第12話:事情
第二船室に入ったソラルが再びブリッジに入ったのは約10時間経った後だった。
「待たせて申し訳ない」
『お構いなく。休めたようで何よりです』
「早速だが、質問をして構わないだろうか」
『はい』
さーて何が聞かれるか。ある程度予測はしているが、実際対面するとちょっと緊張する。はてさて。
「まず……この船はどこに向かっているか、それを知りたい」
げ。心の中で思わず頭を抱える。その質問はあまりされたくなかったんだが、初手でされるとは。
例えばの話をしよう。ボートで海旅をしていたあなたは、エンジンが故障して漂流してしまった。だが偶然近くを航海していた見知らぬ外人が救助してくれた。あなたは感謝するだろう。しかしその助けてくれた人がどこに行くかを言わずに船を動かしたらどう思うだろうか。
最初の方は何も思わないかもしれない。だがその状態で時間が経ったらどうか。 本当に助けてくれたのか? この船はどこへ向かっているんだ? 実は人攫いなのでは? そういう考えに至ってもおかしくないだろう。
なのでまあ聞かれること自体は想定内なのだが……問題は、この後の質問次第かなぁ。
『この船は戦闘機運用能力がありません。人命を最優先として信号を受け取った時点からすぐにこの船を向かわせた都合上、そこまで多くの物資や交換用のエネルギーセルを積んでいないため、補給や適する船への載せ替えの為私の拠点へ戻ります』
「拠点……」
ふむ、と押し黙るソラル。回答の穴には、多分気づくよなぁ。地頭良さそうだもん。
「では、重ねて質問したい。自分は星域J-21のギルドステーション『天麩羅』を主要拠点としており、仲間との合流の為そこに戻りたい。そちらの補給が終わった後、俺を今牽引している機体と共に近隣の民間ステーションやハイウェイなどへ送り届けてもらう、それは可能か」
うーーーん、だよね、当然そこ聞くよね……。とはいえこれも回答は決まっている。
『申し訳ありませんが、私は私の拠点及びその周辺宙域に関する知識に疎く、近隣のステーションやハイウェイの位置を知りません。その為、不可能です』
「そうか……」
目を伏せるソラル。というかこれ、一気に嫌な予感してきたんですけど。
確かに俺は助けたあとのビジョンが無い。だが、遭難したのであればソラルはどこかからこの宙域に来たはずなのだ。
なので、俺がこの辺の宙域を知らないことを正直に打ち明けて、そしてソラルはどこから来たのかと聞いて、その方向に俺の輸送船を向かわせるついでにソラルの元の端末かなんかに入り込んで、そこからなんとかして宇宙ステーションとかのネットワークに侵入して情報収集し、輸送船を返してもらうという名目でソラルに俺のステーションまで船を戻してもらう。そういうプランを立てていたのだ。
しかしソラルはなぜ目を伏せた? もちろんなんらかの……例えば俺の正体にある程度検討は付いてるとかの理由で、俺のことが信用できないから来た場所を教えたくないとかならまだいいのだ。
しかしその理由が俺の嫌な予感の通りだったら……。
『そちらが遭難する前にいた拠点などの方角をお教えいただければ、長距離輸送艦を用意し送り届けることも可能となります』
「……そうか。ありがたい申し出だが、それは不可能だ」
不可能。できない、なら拠点を教えたくないんだなという推察ができる。しかし不可能と来たか。
『不可能ですか。失礼ながらこちらからも質問させてください』
「構わない」
『ありがとうございます。あなたは、どうやってこの宙域に来たのですか?』
「少し長くなるが、順を追って説明させてもらう」
「……そして救難信号を定期送信するよう設定し、コールドスリープを使用して眠りについた。あとはそちらの知っての通りだ」
『……災難でしたね』
「本当にな」
なるほどね。
ソラルの話は要点をきっちり抑えつつ簡潔にまとまっていて非常にわかりやすかった。ようするに、調査任務で事故ったが仲間を逃がすために頑張って、その拍子に次元の狭間に飲み込まれて超長距離を移動して遭難したと。だから機体の手首から先が壊れてたんだな。
しかし参ったな……団員を想っていることは口ぶりの端々から伝わってきたし、返してやりたいというのは一人の人間としてやまやまだ。しかし方法がな……。
『とりあえず、そちらの状況は把握しました。仲間の下への帰還に協力することをお約束します』
「感謝する。……ところでAIさん」
『はい?』
「呼び名が無いのは不便だ、できれば名前を教えてくれると助かる」
呼び名か。確かに下手したらこの先長い付き合いになるかもしれないし、正直馴染みが無いが菊花って名前は教えておいても……。
……。
「……」
……。
『やらかしましたかね?』
「どうだろうか」
後書き
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