§027 食事
「うわぁぁあー/////」
私は目の前に並んだ料理の数々に、思わず歓喜の声を上げてしまいました。
まず、ハルトが手渡してきたのが、ぐつぐつと煮えた鍋から掬い上げられたとろみを帯びたシチュー。
色は濃厚なチーズを思わせる黄色みがかった白色。
中にはジャガイモ、ニンジン、ブロッコリーなどの色とりどりの野菜がゴロゴロと転がり、立ち昇る湯気からはほんのりとミルクの香りがします。
まだ食べてもいないのに、その香りだけで私の口の中は甘い味でいっぱい。
私はこの熱々のシチューをはふはふしながら頬張る自分を想像して、思わず生唾を飲み込みます。
次にハルトが手渡してきたのが、本日のメインとも言える料理。
そう、待ちに待ったジャイアントボアの香草焼きです。
顔ほどもある大きさの葉っぱに包まれたジャイアントボアの肉。
私はその重量感を楽しみつつ包んであった葉っぱを丁寧に解くと、ついには肉厚な脂身が姿を現します。
ほどよい焼き加減で燻された肉には細かく刻まれた色とりどりの香草が振りかけられ、それが溢れ出る肉汁と相まって、まるで宝石のように輝いています。
こんな美味しそうなお肉を見るのは生まれて初めてかもしれません。
私はもう涎を押さえることができませんでした。
「早く食べましょう!」
「さっきまでのシリアスムードはどうしたんだよ、この腹ペコ女」
「腹ペコ女で構いません! それよりも早く!」
「(笑)。わかったよ。それでは」
「「いただきます!」」
私はまず白いスープの方を一口大よりもやや大きめのジャガイモと共に、口一杯に頬張ります。
「――!!」
「どうだ?」
「うっ、美っ味ぁぁああああ!」
私は天にも昇る心地の中、雄叫びに近い声を張り上げます。
ミルクと野菜の旨味を凝縮したかのようなほんのりと甘いスープ。
ほくほくとしたジャガイモは口の中でほっこりと蕩け、スープのまろやかさと相まって、口の中を自然な甘みで満たしてくれます。
ニンジン、ブロッコリー、タマネギ、ジャガイモ。
私はもうお行儀という言葉を忘れてしまったかのように、一心不乱にゴロゴロ野菜を掻き込みます。
「パンも合うと思うから浸して食べてみろよ」
ハルト……貴方は天才でしょうか。
すっかり胃袋を掴まれてしまった私は将来の旦那様に向けるかのような視線をハルトに送り、同時にパンを受け取ります。
私はパンを一口大にちぎり、それをじっくりシチューに浸すと、しっとりと口に運びます。
「うぅ~ん♡」
私はうっとりと恍惚の声を上げます。
至高。
なぜシチューとパンはこれほどまでに合うのでしょうか。
スープに浸されてひたひたとしたパンの食感もまた一興で、パン生地から染み出る甘味が引き立てられたシチューは格別です。
「ハルト。私、これが毎日食べられるならデブになるのも厭わない覚悟があります」
「アホ。料理もこれからは当番制だ。お前もこれからは料理するんだぞ」
「えー」
私は別に料理が苦手なわけではありません。
こう見えても300年前はパーティの料理は私が作っていましたし。
でも、ハルトの料理を毎日食べられないというのは……。
何となくわかっていただけるでしょうか。別に料理は嫌いじゃないけど、自分の料理はあまり食べたくないなーという気持ちが。
まあ、そんなことは明日考えればいい話です。
今は目の前の料理をとにかく楽しみたい。
そうして私は次にジャイアントボアの香草焼きに手を伸ばします。
ふわりと立ち昇ってくる香草の香り。
私はその香りを楽しみながら、そのまま一気に口に頬張ります。
「ふっまああぁぁぁぁぁ……」
私は脳天に突き抜けるほどの美味しさに、思わず気の抜けた声を出し、ついには脱力してしまいました。
どうやら私はこれを食べるために今日まで生き永らえたようです。
舌の上でとろける旨味成分に、香草のぴりぴりとした刺激。
昨日の思い出の味であるイッカクウサギの串焼きが霞んでしまうほどの美味です。
「仮に今死んだとして悔いはありません」
私は天にも昇る心地で頬を最大限に緩ませながら恍惚の表情を湛えます。
「大袈裟なやつだ。まあ、喜んでもらえてよかったよ。保存ができる道具の持ち合わせがないからどんどん食べていいぞ」
やっぱり自分の作った料理が美味しいと言ってもらえるのは嬉しいのでしょうか。
ハルトは私の反応を見て満足気に微笑みます。
ジャイアントボアからは大体5~10キロのお肉が取れます。
それを何の遠慮もなく食べていいとかここは天国でしょうか。
多少の量なら私の空間魔法――
もう少し私のレベルが上がって――
燻製にしてしまえば長持ちしますし、何よりこの美味しいお肉を好きな時に食べられると思うとそれだけで食事が楽しくなりそうです。
そんな構想を私はハルトに話します。
「燻製か。やったことはないが確かにありかもしれないな。今度試してみるか」
「そうしましょう! 名誉のために言っておきますが、私、こう見えて料理はできますからね!」
「はは、じゃあラフィーネが当番の時を楽しみにしてるよ」
「あっ、絶対疑ってますよね? 必ず『美味しい』って言わせてやるんですから!」
そう言って私がプリプリしながら肉を頬張っていると、ハルトが何かを思い出したように手を叩きました。
「どうされました?」
「そういえばラフィーネは鑑定魔法が使えたよな? あれって人以外にも有効なのか?」
「人以外? 無生物ということでしょうか? でしたら可能ですよ。
「そうか。ちょっとラフィーネに見てもらいたいものがあるんだけど」
「??」
そう言ってハルトが取り出したのは、袋一杯に詰められたキノコの山でした。
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