第1話

「やばい…やばい…やばい…!!!」

森の中を全力で走る青年、木の根っこが所々浮いているため足場が非常に悪く本来なら走るような場所ではないのだが、後ろの「それ」が一切許してくれない。

大地を揺るがしながら後ろを追いかけてくる大きな影、轟音響かせながら戦車のごとく木々をなぎ倒していくそれは、

「あんっなでっかくなったグラスボアがいるなんて聞いてないぞ!!」

グラスボアと呼ばれる体長4、5mはある大猪、それが青年を全力で追い立てていた。

「くっそ!」

足を止めることなく背中から矢を取り弓に番える。

後ろを向き一瞬で相手との距離を把握しそのまま弓を放つ。

常人ではなかなか難しい芸当であるが青年は自信があった。

1つ、的が大きいこと

2つ、動きが直線的で予測しやすいこと

そして…

「弓の腕なら誰よりも優れていること!」

風を裂くように放った矢はボアの足に刺さる。が

「ちょちょちょ!止まる気配ないんだけどぉ!」

再度走り出そうとしたとき、前に2人のフードを被った男女がいた

このままだと巻き込んじまう…!

「おい!そこの2人さっさと逃げろ!」


そのうちの少女はこちらを見一言

「ほう、グレートボア…に見えるが違うな、久々に来たからか奴らも進化してるか」

パチンと背中から一冊の本を取り出し開き

「・・・!」

・・・今なにか喋った?

とその瞬間後ろから猛スピードで突っ込んできていたグラスボアが前転の要領で吹っ飛んでいた。

「アイン、血抜きはしっかりな、鮮度を保たなければ味が落ちる。」

「・・・食用と決まった訳ではないのにもう飯の気分か、フン!」

グラスボアは青年の頭上を通過するように吹っ飛び、前にいた男が腰に下げていた剣で首元を掻っ切る。

その剣筋は的確に急所、毛が薄く大きな血管が通っている場所を捉えていた。

一撃必殺、まさにそれに相応しい太刀筋。

「すっげぇ・・・!」

途端の出来事や先程までの全力疾走のせいか膝から崩れ落ちその場に座り込んでしまう青年。

そこにさっきの女性が近づく。

「大丈夫か?少年、パッと見ケガとかは無さそうだが、立てるか?」

「あ、あぁすまん、助かったよ。でも今の戦車みたいなグラスボアをぶっ倒すなんて、お姉さん達何者だ?」

「名前を聞く時はまず自分から名乗るのが礼儀だとは思うが、まぁ構わん」

「私の名前はグレイシア・エーデルハイム、グレイと呼べばいいさ」

青年を引っ張り上げつつフードを外し女性は''グレイ''と名乗った。

青年はその姿を見て驚き感嘆した。

白く雪のような髪、赤く輝く宝石のような目、さっきまではフードを被っていたからか見えなかったが、

この女性、顔がいい!

「うっわ、めっちゃ美人・・・!」

「褒め言葉として受け取っておこう、さて私は名乗ったのだ、少年の名前は?」

「あ、あぁ!俺はネイト!この森から出てすぐのアカシ村に住んでいる。」

「そうか、ネイトか、覚えておこう。」

「ちなみにあっちで血抜きやら処理をしている私の連れがアインだ。」

「・・・」

男は黙々と先程のグラスボアの処理をしていた。

「このデカさ、私たちで食べきれないことは無いが・・・ネイトよ、2つ程質問がある」

え?このデカさを2人で食うの?どう考えてもその体に入り切らんだろ?

きちんと保存すれば1年は肉に困らんぞこの量。

と、考えを巡らしながら何とか返事を返す。

「な、何さ?」

「1つ、こいつの肉は食えるか?2つこの近くに村があると言っていたが案内してもらうことはできるか?」

「あぁ、グラスボアの肉は食える、煮る焼く蒸すなんでもありだ」

「そして村に案内することは出来る、がグラスボアはどうすんだ?いくら処理してもこの量は運ぶの難しいぞ?」

「構わん、私とアインで運ぶ」

嘘だろ?ざっと見積もってもウン1000キロはあるぞ?それをたった2人で運ぶってか?

「冗談きついぜ、グレイさんよ?村の男全員で引っ張るのが関の山だろ?すぐ呼んできてやるからここで待っ、て・・・」

ズゥンと大きな音がしてその方向を向くとさっきのアインという男が片手でグラスボアを抱えていた、いやどうなってんだ化け物か?ってか化け物だろこれ?

「おや、アイン1人で済みそうか、さすがだな」

このグレイと言う女もニコニコしながら見てる。

おかしいのは俺なのか?それとも夢でも見ているのか?

「ではネイトよ案内を頼むぞ」

「・・・案内するよ、着いてきて」


俺は考えるのをやめた

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