9話:救援

(宇宙は広いな大きいな、ってか)


 資材と共に自らの人格データのコピーを乗せ出港した輸送船内部。進路を妨害するデブリを時に弾き飛ばし時に減速して避け、見える大きさのあるデブリがまばらになるまでには約1日を必要とした。救難信号の発生源まではざっくり30万km、この輸送船の巡航モードがざっくり秒速1500mだから、ざっくり単純計算で2日と8時間くらい。地球しか無かった時代に住んでた身としては宇宙はなんか規模がでかすぎて早いんだか遅いんだかわからないな。


 ありがたいことに信号の発生源は2時間おきに信号を発信してくれているので見失うことはない。

人間が水も食料も無しで何日生きれるかとか知らないし、そもそも機体内に残っている酸素が保つのかとか不安要素はたくさんあるが……。


(まあ死んでても供養くらいはしてあげたいところだな)


 この宇宙のどこともしれない場所で孤独に衰弱死は可哀想すぎるというもの。間に合ってほしいものである。


(それにしても……なんでこんな宙域に訪れたんだ?)


 よくよく考えると不思議なものである。救難信号を出したってことは、この宙域に用事があったが、なんらかの事故や戦闘などによって機体が破損したまま浮かんでるってことだ。ステーションの広域センサーで、この約40日の間周囲を通行する艦船が無いことは確認できている。流石に救難信号が出た宙域はセンサーの感知範囲では無いが、とりあえずこの周辺は何かしらの理由があって通行する価値が低いということになる。そんなところに、しかも小型の戦闘用艦船1隻のみが発する救難信号というのは不自然だ。今自分が動かしている輸送船みたいな民間船用救難信号なら、デブリを拾って売り払うために来たらエンジンが故障した、とか考えられるのだが。


(護衛機がエンジン故障したとか?)


 ……ちょっと考えたが微妙だ。仮にそうなったとして、単独で置いていくことは無いだろう。機体を牽引するとか、どうしても動かせないのならパイロットを回収するはず。わざわざパイロットを置いて救難信号を出す理由は無い。


(なんかの罠とか)


 それもどうだろう。さっきも言った通りこの周囲を通行する艦船は少ない、誰をどう罠にかけるというのか。俺をおびき寄せるとか?とちょっと調子に乗った考えをしてみたが、一々おびき寄せなくても直接押しかければいいだけだしまあ無さそう。


 もしくは例えば暗殺など特定の相手を誘き出して攻撃したとか?……いや、それなら救難信号を出し続けられるような状態で放置する意味は薄い、物騒な話だがちゃんと念入りに撃墜を確認するだろう。


(うーん駄目だわからん)


 考えてもそれっぽい考えは浮かばず。やっぱり救難信号を発した本人と話す他無さそうだ。








 出航から55時間と30分が経過した。救難信号の座標もしっかりと算出し、今は巡行モードを切って徐々に近づいているところだ。


(ここから約243km……てかまたデブリが多いなこの辺は)


 少し前からまたデブリが増えており、ステーション周辺ほどじゃないにしろゴミだらけの宙域だ。うちの宙域に浮かんでいるデブリと細部が一致しているものがあるから、多分これも中国製なのだろう。


(えー……あとはここから直進……)


 推定戦艦級のデブリの裏に回ったところから、レーダーに示された信号発生地点までは大きめのデブリが無い。まっすぐ進んでいけばOKだ。


(そろそろのはずだが……あ、応答信号忘れてるじゃん)


 救難信号に対して応答信号を出す事で、救難信号を出してる人は反応が届き助けが来たことを知れる。これをしないと近づいても助けなのかそれとも追剥ぎなのかがわからないので、ほんとはもっと前に出さなきゃいけないんだが……普通に忘れていた。気分が高揚しているからか?本当こういうガバはよくない。


(応答信号発信。信号元も結構近づいてきたな)


 内心ワクワクしながら発信元へ向かう。そろそろ見えてくるはずだが……ん?


(……まさか、あれか?)


 驚愕が俺を襲う。


 胸部が膨らんだ、恐らくコックピットがあるであろうゴツい胴。そこから繋がる、大型のブースターを付け根に装着された脚部。手首から先が無いが、ゴツゴツとした装甲に覆われた腕部。


 そしてラインアイが特徴的な、ヘルメット状の頭部。


(人型兵器だぁーーーー!!?)


 自身の生きていた時代には創作としか存在し得なかったそれを前に、テンションが急騰するのであった。

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