が起動次第動いて先導せねば。
(ドッキング申請……承認を確認。流石にこれは共通規格か)
速度制限エリアに入り減速した機体を操る。モニターに表示されたマークと線を使って軸を合わせるドッキング。輸送船を手に入れて以降は自分でやることがなかったので上手くできるか少しだけ不安だったが……感覚を忘れていなくてよかった。
着地確認。ロック確認。外部環境チェック。……大気無し、重力無し。パイロットスーツの動作確認……よし。
コクピットを開いて外に出る。隣の小型機用発着場には俺を乗せここまで運んできた輸送船が鎮座している。
しかし……酷い破損っぷりだ。大量の爆発が起こったのか焦げ跡だらけ。ほとんど明かりも通っておらず、発着場も半分は潰されている。これで機能が動いているのが不思議だ。
単純に考えれば攻撃され放棄したのだろう。この宙域は主戦場であるR-53宙域からそこまで遠くない。第三次SP紛争の時に実戦投入したものの、スターリに押され攻撃を受け、ステーションを放棄した。そのAIがまだ生き残っていて、主のいないまま活動している、といったところか。
しかしそれならば、スターリがこのステーションを確保し拠点として使用していてもおかしくない気がするが……。
『ソラルさん』
中世的な男性の声。声? 人がいる……いや。
「AI……いや、菊花、でいいか?」
『構いません。艦には音声データを載せていなかったもので』
「そうか……改めてソラルだ。救援を感謝する」
改めて頭を下げる。この声が菊花の本体で、艦に乗っていたのは分割データということか。
『お気になさらず。無重力では少々落ち着かないでしょう、重力のあるスペースへ案内します。そこで今後について話しましょう』
「了解した」
返答と共に、足元の誘導灯に明かりが付く。……ランプも破損しているから飛び飛びだが。まあとにかくこれを辿って来いということか。行き先は……あれか。
前に立つと同時にひらいた少人数用多角エレベータに乗り込むと、すぐに扉が閉じて移動を開始する。行先は居住区画……軍用だからようするに兵舎だろう。しかし……。
(間近で見ると改めて大きいな、所有空間で換算すれば『天麩羅』の十倍以上はある……これが本物の戦略拠点か)
モジュール間の接続通路に沿って進むポッドから外を見ることが出来るが、あまりに大きく感覚が狂いそうになる。目的地の居住モジュールはモニターに構造図と現在地、目的地が示されていることからすぐわかったが……大型居住モジュールのキャパシティは確か十万人、あれほどのサイズになるのか……。
環状施設を介し移動したエレベータが居住モジュールに到着する。エントランスは殺風景なものの広く、明かりも点いている。恐らく植物が植えられていた場所や中央の噴水に何もなかったり、デカデカと貼られたパーロンのマークが気になるが、ここで過ごしていればそのうち慣れるだろう。あまり慣れたくもないが……。
『居住モジュール第一区画へようこそ。現在人間が生活できるスペースはこの第一区画のみになります、滞在中はここをお使いください』
「了解した。では早速だが……」
『はい。今後の話をしましょうか』
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