4話:とある宙域の一幕
日本圏宙域周辺で略奪と横流しを生業とする宙賊の中でも、旗揚げから比較的順調に上手く行っていた部類だったと自負している。たかが5人で大きなコトは成しえないとしてさっさと大集団の端くれに加えてもらって、稼ぎの一部を納める代わりにある程度装備や襲う相手の選び方なんぞの宙賊としての基礎を教えてもらい、他の野心溢れるようなやつがやりたがらない、彼らに言わせればせせこましい仕事を主に少しずつ稼ぎを蓄えていった。
今日もその「せせこましい仕事」の一つのはずだった。護衛も付いてないような中型輸送船。その速度は遅くさぞかしいいものを溜め込んでると容易に想像できるそれを襲うために、ブーストモードで一気に接近しようとした矢先だった。
突然の爆発が至近で発生し機体を揺らす。数瞬の空白と共にそれが敵の攻撃であること、そして旗揚げからずっとともに過ごした仲間の一人の死であると理解させられた。
軽戦闘機とはいえ、それをシールドの上から一撃で粉砕するなど並の武器ではない。その正体は傘の裏からすぐに現れた。
「ギアハルク!? しかも2機だと!?」
「これは駄目だ、 散会し宙域を離脱! 例の場所で落ち合うぞ!」
「くそ!ファンの仇は取って……うおっ!?」
「撃ってくる!」
「離脱だ! 離脱しろ!」
黒にカラーリングされたサンライズ、ホワイトにカラーリングされた旭。軍で正式採用されているギアハルクを2機も保有している推定PMCなんて俺たちの手に余りすぎる相手だ。いつの間にか近づいてきた白の旭フレームから放たれた散弾が降り注ぐ。それなりに距離はあるはずだが拡散率が低い為かシールドの損耗が馬鹿にならない。
さっさと回頭し離脱を図る、ところで更に警告音が鳴った。
「なんだ!?」
回避機動を取りながらレーダーに目を向ければ、敵輸送船から4機の戦闘機が飛び立ったようだった。
「ふざけやがって、ギアハルク2機に戦闘機4機抱えてるようなデカいPMCがなんだってこんな辺境で網張ってやがんだ!」
「口より手を、ッ!」
爆発音。また一人やられた。
敵戦闘機からパルス弾が降り注ぎ、被弾するごとにシールド耐久値が目に見えて減少していく。武装のグレードも間に合わせではなくきちんとしたものを装備しているようだ。ふざけやがって。忸怩たる思いを抱えながらも一目散にブーストを放ち駆使してようやく引き剥す。違法チューン様様だ。
「巡行モード……!」
小惑星に隠れ巡行モードを起動する。数秒の加速を挟み一気に秒速2000メートルにまで到達する巡行モード。ここまで来れば安心だ。
ファンとパクが死んで、俺の機体もボロボロ。立て直しには時間がかかりそうだ。悲しいし悔しいが、それは後にしないといけない。俺らは、こんなところで死なない。また地道にやって、少しずつ……。
そこで、俺の意識は消えた。
傭兵ギルド所属宇宙ステーション『天麩羅』。
日本宙域の比較的外縁に位置する塔型宇宙ステーションであり、日本宙域とそれに面する中国宙域の境目にほど近く、そして日米の両宙域を繋ぐスペースハイウェイ『スターダスト』の始点が設置してある交通の要衝周辺に位置している。その立地の都合非常に活気があるステーションとして有名であり、傭兵だけでなく取引をする企業やコロニーからの民間船などで昼夜問わずにごった返している。
「ドッキング許可下りました!」
「了解、誘導灯に従ってドッキング開始」
「了解。ドッキング開始!」
「ようやくかぁ、今回は長かったなぁ団長」
「ああ」
俺ことソラル・B・鷹野率いる傭兵団『フレッジリング』は海賊討伐の依頼をどうにか熟し、1か月ぶりに『天麩羅』へと帰還していた。
今回のターゲットはスターダストの中間宙域である宙域A-04463、通称『宝の山』周辺で活動するものだった。5機の編隊で常に行動し、護衛戦力の付いていない単独で航行する輸送船のみを襲うのが特徴で、その性質上輸送船では対処不能だが、戦闘用艦船と一緒に行動したり護衛機を付けているとそもそも現れず対処が面倒な海賊だった。
全ての輸送船に護衛を付けるのはコストの都合で現実的では無い。そのため艦載機を載せた輸送船を単独航行させ誘き出して一気に壊滅させるプランが採用され、その一員として依頼を受けたのが1か月前。周辺宙域の地形把握、次の襲撃予測ポイントの設定から実際の襲撃までかなりの手間と時間がかかった依頼だったが、エネルギーの補充を依頼主側で受け持ってくれた分消耗はかなり少なく済んだ。
「なんだかんだで1ヶ月もかかるとはなぁ、この手の依頼はしんどいぜ」
「撃墜機が高く売れることを祈りましょうかー」
「ああ。窓口にはいつも通り俺とラークで行く。ユキは宿泊施設の確保、他は解散し自由行動だ」
「さっすが団長話がわかる!」
依頼完了の手続きは時間がかかりがちだ。今回はすぐ終わるといいんだが……。
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