5話:悩み

「レポートを確認しました。精査が済み次第報酬をお支払いしますので、それまでは『天麩羅』への滞在をお願いいたします。精査終了後そちらの端末に連絡を入れますので、確認後お越しください」

「わかりました」

「それでは本日は以上となります」


 頭を下げる受付嬢さんの下を後にする。この受付嬢さんは美人なのだが鉄面皮のおかげで人気があまり無いため受付まで早く、また冷たい印象が強いもののそのイメージ通り? 仕事が早く正確だ。

フレッジリングの旗揚げからずっとお世話になっている人なので、もう少し打ち解けたいとは思っているのだが……仕事一筋を邪魔するのも忍びない。


「んー、まあ予想通りだったがすぐには支払われんよなぁ」

「検査がザルだったら信用問題だ、仕方ないさ」

「相変わらずうちの団長殿は真面目だねぇ」

「誰に向けて言っているんだ、副団長殿」


 隣を歩くラークと共にこの第四受付通路を歩くのも何度目だろうか。旗揚げから3年。幸いなことに大きな怪我も無く依頼完了を積み重ね、順調に規模を大きくできている。

犠牲無し、依頼達成率90%越え、そしてわずか3年でCランクに到達した凄腕として他の傭兵団からも一目置かれる立場だ。実際のところは実力で熟せる範囲の依頼しか選んでないだけだし、緊急性のあるものでも自身らの手に負えないとなれば即座に依頼を破棄してるから犠牲が出ていないだけだが。


「おっ、チキン達のお帰りだぞ!」

「いつも小金稼ぎご苦労なこった!」


 おかげで口さがない者からは揶揄われることも茶飯事だ。わざわざ通路から出てきてすぐに声をかけてくる辺り出待ちだろう。

暇で何よりだと思いながら視界に入れずに通り過ぎてやれば、つまらなそうに舌打ちをしながら離れていく。嫌味を言う暇があったら機雷除去依頼の一つや二つ熟せばいいものを。


「この後は?」

「とりあえず依頼を見に。そちらは自由行動で構わないが」

「なら依頼を見たあとに、飲みにでも繰り出しますかねぇ」

「助かる」


 連れ立って、依頼をまとめて表示した端末を借りに向かう。ひどく前時代的なことに依頼はギルドが用意した専用端末を介してのみ閲覧できる。面倒だが、機密保持的には仕方ないことなんだろうな。

金があれば専用端末をプライベート用に購入することもできるのだが、中々そこまでたどり着くのは難しい。ある意味では専用端末を購入するというのはそこまで組織を大きくしたという証でもあり、傭兵団の憧れの一つとなっていたりする。

かくいう俺もその一人で、いつかはフレッジリングで専用の依頼端末を購入したいとは思っているのだが……最近は資金が上手く貯まらなくなってきて難しいところだ。


 端末貸出申請はすぐに受理された。ここ一年ほどスターリとの戦争があってか八龙側からの宙賊の動きが激しく、日本宙域に機雷を仕掛けたり輸送船を襲う事案が頻発していた。八龙が宙賊に指示を出してやらせているなんてのはよく噂で言われるが……実態はどうだかな。


「どんなもんよ?」

「機雷の駆除依頼が大半だ。最近は『天麩羅』が活発だからか、討伐依頼やそれに準ずるものが減ってきたような気はするな」

「いいことじゃねぇの、俺らの食いっぱぐれさえなけりゃあだが」

「そう言うな」


 情勢が落ち着いてきているのは平和になってきていていいことなのだろうが……さっきも言った通り最近は資金繰りが少し苦しくなってきたのも確かだ。

類い稀なる幸運もあって中型輸送船、戦闘機、そして何よりギアハルクを戦力として運用できているが、メンテはギルドに金を払わなければならないし、ハイウェイでの運賃も個人戦闘機で乗ってたり小型輸送船をレンタルしていた時より大きく上がっている。

もちろん人員が増えた分だけ食費を始めとした雑費だって多くなってきているし、正直なところ今は結構ギリギリな状態だ。


 ギアハルクや戦闘機、艦船を複数運用できるほどの大きな傭兵団というのは依頼で稼ぐだけでは到底足りず、なんらかのビジネスに手を出すのが基本だ。

例えば『セオリー』のようにどこかの企業の専属になって、護衛依頼や自社製品のテストを一手に引き受ける。

例えば『文殊』のように採掘業を営みそちらでの利益を運用の中心とする。

『クラウドヘヴン』や『羽田傭兵団』のように、表沙汰にはしていないものの非合法な組織と繋がっていることも珍しくない。


 何か別の、安定した収入を探すべきタイミングではあるのだが実際のところとっかかりが無いし……それに……。

……どうしたものかな。

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