第13話:探り
(まるで人間だな)
端的にそう思う。言葉を発するのは自分であちらはメッセージを表示するのみだが、それでもリアルな人間を相手にしているような会話だった。
「やはりAIか」
『はい。隠しているつもりでは無かったんですが』
「……」
『何か?』
隠しているつもりではなかった……自分から言うことはしないがバレること自体は構わないということだろうか。自律思考型AIの開発が禁じられていることを知っていればその発言は出ない、恐らくインプットされてるデータが偏っている。
考えられる可能性としては、やはり軍用だろう。軍用船を使っていることもそうだし、知識が偏っていることにも頷ける。
ただこの脇の甘いところを見ると軍用AIというイメージから離れる。それに軍用ならばそもそもパーロン籍でない救難信号など無視するか、なんらかのメリットありきだったとしてもそれを表に出すことはしないだろう。
「いや、なんでもない。そちらの事情はあまり詮索しない、そしてもし帰還しても貴方のことを公にしないことを約束する」
『ありがとうございます。私のことはとりあえずAIで構いません』
「名が無いのか?」
『あるにはありますが、一応秘密です』
秘密か。まあ、機密情報と考える方が自然か。
まあ、このAIの事情を詮索するよりも俺にはやることがある。帰還方法を探さねばならない。何者だろうとこの近くを拠点にするなら周辺宙域のデータくらいはあるだろうと思っていたが、あてが外れてしまった。
まあもしあったとしても、結局俺一人でどうにかなる問題じゃない。このAIの力を借りるのは必須だ。幸い、AI自体は友好的な態度を取っている。協力してほしいと言われればしてくれる可能性は高い。
そうなると今のうちに色々聞き出しておいて、方法を考えるほうが効率的だが……。
『話が途切れましたが、他に質問はありますか?』
「……興味を引かれているし、したい質問もいくつもあるが、とりあえず今はいい。あまり詮索しないとも言ったし、根掘り葉掘り聞いて印象を下げることは避けたい」
『随分あけすけに言いますね?』
「俺が仲間の元へ戻るにはAIさんの助けがいる。AIさんの印象を上げるためならこの程度は我慢のうちに入らない」
『誠実なのですね』
「そんなことはないさ」
聞きたいことをグッと抑え、ある程度思考を開示する。あちらはお人好し、良心に訴えた方が話を通しやすいと踏んだ。
実際のところ、誠実と言えるかは微妙なところだ。そもそも打算ありきでの開示だし、AIに言った理由に嘘があるわけではないが全部が全部というわけではない。
『そうですか。では』
「ん?」
『私の拠点に到達するまで、約2日あります。そこまでただ会話無く過ごすのも味気ない……せっかくです。貴方のことを聞かせてくれませんか?』
ふむ……まあ断るようなことじゃない。もしかしたら俺からなにか引き出したい情報でもあるのかもしれないが、一端の傭兵でコネも無い俺から引き出せる重要な情報などない。答えられそうなものには答えていけばいいか。俺だって退屈はごめんだしな。
そう思い了承の返答を出せば、俺が日課のトレーニングをするからと言い出すまで怒涛の質問攻めが始まってしまった。
その中にはこの宇宙で過ごしている一般常識とさえ言えるものすら多々あり、ますますAIの存在に疑問符が増えていくこととなったのだった。
そんな状況が、2日間経過した。相変わらず色々な質問をしてくるのに対してこっちも疑問を返すこともあり、それに答えたり答えなかったり答えが帰ってこなかったり。
お互いの秘密に触れ合わずという空気が合っていたのか、それほど長く会話をすれば当然というべきか……気がつけばある程度、俺とAIは気安い間柄になったのではないかと思う。まあこの閉鎖空間で気が合わない存在で二日間も二人きりとなるとかなりきついだろうし、よかった。
救出から3度目の起床。ルーチンワークの体操を熟してブリッジに向かう。何の気無しに窓から外を見れば、艦が静止していることがわかる。
拠点に到着したのか? と思いブリッジのドアを開ける……。
……。
……。
電子音。
『驚きましたか?』というAIの言葉を見ることもできず、フラフラとフロントガラスに手を着いて凝視する。
破損だらけだし、灯りもまばら。
だが、何本もの大型発着用ドックに、直結の推定工場。モジュールに取り付けられた中・大型防衛砲台の数々……。資料でしか見たこと無いしそれとは当然作りが違うが……間違いない。
「軍用の宇宙ステーションだと……?」
『名前を教えられなかった理由は、実際見てからの方が色々と手っ取り早かったからです。焦らしてしまって申し訳ありません』
『改めまして』
『自立思考AI搭載型宇宙ステーション、「菊花」と申します。どうぞよろしくお願いします』
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