8話:救難信号

(ん?)


 宇宙ステーションとして目覚めてから41日目。スクラップ工場を動かしつつ各モジュールの修理経過を確認していたところ、初めてとなる外部からの信号をキャッチした。これはなんぞや、と脳内データベースを検索してみる。


(えーと……日本皇国所属小型機の救難信号!?)


 なんとびっくり、信号の正体は日本所属の戦闘機による広域救難信号の波長だというのだ。


 これは幸運と言って差し支えないだろう。ここまで一人たりとも人間に会うことが出来ていなかったのが、初めて会える(かもしれない)のが日本の人間だというのだ。皇国というのが気になるが……500年もすれば国名の変化があるのは当然といえば当然か。そのうち歴史書みたいなのが欲しいところだ。


 すぐさま救助に向かおうというところで気づく。


(どうやって?)


 先に言った通り俺は宇宙ステーション、自分で移動する方法など無い。となれば、ここで作った機体や船を救助に向かわせることになるだろう。


(普通に考えれば輸送船を送るんだろうけど)


 ここで問題がある。


 今この宇宙ステーションに存在する艦船は、機能修復した第一工廠で比較的形の残っていた残骸から修復した旧型の小型輸送船が2機のみ。この旧型というのが問題で、こいつは小型コンテナを4つ背負ったヒラメみたいな形状をしている。この輸送船はあくまで物資運搬用であり、戦闘機を収納するスペースが無いのだ。


(機体を捨ててパイロットだけ助けるっていうのも、手段としてはあるんだろうけど)


 戦闘機ごと漂流しているのなら、それを解析して今このステーションで製作できる機体よりも戦闘力の高い機体が作れるかもしれない。なので助けるなら機体ごと助けたいのだが。


 先にパイロットを助けた後に機体回収の手筈が整ったら改めて向かわせるっていうのもありだから……そうだな、もう小型輸送船は1隻向かわせておこう。推定パイロットだけでも回収しなければ。水と大気、食料を積み込み次第出発させよう。人命がかかっているんだ、拙速を貴ぶべき。


(機体の回収はどうするか……あれに手を付けるか?)


 この宙域に浮いているデブリはどれもこれもが破片というわけではなく、船体の大部分を残したまま浮いている物も存在する。今使っている小型輸送船もそんな感じのものをドローン4機がかりで引っ張ってきて工廠で修復したのだ。修復して艦として使うかスクラップにしてモジュールの修復に使うかはデブリごとに逐一チェックしており、原型がそこそこ残っている物は修復にどれだけの時間と資材が必要かも含めてキープしてある。そのキープした中には中型輸送船も残っており、必要なタイミングが出来たら修復しようと思っていたのだが。


(いつがそのタイミングかって、今でしょうよ)


 そうと決まれば早速取り掛かることとする。

もう1隻の輸送船とドローンを使って工廠に引っ張って、倉庫に溜めた資材を輸送輸送&輸送だ。目を付けていた中型輸送船の残骸はブリッジに大穴が開いている他船体に着弾による傷が見られるものの、ブリッジ以外の精密機器やエンジンといった部品はほとんど破損が見られない。ブリッジにいた人間がどうなったかは、デブリに混ざってそこかしこに浮かんでる破損して中身が見えたり見えなかったりする宇宙服を見れば推して知るべしではあるが……。


(やめやめ、さっさと修復して機体を回収に向かわせよう)


 倉庫にあるGR基盤と修復用ナノマシンで内部機器の破損を直して、ブリッジを覆う防弾強化ガラスは全面張り直しで、装甲は……上から溶接でいいか。完璧に修復する必要はあるまい。


 ざっくり70時間といったところか。早いのか遅いのかわからんが……船直すのに約3日なら早いんだろうか。


 中型船に手をつけるとなると工数もかなり多いし、作業ドローンを先に増やすのもありだな。作業ドローンはかなり設計が簡素な上に工廠内に生産ラインが設けられているので、並行作業でも1機辺り4時間もあれば作れる。6機は欲しいところか。


(どんな人だろうなー)


 救難信号を出した推定パイロットに思いを馳せる。


 ……人間だよね? 500年の間に人類は進化して腕とか目玉が増えたりしてないよね?

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